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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

秋深し

作者: 江保場狂壱

 チッチとサリーはお互いおならをしないと出られない部屋に閉じ込められた。

 本当に唐突だった。季節は秋で、二人は高校二年生で今日は遊園地へデートに行き、スイートポテトのスイーツを食べてほくほく顔になり、その帰りの電車に乗っていたはずだった。

 なのに、二人は電車ではなく何もない部屋に閉じ込められていた。暑くもなく寒くもない。家具が何一つなくドアと先ほどの張り紙しかなかった。

 

「どうしようチッチ」


 ちなみにチッチは男で、サリーは女だ。金髪でサッカー部に所属しており、顔かたちは整っている。

 サリーは名前があさりなので、サリーと呼ばれていた。


 サリーは茶髪のボブカットでリスを連想する可愛らしさだ。着ている衣服もふわふわしている。サリーが勇気を出して告白し、チッチが承諾したのである。別にチッチはモテるタイプではない。運動ができてハンサムな人間は幾らでもいる。そもそもサリーは同じクラスであり、席は隣であった。自分に告白するなんて罰ゲームか嫌がらせかと思ったが、この学校にはそういう悪趣味な人間はいなかった。


「ちっ、わけわかんねーよ」


 チッチは舌打ちした。よく舌打ちをするのでチッチと呼ばれていた。さらに着ている服はTシャツにジーンズとデートに行くような衣服ではない。サリーは泣きそうな顔になっている。不安になる気持ちはわかる。チッチも同じだ。

 まずサリーのぷにぷにほっぺを両方つねる。もちのような柔らかさだ。


「ふぇぇ、いたいよぉ……」


 サリーは涙目になった。チッチはごめんと謝る。


「よしサリー、俺のゴールデンボールを握ってくれ」


 サリーは最初チッチが何を言ったのか理解できなかった。だが理解すると顔がゆでだこのように真っ赤になる。


「やだよぉ! そういうのは卒業してからって言ったよぉ!!」


 サリーは泣き出した。二人は高校生だから不純異性交遊は絶対にやらないと誓っていた。クラスメイトはそれを見てげらげら笑っていた。


 サリーとは映画を見たり、宿題をしたり、食事をしたりと楽しんでいた。ただどこか他人行儀な気がした。一線を越えたいわけではない。興味がないわけではないが、先輩曰く二人でやるのは割と面倒で、一人で自由な時間にやった方が気持ちいいと教えてくれた。相手は同じ部の先輩マネージャーで、手間がかかるし体力もいるから卒業した後に楽しんだ方がいいと忠告してくれた。


 時間だけがすぎていく。腕時計を覗けばすでに一時間以上経っていた。不安により空腹も忘れていた。

 チッチはともかくサリーは小刻みにふるえている。彼女が一番怖いのだ。

 チッチは意を決した。すぅと息を吸うと、口を開く。


「なあ、サリー。俺たちってすべてを明かしてないよなぁ」

「ふぇ?」

「俺たちは表面ばかり取り繕って、汚い部分を見てないと思うんだよ。もちろん今付き合ったからと言って結婚まで行くわけじゃない。でも相手の悪い部分を見ないのもよくないと思うんだ」


 これもチッチの先輩からの入れ知恵だ。先輩の一人に両親が離婚している。お互い表面ばかり取り繕い、中身を見せてはいなかった。そのくせ人には相手の悪口や陰口を叩いて楽しむから最低である。

 それがばれると互いを罵り合い離婚したという。先輩は母親に引き取られたが、ストレスから解放されたのか悪口を言わなくなったそうだ。

 

「俺はお前の前でおならだけは絶対にしないと誓った。女のお前ならなおさらだろう?」


 こくこくとサリーは無言でうなずいた。


「正直、俺は出そうだ。でも隠れる場所がない。お前もそうだろう? なら一緒に出そうじゃないか。それなら恥ずかしくないだろう?」

「うぅぅ、でもぉ……」

「俺が心配なのはお前に嫌われることだ。お前だって嫌われるのが怖いんだろ? お互い様だよ」


 サリーは涙目だが、こくんとうなずく。チッチも覚悟を決めた。そもそもトイレのない空間で催して来たら終わりだ。漏らす方が一番怖い。


 ぷぅ。


 おならの音がした。二人同時だったので、一人分しか聴こえなかった。それを聴いて二人はげらげらと笑った。


「あはははは。お前のおならの音は可愛いなぁ!!」

「チッチもだよぉ、あはははは!!」


 二人は笑い転げていた。こんなに腹を抱えて大笑いしたのはいつぶりだろうか。デートに行ってもこれほど楽しい気分にならなかった。小学生の頃にお笑い番組を見て以来だと思った。


 ひとしきり笑った後、目を開けると自分たちは電車に乗っていた。腕時計を見ると一分しか経ってない。はてな、あれは白昼夢だったのかしらとチッチは手を額に当てた。

 サリーも同じ気分のようだ。


「なあ、俺たち変な部屋に閉じ込められなかったか?」

「それで二人一緒に、おっ……」


 サリーは恥ずかしくなって口をつぐんだ。自分たちは同じ夢を見ていたのか。それにしては現実感のある夢だった。


「夢でもいいや。すげー楽しい気持ちになれたぜ」

「うん!!」


 二人は笑顔になった。周りの乗客は何事だと二人を見ていた。ごとんごとんと電車の走る音が聴こえてくる。

 ありま氷炎様の月餅企画です。

 チッチとサリーはちいさな恋のものがたりから取りました。

 男がチッチ、で女がサリーです。

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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 これでふたりはくさい仲でしょうか。
チッチとサリーとは……とても懐かしい響きです。 不思議な空間ですが、仲の良いふたりのやり取りにほっこりしました。 白昼夢のような一瞬で、ふたりの絆も深まって良きかな良きかな。面白かったです。
懐かしい! 昔、姉が持っていた「みつはし先生」の作品を思い出しながら、 楽しく読ませていただきました。 チッチとサリーは相変わらずに仲が良いですね。
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