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63話 主人公の条件

 どういうこと!? そう叫びそうになったが、涙目な美羽ちゃんが目に映ったおかげでどうにか堪えることができて、ゆっくりと事情確認。


 昨日の小桜さんは帰宅するなり自室直行。そのまま一歩も部屋から出ず、翌日も学校を休み、美羽ちゃんが小学校から帰ってきても籠ったままで、夕食になっても部屋から出てくる気配がなく、心配になった美羽ちゃんが部屋を覗いてみたら、


「おねーちゃん、暗い部屋のすみでアーモンドチーズかじってたの」


 お、おう。

 ちょっと予想外だが、姉が部屋にこもってそんな奇行をしていたら不安に思うのは当然だろう。


「美羽が悪いのかな? 変なイタズラしたから」


 そんな弱音を吐いて、昨日と同じ吐きそうな顔になると、美羽ちゃんの体を強引に引っ張り、力強く抱きしめる。


「駄目だよおにーちゃん。今の美羽は我慢できないから、ゲロっちゃうよ?」

「別にいい。一緒にゲロ塗れになろう」

「えー、意味分かない」


 弱々しい声ながらも笑ってくれた美羽ちゃんの姿に、心がふるい立つ。

 ただでさえ事故の後遺症で弱っているのに、これ以上の負担はかけられない。


 思い出せ! 僕はこれまでに無数の物語を読んできたけど、こんな場面クライマックスで匙をブン投げた主人公は一人もいなかった。そして読者の予想を超えるブッ飛んだ方法で問題解決。中には「この展開は無理があるだろ」とファンレターで苦言を送りたくなる内容もあったけど、どんな困難だろうが弱気な姿を見せず、問答無用で突き進むから主人公なのだ。


 だからこの一瞬だけでいい。

 僕はこれから主人公になるんだ。


「美羽ちゃん、小桜さんと仲直りしたい?」

「……うん。したい」

「じゃあ僕が絶対に仲直りさせるから、安心していいよ」


 そう力強く答えて、美羽ちゃんが頷いてくれた。まだ顔色が悪いけど、それでもさっきまでと比べれば差は歴然だ。そしてこのタイミングで全てを解決させるアイディアが用意できていたら完璧だったけど、残念ながらそんなものは微塵も思い付かず、そもそも情報が無さ過ぎてどう動けばいいのか全然分からない。

 だから事情を知っている人に、洗いざらい白状してもらおう。


「とりあえず美羽ちゃんはそろそろお母さんが迎えに来るから、まずは心配させたことを謝ろうね」

「うん」

「そしてその後に聞き出してほしい。母親はともかく父親なら小桜さんの味覚障害について絶対に知ってるはずだから。家に帰ってから両親に問いただしてほしい」

「分かった。おねーちゃんの一大事って伝えて絶対に吐かせる」


 と、ついさっきまで吐きそうだったのが嘘みたいな威勢で豪語する美羽ちゃん。

 うん、やっぱり美羽ちゃんはこっちの方が美羽ちゃんらしい。


 それから程なくして美羽ちゃんのお母さんが到着。

 僕や看護師さんたちにペコペコと頭を下げてから帰っていった後、大きく一息つく。


 美羽ちゃんには明日来るように約束してある。

 なのでいまは吉報を待つだけだが、やれることならまだある。


 小桜さんについて知っている人に、もう一人の心当たりがあるからだ。

 そしてその人は僕が会いに行くまでもなく、向こうの方からこの病室に出向いてきたのである。

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