286、シブレ
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、タレナを手に掛けようとしているシルトとそれを止めたことによりある事実が判明します。
シルトがタレナに手を掛けようとしている。
二回目の衝撃音が響いた際に二人が建物内にいるのではと思ってはいたが、まさか仲間討ちしようとしていたなどと誰が想定していたことだろう。
ケイの怒声に大剣・インイカースを振り上げたシルトが一瞬動きを止めたが、明らかに様子がおかしいことはケイ達も分かっていた。
しかし、シルトは制止の声などお構いなしにタレナに向けて大剣を振り下ろそうとしていたため、ケイが拘束の呪文を唱えようとした瞬間、後方に居たある人物がケイの脇を通り過ぎ、一直線にシルトに向かって駆け抜ける。
「シブレさん!待ってください!」
ケイの後方からアダムの制止する声が上がるが、シルト目がけて駆け出すシブレが途中で落ちていた金属製の棒状の様なものを素早く拾い上げると、今にも大剣を振り下ろさんとするシルト目がけてそれを振り下ろす。
背を向けていたシルトがシブレの気配に気づき、振り上げた大剣を滑り込ませるように振り下ろしてきた攻撃を受け止める。
金属と大剣の衝撃と高く鈍い音が辺りに響き、瞬間的に緊張感が辺りを包む。
ケイ達の位置からはシブレの背中しか見えず表情を伺うことはできないが、小競り合いをするシルトの表情が一瞬驚愕に変わったかと思うと、対峙しているシブレに何かを言っている。距離的に二人の会話が聞こえないが、シルトに止めるように説得しているのだろう。
「ケイ!早く二人を止めなきゃ!」
シンシアから二人を止めるように急かされた瞬間、シルトがシブレの攻撃を押し返すように金属製の棒をはね除けた。
体格的に力で押し返されたシブレが後方に後ずさりすると、その隙を突いてシルトが手首を返し、切り上げと同時に金属製の棒を真っ二つに切り裂かれる。
その衝撃をまともに受けたシブレの手から金属製の棒がはね飛ばされ、宙を舞った金属製の棒は彼の後方で地面に突き刺さるかたちで落ちた。
突き刺さった棒の断面を見ると、中央から少し上の部分で切断され、二つに折られた棒の片方はガラスでも砕けたかのように歪な形をしている。
「シルト!いい加減にしろ!」
シルトがシブレに対して武器を振り下ろそうとしていたので、ケイが慌ててシルトに向けて【バインド】を唱えると、その衝撃で彼の手から大剣・インイカースが離れる。
「タレナ!シブレ!大丈夫か!?」
ケイの拘束呪文によりシルトは体勢を崩し尻もちを着く形でその場に蹲る。
その近くで呆然としている二人に駆け寄ると、幸いタレナの方には怪我はなかったが、シブレは手にしていた金属製の棒が叩き切られた衝撃で、その破片が彼の左頬を掠めて血が出ている。
「シブレさん、大丈夫!?」
『あぁ、大丈夫だ』
「あぁ~もぉ!傷を手で拭っちゃ駄目よ!これを使って!」
シブレが頬にできた傷を手の甲で拭おうとしたので、シンシアが慌ててそれを制止させると所持していたハンカチを彼に手渡した。
「シルト、お前何を考えてるんだ・・・?」
拘束され項垂れているシルトにケイが声を掛ける。
顔を伏せているため表情を窺うことはできないが、その様子からから気落ちしているようにも見てとれる。
「なぜタレナを襲った?」
『妻を殺した王族を許したくなかった・・・それにはじめから薬品型細胞の研究には反対をした。たとえ我々が“創られた人種”であっても、我々が“彼らを造ること”自体が間違いだった・・・』
シルトは妻であるスピサが死んだのは、研究を推奨している王族や五大御子神のせいだと考えていたようだ。
元々アフトクラトリア人を造ることに否定的だったことから、今回の行動に移ったのだろう。
タレナの事は甲板から降りるところを見かけて後を追ったこと、本当なら彼女から真実を聞きたかったが、記憶の改善が見られなかったことにより行き場のない怒りを隠せないまま暴走した結果だった。
そういえば、とケイがあることを思い浮かべた。
それはシルトの妻・スピサのことで、彼女はどうして亡くなったのか?だ。
今まで生前の彼女がなにをしていたのかということには触れてきたが、肝心な彼女の死亡理由が不明である。おそらく病死または事故死の可能性を考えたが、幸い当の本人は人魂魔石として大剣・インイカースに組み込まれている。
ケイが地面に突き刺さったインイカースを見やると、項垂れていたシルトがケイの目線に気づき剣の方へと目を向ける。
「なぁ、スピサ。あんた、なんで死んだんだ?」
『そ、それは・・・・・・』
なぜか言い淀み何かを躊躇している様子を見せる。
よほど事情を言いたくないか、あるいはタレナやシルトのように記憶が欠落している可能性を考えたが、声の様子からして前者の可能性を感じた。
しかしここで、スピサにとって助け船というべきある人物が声を上げる。
『ケイさん、待ってください』
「シブレ?」
『その先は私から話をさせてください』
怪訝な表情を浮かべたケイの前にシブレが立つ。
シンシアからハンカチを借り、止血のため左頬を押さえたシブレにケイは一瞬驚きをみせたが、あれっ?と疑問を浮かべる。
「ん?・・・ちょっと待て!シブレ、あんた人魂魔石のことを知ってたのか?」
『はい。厳密に言いますと知っているというよりも、スピサさんの魂を人魂魔石に埋め込んだのは“自分”ですから・・・』
シブレからの突然の告白にケイ達は目を丸くした。
むしろこの状況で話を切り出されても理解が追いついていない、といった方が正しいのだが、完全にノーマークの人物からの告白により一同は困惑の表情を浮かべたが、当の本人はいたって真面目に皆を見つめている。
「スピサの魂を人魂魔石に埋め込んだ、ってことか?」
『はい。彼女は自身の夫を助けるために自らを犠牲にしたのです』
「犠牲にした?」
『シルトはわが軍の要であり希望である。失ってはいけない人物なのです・・・』
悲痛な面持ちでこう切り出したシブレに、ケイは一瞬顔をしかめた。
たしか彼は軍の一般兵士と名乗っていたはずだったのだが、まるで王族に従事する重要人物の様な口調に違和感を感じ、ケイはもしやと彼が話を出すのを静かに待った。
そして、その少し離れた場所でレイブンに支えられながらタレナが立ち上がる。
シルトが自身を襲ったショックもあってか一人で立ち上がることができず、再度怪我がないことを確かめてから立ち上がり、シブレの言葉に困惑した表情を浮かべたまま、その成り行きを見守る。
「じゃあ、あんたもしかして・・・」
『はい。私は・・・・・・』
シブレがそこで言葉を切ると右手で一度パチンと指を鳴らし、ゆっくりと姿が変化した。
唖然としていたケイ達の前に、あどけない少年さを残した青年造形から褐色の精悍な顔つきの青年へと変わる。タレナの髪の色に近い赤みがかった黄色の長髪が腰まで伸び、全体の印象として麗人のような気品ある出で立ちへと変貌を遂げる。
ケイはここではじめの鑑定にあった※の意味を理解し、やっぱりかと確信した。
「イ・・・イシュメル・・・兄さま・・・・・・」
タレナから困惑と歓喜が入り交じった声が漏れた。
シブレだった人物が彼女へと目線を向け、その同じ青い瞳は懐かしそうにいとおしそうに自分の名を呼んだタレナに呟く。
『タレナ、今まですまなかった・・・・・・』
「本当に・・・イシュメル兄さまなのですね・・・?」
『あぁ・・・』
状況を察し支えていたレイブンが彼女からゆっくりと手を離すと、それと同時にタレナが彼の元まで走り寄り、勢いよく懐にしがみつく。
タレナは今までに人前で感情を露わにすることはなかったのだが、蓋をされたいろんな感情が膨張し爆発したかのようにイシュメルと呼んだ青年の前で大声を上げて泣いた。
「ケイ、もしかしてこのことを知ってたのか?」
「最初に発見した時、状態確認のために鑑定をしただろ?そんときにアイツだけ記号がついてたんだよ」
「記号?」
「詳しく鑑定する前にうやむやにしちまったけど、今思えばなんらかの理由で姿も名前も偽っていたんだろうなって察した」
アダムの疑問に答えたケイだったが、なぜ五大御子神であるイシュメルが姿を変えシブレと偽名を使ったのか。
安堵から泣き続けるタレナを慰めるかのように抱き寄せたイシュメルの姿に、一瞬だけアグナダム帝国の闇を感じたケイは、タレナが落ち着くまでその様子を見守ることにした。
「タレナ、落ち着いたかい?」
「・・・はい。ご迷惑をおかけしました」
暫くして泣き止んだタレナが、目を腫らしたまま恥ずかしそうに俯いた。
人前で盛大に泣いたことに恥ずかしさを感じたのだろう。
レイブンからハンカチを借りた彼女は、本当に恥ずかしいと今度は別な意味で顔を赤くさせた。しかし行方知れずだった自分の兄が生きていたとなれば、彼女だけでなくケイ達も同じ立場だったそうなっていただろう。
「シブレ、じゃなかった・・・イシュメル、あんたなんで姿を変えて偽名まで使ってたんだ?タレナの兄なら名乗り出ればよかったんじゃねぇのか?」
『理由はありますが、一番はタレナに名乗り出る覚悟がなかったことです・・・』
イシュメルの様子からどうやら深い事情があるようだが、それよりも先ほどスピサが言い淀んだことが気になり、ケイがその事について指摘をすると、とんでもない事実が彼の口から語られた。
『スピサは、黒腫に感染したシルトを助けるために自らを犠牲にしたのです』
「えっ!?じゃあ、シルトも黒腫に感染していたってことか!?」
『はい。当時黒腫の研究も行っていたスピサは、シルトが感染した事を知り、彼を助けようと彼を侵している黒腫を自分の体内に移しました』
「やっぱ、シルトの記憶障害は黒腫完治の影響だったってことか~」
イシュメルの話では、スピサはタレナが黒腫に感染したすぐ後にサイウォン調査をと続けていたそうだが、後に自身の夫であるシルトが黒腫に感染したことを知り、なんらかの方法で彼の体内から自分の身体へと黒腫を移したと聞いたそうだ。
しかもイシュメルがスピサからその事を聞いた時には、すでに黒腫に侵されてから大分時間が経っていたことから、手の施しようのない状態だったようだ。
もちろんイシュメルは、当時そのことをすぐにシルトに伝えようとしたのだが、シャーハーン王の命により、その事実がすぐに伝わることはなかった。
この段階でシャーハーン王も黒腫に感染し、タレナの黒腫も自身から移ったことを知ったとなると、単に事実を隠蔽したと考えることはできるが、ケイはなぜだかもう一つ裏があるのではと思えてならなかった。
シブレとして偽っていた五大御子神の一人イシュメル。
妹であるタレナとの再会と、彼によりシルトの記憶障害の真相が語られました。
ケイは単に王族の隠蔽ということではないのかもしれないと疑問を持ちますが、果たして事実は一体。
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