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閑話 翡翠の剣士(4)

(こ、コイツは……)


 美しい太刀だ。


 一見するだけでこれまで見た武器が全てガラクタに思えるほどの業物だった。


 何の金属で出来ているのかは判らないが、刀身が仄かに翡翠の輝きを放っている。


 身体からは今までに一度も味わったことのない程の力が(みなぎ)っており、今なら何だって斬れるような気がしてきた。


(あれ?)


 自分の身体なのに全くコントロールができない。


 地面を蹴りつけ、もの凄い速度で紅玉のドラゴンに接近する自分。


(ギャァァァァァッ!!)


 横薙ぎのドラゴンの鉤爪を速度を落とすこともなく首を(かし)げる事で紙一重でかわす自分。


(ホゲェェェェェェッ!!)


 限界を超える身体運動の結果、脚や腕からボキボキとイヤな音が聞こえてくるのに、全く痛みを感じないのもまた、恐ろしい体験だった。


(誰か止めてくれェェェェェェッ!!)


 爆薬が鳴ったような轟音を地面に残し、一瞬でフワッと重力から解放された刹那、もの凄い高空から紅玉のドラゴン目掛けて落下するラルフ。


 手に握った太刀からは眩いほどの魔力のうねりを感じる。


 そして地面に降り立つ瞬間、刀が綺麗な弧を描き、紅玉のドラゴンの頸にめり込む。


 そして地面に着地。


 ドラゴンは動かない。


 そしてゆっくりと首をこちらに向けて……ズリズリと太刀が通った綺麗な傷口から頭部が地面に落ちていく。


 ドズーンッ!


 ダーンッ……パラパラパラ……


 最初に頭部が地面に落ち、その後胴体も地面に倒れ伏す。


 ラルフは手に持った太刀をドラゴンの方に投げ飛ばすと同時に、糸を失ったマリオネットのように、地面にバタリと倒れ込む。


「「「り、リーダーッ!!」」」


 慌てて仲間達はラルフに群がり、ポーションを飲ませたり、”治癒”の魔法をかけたりしていた。


 一方の女は、いつの間にかドラゴンの近くに裸で立っており、どこ吹く風とばかりにいつものように魔法を唱えて、紅玉のドラゴンから魂宝石を取り出していた。



 ラルフの傷の手当てがあらかた終わり、なんとか上半身だけ起き上がれるようになった頃、女も儀式が終わって服を着直しているところだった。


「……あんたの名前、聞いてもいいかい?」


「……ソプラノ。

 ソプラノ・クリュー。今はそう名乗ってます」


 礼の言葉は何もなく、こちらも礼の言葉を言う気力もなく、それ以外何も言葉を発する事もなく、ソプラノは去っていった。


 誰も彼女を呼び止める勇気が持てなかった。


 ソプラノの姿が遠くなり、誰とも無く溜め息が漏れる。


「……世の中色々っすねぇ」


 アクスの言葉がメンバー全員の思いを代弁していた。


ーーーーー


 これはどうでもいい、その後の話。


「どうしたんだいお嬢ちゃん。難しい顔して」


 傷も癒え、すっかりいつもの元気を取り戻したラルフは、復帰がてら何か簡単な依頼を受けようとギルドに顔を出した時、手に書類を持ったクレアがうーんと唸っていた。


「あ、ラルフさんこんにちは。もう怪我の方は大丈夫なんですか?」


「俺は昔から元気だけが取り柄だからな。

 んで、書類見て難しそうな顔しているがどうしたんだい?」


「あ、これはですね、前の職場で知り合った銀等級の男の子からの手紙なんですけど、なんでも精霊を探しているらしいんですよ」


「そりゃ中々に難しい依頼だな」


 この世界にもそれなりに精霊が顕現している。

 よっぽどの特徴が無い限り、探し出すのは難しいだろう。


「はい。なんでも女性の姿をした精霊だそうでして、緑髪の風の精霊に似た姿をしているそうです」


 それを聞いたとき、ラルフの脳裏に真っ先に思い浮かんだのは、”大物斬り”ソプラノの姿だった。


 だがしかし、彼女は実体を持っていたし、そもそも風の精霊ではなく……


「ありゃ、上手く隠しちゃいたが、清らかな精霊ってよりかは情念ドロドロの女って感じだったがな」


「はい?」


「いや、なんでもねぇよ。とりあえず新しい依頼書見せてくれ」


「あ、はい。それでしたら……」


 バタバタといつものギルドの日常に戻り、翡翠丸の件はすっかり忘れ去られていた。


ーーーーー


(まだ足りない)


 ソプラノこと翡翠丸は、自分に蓄積されていく魂宝石の量を測りながらため息をつく。


 あの日、彼に自分を手にとってもらって以来、徐々に感情というものが芽生えていった事を自覚する。


 数多の冒険を得て、今ではそれが恋だという事もハッキリ自覚できている。


(でも彼の周りにはたくさんのノイズがある)


 彼が他の女と話すのが不快だった。


 馴れ馴れしく、彼に近づいてくる女が不快だった。


 他の女が膝枕をしている姿が羨ましかったから、思わず自分でもやってしまった。


 彼が私に名前をつけてくれた事は幸福だった。


 温泉で彼に裸を見られ、意識してくれた事は幸福だった。


 彼が私を頼って、力を彼に与える事は幸福だった。


 彼と私だけがいれば幸福だった。


(邪魔者をハイジョするにはまだまだ力がタリナイ)


 彼女は、彼との2人きりの世界を築くために、力を蓄えていたのだった。

 学園編は来週中に始められたらいいなという感じです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏ボスだったかぁ~
[一言] ヤンデレどころの騒ぎじゃない笑笑
[一言] 超弩級ヤンデレ爆誕! 次に遭う時は誰かが死すシス?
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