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35話 やってみたかったこと

 ……誰?


 僕の知っている小桜さんは前髪が長いもっさりボブヘアのメガネっ子だけど、いつも着用していた大きなメガネがなく、長かった前髪もバッサリで、最初は森谷さんの友達と思ったが、恥ずかしい時は下を向いて顔を赤らめる仕草、お見舞いの時に何度か見たゆったり白ニットと黒いロングスカート、そしてこの一ヵ月間ずっとそばで感じてきた雰囲気を、間違える訳がない。


「小桜さん、ですよね?」


 コクコク(首を縦に振る)


「ええっと……、髪切った?」


 ベチン!(森谷さん、僕の頭をはたく)


「羽生く~ん。君の目は節穴かな~?」

「すみません! ここは褒める場面って分かってましたが、気の利いた台詞が思い浮かばなくて」


 物凄い形相で睨んできた森谷さんに全力で釈明しゃくめい

 こういう時、躊躇ちゅうちょなく褒められる男がモテるんだろうなと思い知る。


「あの、これが“小桜さんのやってみたいこと”?」

「そうよ~。美夜ちゃんの変わりたいって気持ちに感動して、この願いが叶うように羽生くんにはっぱをかけて、今日は有給を取ってまで協力したんだからね~」


 そう豪語しながら小桜さんが書いたメモ用紙が渡されると、そこにはこう書いてあったのだ。


“コンタクトレンズに挑戦”


「すみません、コンタクトどころか髪型まで変わっていて、別キャラか!ってレベルの変貌っぷりですけど?」

「美容室にも行ったんだから当然よ~。それにコンタクトに挑戦ってことは、つまり変わりたい、綺麗になって男に褒められたいって願望と同義だよ。だから羽生くんは全力で褒めなさ~い」


 過大解釈では?

 だけどその指摘は無粋なので、改めて小桜さんを見る。


「その……、綺麗になりましたね」


 そう答えて、少しは照れてくれるかなと思ったけど、当の小桜さんからは何の反応もなく、僕の胸板に手を当てている少女を凝視していて、冷や汗が一気に噴き出してくる。


 この状況を説明しなきゃいけないのに、何をどう伝えればいいのか全く分からず、下手な弁明はかえって傷口を広げてしまいそうで、もう思考さえも纏まらずに頭が真っ白のままだ。そうして事態が悪化の一途を辿たどる中で、意外にも火中の中心である女の子が、全てをひっくり返す一言を放ったのだ。


「おねーちゃん?」

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