261、黒腫と生存者
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、東部地区の総合病院内のメインシステム稼働のお話です。
仲間達がメインシステムに必要なブレーカーを上げているなか、ケイは中央のコントロールシステムのような場所に立っていた。
目の前には、十数台ほどあるモニターと操作盤が壊れた状態で残り、医療・研究施設地区の時と同じように、創造魔法で修復を行ってからモニターや操作盤の動作確認をアルバが行い、支障がなければメインシステムの再起動に入る。
【再起動が完了しました。これより東部地区のメインシステムを再稼働の作業に移行します】
仲間達によってブレーカーが上げられると、一つまたひとつとモニターに電源が入り、自動的に稼働音の低い音が響き渡る。
ケイはブルノワと少佐を抱え黙ってその光景を見守るが、ブレーカーが上がる度にひとつひとつ室内の明かりが点灯し、その光の強さに目を細める。
「眩しっ!」
屋外のグランドに設置されている照明ばりに辺りが明るくなると、入ってきた時には分からなかったが、研究者が使っていそうな棚や机が散乱しているもののかなりの広さであると初めて気がつく。
また、何かの研究をしていたとおぼしき研究道具も同じように壊れた状態で散乱していたことから、医薬のための研究も行われていたと推測される。
「ケイ、こっちは終わったぞ!」
「こっちもよ!」
再起動を待っている間、仲間達がケイの元へと戻って来た。
指示された通りにブレーカーを上げる以外に異変はなかったようで、明るくなった室内とその状況に戸惑いを見せてはいる。
「メインシステムは動きそうか?」
「今、アルバに機材の立ち上げを任せてる」
「そうか。そういえば思ったんだが、海に沈んでいた場所なのに簡単に稼働できるものなのか?」
モニターに映し出されたアルバの操作過程を前に、アダムが疑問を投げかけた。
思えば、モニターや操作盤はケイが修復する前までは完全に破壊された状態で発見されたのだが、アダム達やシンシア達が起動させた装置には古びてはいるものの、ほぼ完全な状態で残っていたことから、何が違うのかと首を傾げている。
【その質問に関しましては、ワタシからお答えいたします。今、皆様がご覧になっているものは、魔素を変換させる装置になります。その動作に必要なブレーカーですが、こちらはアグナダム帝国の技術で耐震・防水などの特殊加工が施されています。そのため、万が一大陸が沈んでも水圧や衝撃に十分に耐えられる設計となります】
「それなら、なんで他の機材には施されていないんだ?」
【メインシステムに保管しておりますデータをアフトクラトリア人が盗み出そうとしていた可能性があり、緊急時には魔素を変化させる装置にバックアップとして、全体の10~20%の情報を保管、残りはデリート処置をしていました】
「研究仲間であるアフトクラトリア人を信用していなかったって事か?」
【心情に対しての回答は不可です】
アルバはそう答えたが、自分たちが造りだしたアフトクラトリア人を信用していないとなると、正直その辺りがよくわからない。もしかしたら、イレギュラーを想定しての処置だった可能性も捨てきれないが、この会話だけでは断定できない。
【メインシステム再構築が完了しました。これより復元されたデータをモニターに表示します】
アルバの操作により大小十数台あるモニターの内、一番大きなモニターに復元された情報が表示された。内容は黒腫の記録集のようで、記録者はとある医療研究員が残したもののようだ。
「突然発症した症状は、大体半年前後で黒腫が身体中を回り死亡する、か・・・アスル・カディーム人であっても原因不明の難病のようだな~」
記録されていた内容には、黒腫は世界大戦の2~3年前から流行りだしたことが綴られている。もちろん対抗する薬品を研究していたようだが、なぜか同時期に、黒腫に侵された人々が船で大陸を渡ったと記録が残っている。
一瞬、新たな治療法を探して旅に出たのかとでも思ったが、その人数が千人以上とひっかかる部分がある。
「病人を連れて大陸を渡ったって自殺行為じゃない!?」
「アグナダム帝国でも不明だから病解明の為に連れ出したというのは、得策じゃない気はするね。もしかしたら別の“目的”があったとか?」
「目的?病気を治す以外でか?」
思案しているケイの隣で、各々主張している仲間の声がした。
大陸を渡ったアスル・カディーム人の記録に怒っているのか、シンシアが理解できないと首を振り、レイブンがもしかしたら別の目的も含まれているのではと推測している。アダムはレイブンの意見から、それを差し引いても病人には優しくないよなと困惑の表情を浮かべている。
それから、アダムは後ろに居るタレナとシルトにも尋ねてみたが、二人はその辺りのことが覚えていないか事実を知らないようで首を横に振っている。
「なぁ、ちょっと待て!」
「何よ急に?」
「お前ら、モニターに表示されている文が読めるのか?」
「何言ってるの?読めるにき・・・あら?」
ケイの指摘で、途中まで言葉を発していたシンシアがはたと気づく。
よく話を聞いてみると、何故かモニターに表示されている文字を読むことが出来るようで、レイブンからフリージアで昔に使用されている言葉の言い回しや、方言のような記述もいくつか見られると述べる。シンシアとアダムは、専門的な用語はわからないにしろ、大体書いてある事は分かる様子だった。
「レイブン、ここにはフリージアで使われている言葉もあるのか?」
「正確には全部じゃないけど、文の言い回しやフリージアでしか使わない言葉もいくつかあるみたいなんだ」
レイブンがモニターを指さした箇所を見ると、どうやら方言に近い言葉がいくつか表示されているそうで、それが意味することとなると大陸からやって来た人物がいたのではと推測される。
「アルバ、ここの施設でこの大陸以外からの奴も暮らしてた記録はあるか?」
【当時の記録を辿りますと、大陸外から約200万人ほどこの大陸で暮らしていた記述が残っています】
アルバの記録によると、当時200万人の内、研究者として活動していた人物は複数人居ることが判明した。しかし、この現状から既に死亡したと思われ、モニターに表示されている記録も誰が記したのかはデータが破棄されているため不明だという。
少なくともレイブンが言うように、フリージアの方言が入っていることから、北大陸の人物がこの場所の研究員として働いていた可能性はある。
とにかく先に残りのデータも確認してみようと、ケイはアルバに情報の提示をするようにと指示を出した。
「ブルノワ、少佐?あなたたちなにをしてるの?」
ケイ達が思案している場所から少し離れたところで、ブルノワと少佐が動き回っているところをシンシアが見つけて声を掛けた。
日頃ケイから散々危ないから離れるなと言われてはいたが、いかんせんまだ子供の彼らは好奇心が勝ったのか、瓦礫の上に乗ったり低い段差からヒーローごっこのように飛び降りたりと、従魔というワードを無視すれば一般の子供とちょっと変わった犬にしか見えない。
『おねえちゃん、アレなぁに?』
ブルノワがシンシアに何かが光っていると、奥を指さした。
シンシアがそちらを向くと、煌々と辺りを照らす照明の中にボーっとした緑色の明かりがついているのが見えた。
一瞬見間違えかと思ったが、目をこらして見ると間違いなく何かがあるようで、瓦礫の隙間から緑色の光がひっそりとこちらに存在を告げているようにも見える。
シンシアはブルノワと少佐を庇うように、一歩ずつその正体を確認するため歩み寄ると、近づいた瓦礫は何かを覆い尽くすように山積みになっていた。
辺りを見渡すと、マデーラの洞窟で見つけた棺の形をした物体が壊れた状態で残っている。
ここは医療を目的とした建物だと聞いていたことから、以前マデーラの洞窟で見つけた棺も本当はこの場所にあったのではと考える。
ただ、シンシアにはそれが何を意味するのかまではわからず、前にケイが言っていたなにかと似たような形状だったと言った記憶があることから、とりあえず離れた場所に居るケイ達に大声でこのことを伝えることにした。
「ケイ!ちょっと来てーーー!」
モニターに表示された資料記録を読み終えた頃、離れた場所からシンシアがこちらを呼ぶ声が聞こえた。
どうした?と問い返すと、こっちの瓦礫に何かがあるの!と少し張り上げた声が返って来たため、ケイ達は何事かとシンシアの方に行ってみることにした。
「シンシア、なにかあったのか?」
「ブルノワと少佐が何かを見つけたみたいで、とにかくあれを見て!」
指さした先に瓦礫が積まれている。これがどうしたのかと首を傾げると、瓦礫の隙間に緑色の光が一瞬だけ視界に過ぎった。
ケイが膝をつき目線を下げると、瓦礫の隙間に確かに緑の光が仄かに照らされているようで、ブルノワと少佐が幼く小柄なことから、そこに何かがあるのだと理解した。
「みんな!ちょっと手伝ってくれ!」
ケイが男性陣に声を掛け、瓦礫に何かがあるからどかしてみようと提案する。
瓦礫自体は海に沈んでいたことから流木や大陸のゴミなどが絡まり合い、正直触りたくはないのだが、ブルノワと少佐が興味を示していることから、ケイもそれがなんなのか確かめて見ようと考える。
もちろんアダムから遊んでいる場合じゃないとは言われたが、これで何もなければそれまでだし、何かを見つけたのなら見落とさなくてよかったと思えるんじゃないかと返すと、あぁいえばこういう!と思春期の子供を持つ親の様な返しをされた。
「これで表部分は見えたか?」
瓦礫を四割ほどどかした頃、被せる型の棺の様なものが露わになった。
それは、以前ケイ達が見たマデーラの洞窟のあの形状と同じ様なもので、緑の光は何かが稼働しているランプを示している。
棺には、中の様子が見られるように楕円形のようなガラス窓があり、汚れのせいで窓全体が曇っているため様子がわからなかった。
「アルバ!これだけランプみたいなのがついてるんだけど、これはなんだ?」
【これはコールドスリープさせる装置になります。ランプが点灯している意味としまして、現在稼働中であることが把握出来ます】
「・・・は?稼働中?コールドスリープって、これなにか入ってんのか?」
【はい。そちらはコールドスリープされたアグナダム帝国に従事している人物がいると思われます】
全員がその言葉に固まった。
要はその装置は稼働しており、その中には人が別の方法で生存していることを意味していたのだった。
アルバからまだ生存者が居ることを告げられたケイ達は、さすがの展開に固まりました。
果たしてどんなことが分かりどんな事実に辿り着くのでしょう?
次回の更新は12/25(金)夜を予定してます。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
細々とマイペースに活動していますので、また来てくださいね。
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