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アルベルトくん14歳。風の女神(4)

『あなた達を排除します』


 ま、まじかよ!


 殺気混じりの女神からの宣戦布告により、場の緊張が一気に高まる。


 ここまで思い詰めていたとは正直想定外だった。

 交渉の余地なんて最初から無かったな。


 仕方がない。作戦変更だ。


「チッ。やるぞ!行け、ウィンディ!!」


「ガッテン承知じゃッ!!」


 荒ぶる女神が何かを仕掛けてくる前に、先手必勝とばかりに、ウィンディが一直線に女神へと吶喊(とっかん)する。


『!?

 あなた、ウィンディ!!』


「久しぶりじゃな、女神様(我が主)よ!

 潔く、天上に戻るのじゃ!」


 翡翠色の残像を残しつつ、女神へと肉弾戦を仕掛けるウィンディ。

 女神も即座に反撃し、自分を拘束している魔法の鎖をウィンディに無数にぶつけてきている。


 ウィンディはそれらを手刀で弾き飛ばし、時には強引に突っ切って女神へ魔力の乗った拳をぶつけていた。


 いつしか嵐のような魔力の奔流が2人の間で形成されていた。


「はっ、そんな鎖に雁字搦めの状態ではワシにも劣るわい。さっさと降参せんか!」


『我が眷属のくせに何故逆らうのですか、あなたは!』


 余裕がなくなってきた女神の口調が段々雑になってきている。

 あれが素なのだろうか。


「眷属じゃからこそ、じゃ!

 我が主よ、随分存在が希薄になっておるぞ!気づいてないのかえ!?」


『くっ……!』


 戦闘を始めてしまったからには早急に女神を無力化しなければならない。

 だがしかし、卑小なる人間の身では女神に通用するような技は少ないのが現実だ。


 女神の魔法で弾き飛ばされているウィンディの横を掠めるようにして、俺は女神へと肉薄する。


「翡翠丸、俺に力を寄越せ!奥義”孤月”ッ!!」


 俺の背後にくっつくように浮かんでいる翡翠丸から力を引っ張り出し、渾身の魔力を乗せて刀を振るう。

 ”孤月”は相手の生命力ではなく、直接精神に攻撃できるため、通常攻撃がほぼ効かない女神相手でもかなり有効な業だった。


『くっ、人間のクセになかなか厄介ですね!』


「はは、お高く止まっていたのは演技かい女神様!さっさと降伏してくれよ……なっ!!」


 女神からの魔法弾の波状攻撃を翡翠丸で何とか捌きつつ、更に刀を振るう。


「ご主人様、全然ダメですぅ!」


 後方から、時々サキが”永久凍柩”等の高等魔術で援護してくれているが、殆ど女神には効いていない。


「ダメで元々だ!何でも良いからどんどん試せ!」


 俺も何とか女神の攻撃をかいくぐってはカウンターで斬りつけてみるが、木で鉄をぶん殴っているような感触が返ってくるばかりだ。

 やはり女神の魔法抵抗力は鬼だな。ウィンディによって以前よりもパワーアップしている翡翠丸の力を借りても、殆どダメージを与えられていない。


 だがまぁ、それでいい。何故ならば俺やサキの仕事はあくまでも女神の足留め係にすぎないからだ。


「やってくれたのぉぉぉ!!」


『ウィンディ!!』


 そう。あくまでも対女神戦の主力はウィンディだ。風の精霊王(ウィンディ)はどういう理屈か分からないが、自分の魔力を効率良く消費しながら、女神の存在を薄れさせていく。


 最初は終わりが見えないという感じで始まったウィンディと女神のステゴロ消耗戦は、徐々に女神の劣勢が顕著になってきていた。


「はぁはぁ……いい加減に降伏せんか、我が主!

 このままじゃと本当に消滅するぞい!!」


『イヤよ!私は彼らを見捨てられないわ!』


 女神から漂っている魔力のオーラは、目に見えて減ってきている。

 浮かべる表情にも疲労の陰が濃くなってきているが、それでもこちらに屈する気配が見られなかった。


「えーい、本当に強情じゃのぉぉぉ!

 現実を見よ!

 滅びは必然じゃ!

 女神よ、(ことわり)を曲げるでないわ!!」


『そんなことは分かってるわよ、ウィンディ!私が間違っているなんて百も承知!

 それでもイヤなものはイヤなのッ!!』


 おいおい話が違うぞ。

 ウィンディが『女神は根性なしじゃから、わしがちょっと説得し(ぐーで殴っ)たら大体降参するぞい』と言うから任せてみたが、全然降参しねぇじゃねぇか。


 説得の効果が見られず、二進も三進も行かなくなってきた時に、女神はついに最終手段に出た。


『もういや!私に近づかないで!』


「おい、我が主よ!やめんかぁぁぁぁ!!」


 ウィンディの叫びも虚しく、大量の魔法の鎖が女神の周囲に発現する。

 そしてその鎖は女神を雁字搦めに取り囲み、そのあまりの量で女神の姿が見えなくなっていく。


 その姿はあたかも魔法の鎖でできた繭のようであった。


「えーい女神の阿呆め!そこまで自分を追い詰めおったか!」


「おいおい、どうなってるんだよコレ」


「ご主人様、どうしましょう?」


「はぁ。サルヴェリウスさんをとりあえず遠くに移動させといたんだけど、私ができること他になさそうね」


 とりあえず戦闘の気配が一段落したため、サキとフェリシアが近づいてきた。


 翡翠丸で魔法鎖の繭をつついてみたが、全く反応がない。


「これはあれじゃな。魔法の鎖で造ったシェルターみたいなもんじゃな。掘り出すのも面倒そうじゃのう」


 そういってウィンディが溜め息をつく。


「そういえばフェリシア。サルヴェリウスさんはどうだった?」


「単に気を失っていただけみたいよ。今は部屋の外で控えていた部下の人に介抱してもらっているわ」


 サルヴェリウスさんの方は大丈夫そうだな。しかし繭の中に引きこもってしまった女神様をどうやって引っ張り出そうかねぇ。


「しかし女神には困ったものだのぉ~……ん?」


 俺達はちょっと油断し過ぎていたようだ。


「危ない!」


 突如、繭から白い巨人が出てきて、全方位無差別に魔法鎖の攻撃が行われた。

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