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49話 花束

「おっ、お久しぶりです。お兄さん!」


 月山さんが再びお見舞いに来訪。相変わらず美羽ちゃんの背後に隠れているけど、前回とは違うところが1つある。手に大きな花束を持っているのだ。


 それから美羽ちゃんに諭されながら月山さんが前に出ると、顔を真っ赤にしながら花束を差し出してくる。


「こっ、ここここれ受け取ってくりゃ……、ごめんなさい!」


 あまりの緊張で噛んでしまい、花束を渡されないまま美羽ちゃんの背後に帰還。そのまま恥ずかしそうな涙目で僕を見る月山さんに、美羽ちゃんがやれやれという感じで僕を見ながら溜息を吐いてから、


「おにーちゃーん。もっと紳士的にフォローしてよー」

「僕のせいなの!?」


 電光石火の自爆にまさかのクレーム。

 今のは英国紳士でも無理だよね?


 それから美羽ちゃんが強引に月山さんを引っ張り出して、ペコペコと頭を下げながら花束を受け取りました。


「ごめんなさい。前のお見舞いが手ぶらだったので、お詫びも兼ねて学校帰りにお花屋さんに寄ったんですけど、男の人にお花をプレゼントなんて初めてで、どんどん恥ずかしくなってしまって」


 異性に花束プレゼントなんて誰でも恥ずかしいはずで、緊張せずに渡すのは至難の業で間違いないだろう。そうして花束を受け取ると、美羽ちゃんがキョロキョロと病室を見渡しながら答える。


「あれ? 病室なのに花瓶ないの?」


 病室にお見舞いの花を飾る。

 誰もが抱くイメージで間違いないのだけど、


「最近の病院は、花瓶を置かない方針らしいよ」

「えっ、なんで?」

「昔はよく飾られていたらしいけど、僕みたいにベッドから動けない患者さんはお水交換ができなくて枯らしちゃうケースが多発らしいから」

「えー、それくらい看護師さんがやってくれれば」

「僕もそう思ったけど、森谷さん曰く“看護師は死ぬ程忙しいから100以上ある病床数のお花管理までやってられない。しかもナースコールで呼び出されて『折角のお花が枯れそうなの。早くお水交換してよも~。全く気か聞かないわね~』って愚痴られてキレそうになったって言ってたから」


 この意見に「うわぁ…」と漏らす美羽ちゃん。

 理想はお見舞い人がお水交換だけど、それができるのはごく一部だ。


 中には病院内にお花屋さんがあって、店員が定期的に各病室に出向いてお花管理までしてくれる場合があるらしいけど、大概は看護師にしわ寄せで、そんな経緯と看護師からのクレームでお見舞いのお花は減少傾向らしい。


「それでも病人としては、お花が貰えるのは嬉し……、あれ?」


 手元にあったはずの花束がいつの間にか消えていて、どういうことかと周りを見てみたら、そこには涙目で花束を取り戻した月山さんが居て、


「ごめんなさいごめんなさい! そうとは知らずご迷惑なプレゼントをしてしまって!」

「待って! 全然気にしなくていいし、ほんと嬉しかったから!」


 全力謝罪に全身全霊で対応。

 女の子からの純粋な善意になんつー無慈悲な対応しちゃったの僕!?


「このお花は家に持って帰ってから処分しますので許して下さい!」

「せつな過ぎるからやめて下さい! そういう病院事情があるってだけで、月山さんから花束は本当に嬉しかったから!」

「おにーちゃん。その花束は私と萌香がおこずかいを出し合って買ってきたんだけど」

「美羽ちゃんも本当にありがとう! 二人とも大好き!」


 両手を伸ばして二人の手を掴んだあと、無理やりな賛辞を並べながら強引に抱きしめる。

 びっくりな美羽ちゃんと、どぎまぎする月山さん。

 女の子を抱きしめるのは生まれて初めて、しかも両手に花という状態で、例えそれが小学生だとしても緊張してしまう。しかも月山さんは小学生とは思えない大人びた容姿だ。


 小柄な美羽ちゃんは抱き寄せた腕にすっぽりと収まるから癒し効果抜群だけど、月山さんは別に変な所を触っている訳じゃないのに女の子ではなく女性として柔らかいというか、こちらの体臭は大丈夫か物凄く気になってしまい、何か優しい言葉をかけてあげるべきかと思考が巡りっぱなしで、本人もビクビクと頬を赤らめながらも無抵抗な様子に、守ってあげたいと心の奥底から湧き上がってきた純粋な気持ちに従おうとしたら……、


 パシャ! (スマホのシャッター音)


 ビクッとしてから音がした方を見てみると、そこには椅子に座りながらスマホを構える小桜さんが居たのである。


 やばっ、小桜さんいるの忘れてた。


 知っての通り小桜さんは口数が少なく、しかも他者と話している時は後方で話を聞いているケースがほとんどで、しかも気配まで消すから存在を忘れ勝ちになってしまうのだ。


「小桜さん。どうして写真を?」


 返答はいつも通りの無言だけど、今回ばかりは何か答えてほしかった。

 この無回答に、これまでの人生で体験したことのない焦りとは似て非なる未知の感情が襲いかかってくる。


「えーっと、二人ともごめんね。急に抱き着いちゃって」

「こっ、こちらこそごめんなさいです」


 愛想笑いで誤魔化しながら抱き付きを解くと、月山さんも同じく愛想笑い。

 お互いにどう反応していいか分からない様子で、小学生の月山さんはまだしも、高校生の自分がこれでは情けないので、せめてこの場をまとめるくらいはしないと。


「とにかくこの花束はありがたく受け取らせていただきます。それにこの病室には見ての通り植物が沢山あるから」

「そうですね。よく見れば窓際にサボテンが、ええっと……、14個ありますね」


 そうなのだ。

 月山さんが言った通り、この病室では一日一個、いまもなおサボテンが増え続けているのだ。


「あと美羽ちゃん。いつまで僕に抱き着いてるの?」

「べっつにー」


 そして小桜さんの話題を出せばこうなってしまう。

 意地を張るように、姉の小桜さんに見せつけるように美羽ちゃんが甘えてきて、当の小桜さんはガン無視という有様だ。


 美羽ちゃんと一緒に謝罪してから一週間が経過。

 事態は収束どころか、姉妹喧嘩にまで発展してしまったのである。

 病室は余分なスペースがないので、花束も含めて場所を取るものがNGです。あと退院時に大量の花があると、処分が大変だそうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] おや、一件落着するかと思いきや。妹は姉をたきつけようとしているのかな。 そういえば、最近花ってあんまり見なかったような。見舞いできないので持って行きようもなかったでしょうが。昨年北里に見舞…
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