43話 物語の主人公
「それは……」
教えてあげたいけど、教えられない。
こんな内容を小学生に説明できないって理由もあるけど、僕は美羽ちゃんの家族じゃないから、ペラペラ喋る訳にはいかないのだ。
そうして黙り込んでいると、月山さんが僕の胸から離れる。
「無理を言ってごめんなさい」
力なく答えて立ち上がる月山さん。
そしてそのまま帰ろうとした背中に手を伸ばして、気付いたら強引に抱きしめていたのだ。
「ふえっ!? あ、あの?」
「ごめん。事情は話せないけど、月山さんは間違いなく美羽ちゃんの支えになってる。それは保障するから」
「でも私、美羽に助けられてばっかりで」
「そうかもしれないけど、美羽ちゃんは月山さんのことを親友って言ってたよ」
「え? 本当ですか?」
「うん。それに美羽ちゃんも転校でクラスに知っている人が誰も居なくて、すぐに友達になってくれた月山さんに、きっと感謝してるはずだよ」
僕に引っ越し経験はないけど、転校生と友達になったことならある。
そいつは北海道から来た奴で、僕はただ興味津々に北海道がどんな所だったかを聞いてみたり、この辺りの名所を教えたりして友達になっただけなのにメチャクチャ感謝されて、そんな心境話をしてくれたのだ。
だから多少の苦労はあったのかもしれないけど、きっと美羽ちゃんは月山さんを嫌ったりはしていない。
「それに月山さんは、美羽ちゃんが吐いてからも、そばに居るんだよね」
「はい。美羽が心配なので」
「それは美羽ちゃんにとって凄くありがたいことで、支えにになっている筈だよ。だから月山さんはもう充分に美羽ちゃんの助けになってるから」
ゲロ女と揶揄されている以上、美羽ちゃんはつらい立場に立たされている。
だけど僕が知っている美羽ちゃんは明るい子で、ゲロは吐いても弱音を吐いたことは一度もない。
その理由は頼れる姉や家族の存在だけでなく、自分を信頼してくれているクラスメイトの存在が大きかったのは間違いない。
それに僕も一人で入院生活だったら、心が折れていたかもしれない。
ほんと、小桜さんには感謝しないとね。
そんな励ましに、月山さんが涙を浮かべながら聞いてくる。
「本当ですか? 私、美羽の役に立ってますか?」
「間違いなく立ってる。僕が保証する。だから月山さんはこれからも美羽ちゃんのそばに居てあげてほしい。それが今の美羽ちゃんにとって、一番必要なことだから」
「いいんですか? こんな役立たずで、勇気もない私でも」
「月山さんは役立たずじゃないし勇気だってあるよ。その証拠にほら、月山さんは今まさに知らない病院に来て、他人だった僕と話をしている。この行動力は凄いことだよ」
「そんな……、私はただ美羽が……、美羽が心配だっただけで……」
「そんなの関係ない。だから改めて言うよ。今日はお見舞いに来てくれて、本当にありがとう」
「あの……、その……、うええええええん! ごめんなさーーい!」
そうして泣きだしてしまった月山さんの頭を、優しく撫で続ける。
見た目は大人っぽいけど、中身は10歳の女の子だな。
因みに今までの言葉は、過去に読んだ小説の名場面・名台詞を総動員して切り貼りしたんだけど、小説の主人公みたいに格好良くまとめるのは難しい。
そして今現在、僕の胸で女の子が泣いているのだけど、ここからどうしよう。
僕が知っている主人公は、この展開から愛を語りだしたり、濃厚なキスをしたり、18禁な展開になるんだけど、小学生相手にそれはアウトで、もう引き出しが空っぽだ。
こんなことならハーレム展開なのに肝心な所でヘタレる系主人公ラノベを読んでおけばよかったと後悔しながら月山さんの頭を撫で続けていたら、
「あー! おにーちゃんが浮気してる!」
最悪のタイミングで小桜姉妹が戻ってきたのである。
小説・漫画・ドラマの名場面・名台詞から学べることって多いですよね。




