60話 姉妹の絆
「じゃじゃーん、二人でクッキー作ってみたよー」
保志先生が退室して間もなく、小学校帰りの美羽ちゃん・月山さんが来訪。
最近は頻繁にお見舞いに来てくれていて、雑談をしたり、ボードゲームをしたり、勉強を教えてたりな日々が続いている。
そして最近は調理にハマっている様で、色々な料理にチャレンジ中だそうだ。
「食べて食べてー、おねーちゃんの差し入れあるけど、もう飽きちゃったよね?」
「そんなことないよ。小桜さんのお見舞いは毎日ありがたくいただいてるから」
得意気にクッキー袋を見せびらかす美羽ちゃんに、月山さんが感心しながら尋ねる。
「お姉さん、毎日差し入れしてるんですか?」
「うん、毎日何かしらね」
お見舞い品をありがたく受け取るのが患者の義務だけど、流石に申し訳ないのでもう断りした方がいいのかもしれない。
「それよりクッキー美味しそうだね。ではさっそく」
そう言って手を伸ばすと、美羽ちゃんの手が後ろに下がって空振り。
そして月山さんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「ごめんなさい。美羽のお姉さんが来るまで待ってくれませんか?」
「全然構わないけど、何で?」
そう聞くと、美羽ちゃんがそっぽを向いてら渋々な感じで答える。
「いい加減、仲直りした方がいいかなーって」
そんな可愛い意地っ張りに失笑しながら納得。
小桜さんと話し合おうと思っていたけど、その前に妹との仲直りを優先した方がいいだろう。
そう思っていたら、2人がヒソヒソ話をしていることに気づく。
「美羽、本当にアレを食べさせるの?」
「大丈夫。お茶目心は必要だし、おねーちゃんすっごい小食だけど何でも美味しいって言うから」
どうやら何か企んでいるらしい。
だけど他愛もないイタズラっぽいしスルーでいいだろうけど、少しだけ気になったので追及する。
「小桜さん、かなり痩せてるけど、ちゃんと食べてるよね?」
「確かにおねーちゃんは小食でもっと食べた方がいいと思うけど、朝と夜は美羽の料理食べてるし、お昼もコンビニで何か買って食べてるはずだよ」
それなら大丈夫かな。
小桜さんの体重が軽いと保志先生が心配していたけど、女子が体重を気にして小食なのは珍しいことではないので杞憂と安堵していたら、月山さんが驚いた様子で美羽ちゃんに尋ねる。
「美羽、家の料理まで作ってるの?」
「簡単なやつだけね。昔から料理やってるし、最近は一人じゃないからやりがいもあるからね。それにおねーちゃんは料理失敗した時も美味しいって励ましてくれて、だから頑張って本当に美味しくして、それで仲良くなれたんだ」
「あれ? 美羽は前にもお姉さんと喧嘩してたの?」
「えっ? ……ああっ! うんまぁそんな感じ!」
まるで昔は一人っ子だった様な物言いに、不思議そうに質問をした月山さんを慌てて否定をする美羽ちゃん。
実際、小桜家は一年前に再婚で、親に再婚・義姉妹の件は伏せろと言われているのだろう。
親友の月山さんなら話してもいい気がするけど、とりあえずここは話題を変えよう。
「小桜さん、美羽ちゃんの料理好きなの?」
「うん。いつも美味しいって言ってくれて、料理がおねーちゃんとの絆だから」
「だからクッキーを?」
「そうだよ。お菓子は初めてで不安だったけど、萌香と一緒だから上手くできたんだー」
得意気に美羽ちゃんが唸ってから、全力で謙遜する月山さん。
そうして美羽ちゃんがクッキー袋を誇らしげに掲げていると病室の扉が開いて、遂に小桜さんが到着する。
「いらっしゃい小桜さん」
いつも通りの挨拶してから小桜さんがこちらを見ると、正面を向いたまま普段座っている椅子に着席。美羽ちゃんたちがいると遠慮して後ろに座るのが恒例だけど、今日は普段とは違う違和感があり、それが何なのか考えていたら、
「あれ? おねーちゃん今日のお見舞いは?」
「そういえば、いつもならすぐ渡してましたよね?」
美羽ちゃんの指摘に頷きながら小桜さんを見ると、普段から喋らない小桜さんが言葉に詰まっていたので、慌てて言葉を濁す。
「あーいえ! 別にお見舞いの催促ではなく、勿論手ぶらでOKですよ。それに今後も無理して持ってこなくていいですからね」
「それに今日は私がお見舞い持ってきたから大丈夫だよおねーちゃん。
はいこれ。みんなで食べよー」
そうしてクッキー袋を全員に贈呈。
僕も月山さんからクッキーを受け取ったけど、とても美味しそうな仕上がりで、実際に食べてみたらやっぱり美味しかった。
手作り特有のサクサク触感があり、焼き立ての香ばしい匂いがほのかに残っているのもポイントが高い。
そんな味に作った美羽ちゃん・月山さんも満足そうに食べているのだけど、肝心の小桜さんがなぜかクッキーとにらめっこをしている。
「どうかしたんですか小桜さん、美味しいですよ?」
「…………美味しい?」
「はい、とっても」
そう素直に答えると、ようやく小桜さんも食べ始める。
モグモグと慎重に、しっかりと味わうように何度も噛んでからクッキーを飲み込む。
「…………美味しい」
この反応に美羽ちゃんも嬉しがると思いきや、不思議そうな顔をしていることに気付く。
「おねーちゃん、本当に美味しい?」
「…………美味しい」
改めて確認をする美羽ちゃんに、小桜さんがもう一度回答。
これがどういう意図か分からずにいたら、月山さんが小声で話してくれたのだ。




