199、鬼人族の文献
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回は、一段落したケイ達にアサイ達が文献を提示する話です。
翌日、ケイ達は昨夜の一件からユイナの屋敷に一晩泊めて貰えることになった。
なにせ主犯であるサザンカの件でアサイとキキョウ、ミナモは彼女の屋敷を捜査、両親とサザンカの夫が亡くなった証拠がいくつか出てきたのだ。
ケイ達はアサイから捜査を行うので少し待ってほしいと言われ、ユイナの屋敷に待機、寝床と朝食まで提供されることになる。
「これ、米じゃん!」
朝食を食べようと座敷に足を踏み入れた一同は、既に女中により準備がされていたようで、人数分の御膳が配置されている。
桜紅蘭では日本と同じ和食が中心の食生活で、島国では魚や野菜が中心となった献立になっている。大根と醤油をあしらえた焼き魚にほうれん草のおひたしのような緑黄色野菜、豚の生姜焼きに近い物にわかめとネギ、豆腐が入ったみそ汁とご飯。
見事に一汁三菜である。
男女に分かれ対面式に座り、ケイの隣にはブルノワと少佐が腰を下ろす。
ケイ達は早速と箸を持ち、いただきますと手を合わせたあとに食事に手を付けようとするが、その際女中からブルノワと少佐はどんな食べ物が良いのかと聞いて来たため、同じ物を出してほしいと伝えておく。
少佐は一体に見えるが頭部を考えると三頭になるため、一つの御膳を少し量を多めにと付け加える。さすがの女中も体一つに頭が三つという少佐の姿に顔を引きつらせていたが、ユイナの客人と聞いていたので「はい」と返事をしてから別途準備の手配を行う。
久々の米に喜々として手を付けるケイに、アダム達は箸を練習して置いて良かったと各々そう思いながら料理に手を付ける。ブルノワはケイの創造した彼女専用のスプーンとフォークを使い、器用に口に運んでいる。たまにご飯が口から零れることがあったが、ケイはゆっくり食べるようにと零れたご飯をパクリと口に入れてからブルノワの頭を撫でる。
「はぁ~ やっぱ、和食はいいな~」
みそ汁が五臓六腑に染み渡ると口にすると、正面に座って食事をしているシンシアからジジ臭いと言われたが気にしない。むしろ和食を知らないとは人生の八割を損していると返す。
留学した人達が日本食が恋しいと口にしていたが、今自分が体験してその気持ちが初めて分かった。まぁ、ケイの場合は永久に戻ることはないが、幸いにも大陸にはガイナールをはじめ、元日本人がケイ以外に五人も居る。
それにルフ島では最近ライスが流通し定着し始めたことから、彼らからアイディアを貰って和食を作ることは可能である。それに屋敷にいるパーシアからはケイが喜びそうな食べ物を作れるように頑張りますと宣言される。
何を作るかは戻って来た時の楽しみとしよう。
「みなさん、おはようございます」
襖を開けてユイナが入ってくる。
ケイは先にいただいていると言い、寝床や食事まで貰った事に感謝を述べる。
ユイナはケイの左側にある御膳の前に座り、食事が口に合ったことに安堵した様子を見せる。ケイの国でも似たような料理があるから懐かしいと返すと、おかわりもありますのでと笑みを返し、箸を手に料理に手を付ける。
「やっぱり、アサイ達は夜通し調査だったのか?」
「はい。サザンカ叔母様はアサイ兄様の敷地内にある地下牢に身柄を拘束されました。それよりもタマエが・・・・・・」
ふと箸を止め、悲痛な表情で下を向く。
タマエはあの夜、母親であるサザンカが三人を殺害した容疑で拘束され連行されるところを見ていた。母親を連れて行くなと言わんばかりにアサイやキキョウの部下に食ってかかったが、屋敷にいた女中がその行動をと制止し連行されるサザンカの姿が見えなくなるまで母親を呼び続けていた。
今は屋敷の女中が彼の世話をしているが、急に母親が居なくなった事を考えるとなんだか別の意味ですっきりしない。
「それよりもそのあとが問題だな」
「そのあとって?」
「タマエは、長を殺した親の息子だと後ろ指を指されるってことだ」
シンシアがあっと表情を変え、その意味を理解する。
島国特有の考え方かもしれないが、親が何かの罪を背負うとその子供も犯罪者の子として噂され白い目で見られる事を聞く。特にタマエは長の子供でありながら犯罪者の母親の子として生涯を過ごさなければならないと思うと、サザンカの罪は重いだろう。
しかもサザンカの屋敷の周辺には民家がいくつか建っていることから、昨日の事は噂として早い段階で広まる可能性を示している。ユイナからアサイ達はその辺のところを考えてはいるようだが、大なり小なり影響は出てくるだろう。
噂というものは伝わるのは早いが、払拭するには時間がかかる。
「アサイ達からあの後何か聞いたか?」
「詳しくは聞いていないのですが、やはりケイさんの指摘した通り、タマエは父とサザンカ叔母様の間の子だと話されたそうです」
アサイからは内容的にヘヴィなのか詳細は教えてくれなかったそうで、女性であるユイナの前では言いづらいことが発覚したのだろうと考える。ケイは食事時に詳しく聞くないようではないと考え、一旦その話を脇に置き、タマエのことを考慮しなかったのは失敗だったなと感じながらも再度食事に手を付けた。
「待たせて申し訳ありません」
昼近くになりアサイ達が屋敷にやって来た。
三人とも疲労困憊というよりもショックが大きかったのだと表情から察する。
畳が連なる奥座敷にケイ達と四兄妹が揃って着席をし、彼らの手にはいくつかの文献が握られている。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
「いえ、皆さんは私たち兄妹と島の恩人ですから・・・」
アサイは、それぞれの屋敷の倉庫や地下に保管されている文献をいくつか持参していた。彼ら曰く、古い文献で文字が今とは異なるため読むことは難しいという。
ケイがその内の一冊を手に取り中を確認すると、意外にも読めたことに驚く。
「えっと~アスル・カディーム人に仕えていたアフトクラトリア人は、新しい人種である。なんだこれ?」
これを読めるのかとアサイ達が驚き、アダム達に文献の内容を見せると全員が読めないと首を振る。前でもそうだったが、なぜかケイはこの文献を読めることが疑問としてあげられる。手持ちの文献を鑑定にかけるとロホ語を使用していると表示される。
そういえばアレグロとタレナの妹であるアルペテリアの言葉には、ロホ語が混ざっていることを思い出す。そうなると彼女は大昔にこの地に赴き、言葉や文字を習得していたのではと考える。
「この文献はロホ語で書かれているみたいだな。ちなみに鬼人族の言語はここから来てるのか?」
「はい。我々の祖先はロホ語を扱う先住民でした。私たちが読める数少ない文献には、過去に大きな帝国が存在していたそうです」
「帝国?」
「たしか・・・【アグナダム帝国】という国があったそうです」
アサイは幼少の頃から歴史を学ぶことが好きだったようで、独学で古い文献を読み進めていた。それによると、桜紅蘭から遥か西に北に向かってアグナダム帝国という巨大な島の中に大国があったようで、千五百年前の大戦により島ごと沈んだそうだ。その文献には、人族は滅亡したと記されている。
「それと俺の屋敷の蔵にこんな物があったぜ」
キキョウから屋敷の蔵に保管されていた桐箱が差し出される。
中を開けると一本の紫の巻物が入っており、広げると当時の地図のようなものが筆で記されていた。
「ここが私達の居る桜紅蘭です」
「この地図は昔の地図か?」
「そのようです。これは千五百年前の世界地図だと考えています」
アサイが示された場所には、ロホ語で桜紅蘭と書かれている。
ケイには普通にその文字が読めるのだが、独学で勉強をしたアサイ以外は何が書いてあるのかわからないといった表情だ。
その地図には、桜紅蘭から北に島が広がっており、その島は西に連なり北と南に伸びるように大陸が続いている。アサイ曰く、その大陸が【アグナダム帝国】ではないかと言われている。そして更に北にはケイ達がいる大陸がある。
ルフ島から三~四日でこの大陸まで来れたことから、その間にある島は相当広い島であると考えられた。
そして全体の地図には他にも六つの島が書かれている。
ダイン、ジュランジ、ルバーリア、ドゥフ・ウミュールシフ、ガラー、ジャヴォールと名前が記されている。
ドゥフ・ウミュールシフに関しては、エルフ族のセディルが召喚した上位精霊ダビアが住んでいたとおぼしき島の名でもある。となると、この世界は元々これが本来の形ではと考えに行き着く。
アサイが述べたアグナダム帝国は、おそらくアスル・カディーム人とアフトクラトリア人がいた大陸のことを示しているのだろう。
横目でアレグロとタレナの様子を伺うと、何かを思い出そうとしている姿がある。しかし思い出せないのか皆には内緒で小さく首を振る。
「アグナダム帝国ってところは、もしかしたらアスル・カディーム人とアフトクラトリア人が住んでいた大陸じゃないかと思う」
「えっ?じゃあ、大陸にあった文献は本当のことだったってこと?」
「だろうな。そうなるとここまで大きな島国なのに何故沈んだのかという考えがでるな」
地図の縮尺から考えると、実際の全長は恐らく数十万単位になるだろう。
おそらく地球にある大陸より大きく広い。それが仮に戦争で沈んだと考えると、ちょっと理にかなわない。なにか裏があるのだろう。
アサイからその地図は大分古い物で、今の桜紅蘭は他の島を行き来していることはしていないことから、周辺の海域の地図という物が存在しないと話し、よって今他の島が実際にどうなっているのかわからないそうだ。
その後もキキョウやミナモが持ち込んだ文献や資料を見せて貰う。
それによると、戦争以前ではアグナダム帝国の一部の地域と桜紅蘭から東にあるダインという島との交流が主だったと記されている。
他の島は船でも距離があるため、あまり接点はなかったということが本音だろう。
「となると、次の行き先はダインかな?ここから近いし」
「やっぱり行くの?」
「まぁな、それにアレグロの件もあるし」
そこでケイが言葉をくぎると、アサイ達はアレグロの方を向きどういうことなのかと事情を説明する。
ケイは自分たちの目的とは別に、アレグロの儀式による浸食を止めるための手段や原因を探っていると説明をする。残念なことに、アサイ達はタァークルのことを知らない様子で協力できずに申し訳ないと頭を下げる。正直な話、桜紅蘭に来てから前回より徐々にタァークル率が上がっている気がする。早めに手を打たないとと思いつつ、アレグロは自分のことは気にしないでと首を振る。
さすがに彼女の身に何かあれば夢見が悪い。なんとかせねばと思うにも気持ちは焦る一方である。
「ところで、サザンカはどうするんだ?」
話を一区切り終えたところで、ケイがサザンカの身柄の事を尋ねる。
アサイは戸惑いながらも極刑は免れないだろうと口にする。
桜紅蘭での極刑は、斬首か島流しを意味する。一昔前では斬首は罪を背負った者に行われ、日本の江戸時代のようにさらし首にした後、火を付けて燃やすことが一般的であるといわれている。なにせ桜紅蘭はケイ達の大陸のように魔物がほとんどおらず、遺体を捕食するということはほぼない。ただ遺体の処理には燃やすか埋めるの二択で、今は火葬した後に海洋散骨が支流であると言われている。死は海に帰ることと同義語にあたる。この島ならではといったところだ。
ただ、タマエのことを考えるとアサイは二の足を踏んでいる様子だった。
今まで相談役として共に過ごしてきた人物が、まさか自身の夫とアサイ達の両親を殺して実権まで奪おうと考えていたのだから無理もない。
その話は改めて村を挙げて審議にかけることで保留にしている。
それに、タマエは今回の件でアサイ達に引き取られる形になるそうで、今は母親の屋敷で女中に世話になっている。ミナモから調査が一段落したら自分の屋敷で世話をすることになると決まっている。
「そういや長争いの時、アサイとキキョウはなんであんなにも揉めたんだ?」
ケイの何気ない一言に二人がギョッとし狼狽える。
ミナモからまだ根に持ってるのと呆れるような物言いをされ、二人は依怙地の延長線上の喧嘩だとバッサリと切り捨てる。
どうやら事の発端は、キキョウがアサイが食べるはずだった三色団子を勝手に食べたことから喧嘩になり、同じ時期にサザンカから鬼人の証の話を聞いたことから騒動に発展したらしい。結果的にサザンカの思うとおりになってしまったわけだが、ミナモとユイナから二人は島を背負っていく立場なのだから、いい加減にことあるごとにつまらないことで喧嘩はしないでほしいと注意される。
弟と妹に言われたことが聞いたのか、大の大人が面目ないと頭を下げて謝るところは少し滑稽だった。
翌日の早朝、ケイ達は北の桟橋に泊めてある船まで戻って来た。
見送りには忙しいながらもアサイ達が立ち会い、魔法で変装を解いたケイ達を見て改めて自分たちとは別なんだなと口を開く。
「なんか世話になったな。それにこれも、本当に貰って良いのか?」
「はい。それに世話になったのは私達の方です。これも皆さんの方が必要なのではと思いまして、少しばかりの感謝の気持ちではありますがお譲りいたします」
アサイからは、昨日見せて貰った巻物に描いてあった世界地図を受け取った。
島の貴重な資料ではないかと一端は断ろうとしたが、他の島に行くのであれば必要ではというアサイの好意に甘える形となる。
魔道船に乗り込んだケイ達は、桟橋から手を振るアサイ達にまた来るよと声をかけた。四人も道中には気をつけてと声を送り、船は次の島であるダインに向けて東へと進めたのであった。
アサイたちの協力のおかげでアフトクラトリア人とアグナダム帝国の存在が浮き彫りになり、桜紅蘭の他にもいくつかの島が存在することも確認されたため、ケイ達は次の島であるダインという島に向かって東に舵をとったのでありました。
次回の更新は5月22日(水)夜です。
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