142、使用人の確保
皆さんこんばんは。
いつもご高覧くださりありがとうございます。
さて今回のお話は、屋敷の使用人の確保のお話です。
「やっぱあれだな。使用人・・・雇うか」
屋敷の前でいくつもの拘束系トラップである【ブロークンセキュリティ】が発動している。
魔方陣からツタが伸び、それが子供達が巻きついている。
子供達が未知なる生物に恐怖を抱き、許しを乞おうと泣いて謝っているそのシュールな光景に、出先から戻ってきたケイ達が遠い目をした。
事の発端はその日の朝から始まる。
この日ケイ達は、依頼のために一日屋敷を空けていた。
従魔のブルノワと少佐も連れて行ったため屋敷は完全に人がいない状態で、ケイが外出する際に防犯のために屋敷の周辺や庭にいくつか拘束系の魔法をセットしておいたのだが、夕方戻ってみると遠くからでもわかるほどの人垣にトラップが発動したであろう魔方陣の光がいくつか浮かんでいた。まさかと思って慌てて駆けつけると、案の定子供達の泣き喚く声にその子達の親であろう大人達がオロオロした表情を浮かべている。
術を解除し事情を聞いてみると、どうやら住宅地区に住んでいる子供達のようで、時折この屋敷の庭に入って遊んでいたようだった。子供達の親の中には、自分の子供に何かあったら責任取ってくれるのか?というクレーム気質の人もいたのだが、こちらが私有地に防犯策を講じて何が悪い?勝手に入ってきたのはそっちじゃないか?住居侵入で兵に訴えてもいいんだぞ?と伝えると、ガキ大将の少年の親らしい恰幅のいい男性が自分の子供の頭部に拳骨を落とし平謝りをする。
このことからケイ達は、自分たちの留守中に管理できる使用人の確保に乗りだそうと考えたのである。
翌日使用人の確保のためケイ達が向かった先は、商業地区の一角にある奴隷商の屋敷だった。もちろんダジュールにも奴隷は存在するのだが、犯罪奴隷以外の奴隷にもある一定の人権は存在するそうで、アダム曰く従業員の数割が奴隷という少し特殊な奴隷商で有名なところだという。
奴隷商の屋敷は、二階建ての白壁にダークオークの骨組みや屋根がマッチしているお洒落な外装だった。入り口には花壇が設けられており、色とりどりの花が来客を出迎えている。正直言われなければわからないほどだ。
足を踏み入れると、高級感漂うまるでサロンのような優雅な店内が一望できる。
女性の従業員がこちらに気づき用件を尋ねて来たので、最近屋敷を手に入れたので留守を頼める使用人を確保したいと述べると、その従業員は奥にいたであろう奴隷商の主を呼んだ。呼ばれて現れた人物は、落ち着いた色合いの茶色のスーツに身を包んだ壮年の男性だった。おそらくこの人物が奴隷商の主なのだろう、男性は自分が相手をするといい先ほどの店員を下がらせる。
「ようこそ奴隷商へ。奴隷商の主でありますラミケルがご案内いたします」
ラミケルと名乗った男性はケイ達の用件を聞くと、さらに詳しい事情を聞くために別室にある応接室へと案内した。
「なるほど。確かにあそこは住宅地区に隣接していますので、そのようなことが起こるでしょうね」
応接室に案内され事の経緯を説明すると、ラミケルはなるほどと頷いた。
聞けば五年前までは住宅地区の一部まで上流地区の区域だったようで、国王が代替わりをしたと同時に区画整備も行われたことで現在の区画へと変化したそうだ。
そのせいなのか、現在ケイ達が拠点にしている屋敷だけがその境目に残っているということらしい。
「とにかく俺達は冒険者だから拠点にしている屋敷は留守にすることが多い。そこで、俺達のいない間に屋敷の管理をしてくれる使用人を探している」
「そういうことでしたら、貸し出しではなく奴隷を常駐させるべきでしょうね」
「貸し出し?奴隷って売った買っただけじゃねぇのか?」
「ここでは期間を決めて奴隷を貸し出しすることも可能です。しかしお話を聞いた限りでは貸し出しするにもお金がかかりますので、本格的に置いておくといった方が皆様にはおすすめかと思われます」
ここの奴隷商では、貸し出しのシステムも導入している。
どうやら隷属の儀式をしても相手の意向で無駄になってしまうことがたびたびあったそうだ。そして悩み抜いた結果、ラミケルは隷属の儀式とは別に限定期間だけ結ぶ契約方法を思いつき、実践したところこれが思うようにいったのだという。
犯罪奴隷以外の奴隷は一定の人権があるため、そこを尊重しつつ相手に提供するといった力量が必要になる。そこに関しては今までの経験と知識の賜といったところだろう。
「奴隷を購入するに辺り、何か条件などはございますでしょうか?」
「もちろん条件はいくつかある。まずは屋敷の管理ができるやつと料理ができるやつ、庭があるから庭師もほしいし、警備もいるから最低四~五人はほしい。あとできれば俺の従魔のブルノワと少佐を怖がらずに理解できるやつならなお良し!」
先ほどからケイの膝にブルノワが足元に少佐が寄り添っているが、彼らには少し難しい話だったのか既に船を漕いでいる状態である。
ここに入る前に子供と生き物の入店はちょっとと店員から注意されたのだが、自分の従魔だと答えるとかならずといっていいほどその姿に驚かれる。従魔なのだから背中に羽根が生えていたり頭が三つあっても問題はないのが、初めて会う人達には大概驚かれる。たたケイの周りにいる人達に至っては、元々肝が据わっているのか宿屋のマリーやドルマンなどはすぐに慣れた。
ケイの話を聞いたラミケルは、側に使えていた店員を呼び寄せ耳打ちした後、人材を選考してきますといい一度席を外した。
結論からいうと、条件に見合った人物が七人ほど見つかった。
内訳は、屋敷を管理把握する執事が二人、料理人が三人、庭師が二人である。
ケイはラミケルに全員と話をさせてほしいと頼み、個別で話をすると同時に鑑定で人材の能力を確かめる。そして三人ほど内定を決める。
「初めまして。私はローゼンと申します」
一人目は、銀髪に口と顎に整えられた髭をした四十代ぐらいの男性だった。
男性は膝にブルノワ、足元に少佐がいるにも関わらず驚く事もせずまるで孫を見ているような目線で彼らを見つめていた。
ローゼンは、五年前までアルバラントの見世物小屋で案内人を務めていた。
彼は12才の時に口減らしのために奴隷として売られ、15~38才まで当時の主である見世物小屋の主に仕えていたそうだ。しかし五年前に見世物小屋の禁止により廃業し、多額の負債を抱えた見世物小屋の主は全てを手放して行方を眩ましたそうだ。
以来ローゼンはこの奴隷商で過ごし今にいたる。
「パーシアと申します。えっと、ハーフエルフです」
二人目は、ウェーブがかった長い金髪に右目が赤、左が青のオットアイを持ったエルフと人間のハーフの少女だった。彼女はブルノワと少佐を見るなりかわいいと口にした。まぁ、確かに可愛いのは認めよう。
パーシアもローゼンと同じ見世物小屋で演者として活動していた。
当時は逃げられないように檻に入れられ、来る日も来る日も人々の奇異な目で見られ続けたそうだ。その時、彼女を支えてくれたのはローゼンだった。聞けば彼女は生まれてすぐに両親に見世物小屋に売られたらしい。今だったら完全に犯罪なのだが、彼女が生まれた18年前は暗黙の了解で認められていたそうだ。酷い話である。
彼女からはもし自分が買われるのであれば、恩人でもあるローゼンも一緒に買ってほしいと懇願し、でなければこの話を了承しないと口にした。
ケイはすでに話を聞いた段階で二人の採用を決めていた。
ローゼンは奴隷をしていたわりには全体的な能力が一般人以上あり、パーシアは料理スキルがLv6とそこそこ高い。この二人を執事、料理人としてほぼ確定だ。
「ルトといいます。えっと・・・特にこれといって秀でた才能はありません」
三人目の青年は随分と自虐的だなという第一印象を持った。
ルトと名乗ったくせっ毛をした茶髪の青年は、二年前にこの奴隷商にやってきた。
もともと家は片田舎の兄妹の多い家庭で彼は四男坊だったが、両親が養っていけないという理由で遠い親戚に養子として出された。しかし養父母が金遣いの荒い性格だったようで、お金ほしさに自分が寝ている間に奴隷商に売られたらしい。
ラミケルにそれとなく尋ねてみると、なんと養父母は彼の元の両親に病死したと嘘をつき、ラミケルには両親は死んだと話していたそうだ。
のちに虚偽の行為だということで養父母は実刑をくらったが、ルトはすでに奴隷として身分を落とした後だったため、両親はそれに気づき買い戻そうとお金を工面していたが金額が金額なだけになかなか思うようにいかず、ついにはルトは死んでしまったと納得し諦めてしまったそうだ。
それからルトはしばらくは見捨てられたと絶望してしまっていたが、ラミエルは奴隷でありながらも彼のことを気遣い、彼を要望としていた客には絶対に裏切らない嘘をつかないという条件をつけていたためなかなか新しい主に出会うことができなかったのだという。世知辛い世の中である。
その話を聞き、ルトも内定だとケイは結論づけた。
ルトは自分には才能がないと言っていたが、鑑定を見る限り知力と器用さと運が一般人より高い。しかもスキルに錬金術師Lv5がついていたので、これを使えば彼にも新しい道が開けるのではと密かに考えていた。
そしてもう一つ所望していた警備ができる奴隷の話だったが、別途十人ほど見せて貰ったがどうしてもこれといった人物に出会えなかった。十人とも先の三人のように突出した能力がないのだ。
もちろん別室でケイとアダムで個別に面談をしたのだが、驚くほど揃いも揃ってアクが強い。よくいえば野心家、悪くいえばがめついといったところだろう。
ケイとアダムが面談をするたびに引きつった笑みを浮かべていたので、ラミケルも彼らではないと同じように困った笑みを浮かべる。
「戦闘の出来るやつはこれだけか?」
「はい。要望にあう者は彼らだけとなります」
「そっか~じゃあ“欠損奴隷”っている?」
「えっ?欠損奴隷ですか?確かに当館には数名おりますが・・・」
ケイが欠損奴隷の話をしたところ、ラミケルから彼らは戦闘としては能力的に不十分ではないかと返される。アダムはケイの言葉の意味を瞬時に理解し、あぁと納得をした。
この奴隷商にいる奴隷は、犯罪奴隷以外は基本的に館内を自由に歩き回ることができる。それはラミケルの意思であり勝手に逃げることはないのかと尋ねると、館内用の隷属の刻印を施しているのでその辺は心配ないとのこと。
欠損奴隷は基本館内の二階にいるそうで、ラミケルの案内で二階に上がるとベッドに横になっている者や椅子に座っている者が数人いた。
その中でケイが目を留めたのは、窓の外を見ている長身の男性だった。
「なぁ、ちょっと話ししねぇか?」
ケイが声をかけ振り返った男性は、右腕に包帯、左目に黒い眼帯をつけていた。
窓から入る光が赤っぽさを残した茶髪に反射している。男性は少し考える素振りをみせてから頷いた。
「俺はボガード。一年前にここに来た」
ボガードと名乗った男性は元・冒険者だった。
護衛依頼を受けている途中で夜盗の襲撃に遭い、護衛対象を死なせてしまっただけでなく仲間は逃げ、多額の違約金を一人で払っていたが結局払いきれずに奴隷に落ちたそうだ。彼に残ったものといえば右腕の裂傷の跡と左目の失明だった。
彼が窓の外を見ていたのは仲間達を見つけていたそうだ。今になってはどうすることもできないのだが、どうしても窓から仲間を見つけたかった。口には出さなかったが表情とニュアンスでそのように感じた。
「じゃあ、俺があんたを治して仲間捜しを手伝ってやるって言ったら、あんた俺についてくか?」
ケイの言葉にボガードは戸惑いの表情を見せる。
まばたきもせずに凝視しているケイの表情から何かを感じ読み取ろうとしたが、それが冗談なのかはたまた本気なのか彼にはそれがわからなかった。
「もしあんたが捜した仲間をギッタンギッタンにしたいなら手伝ってやる・・・どうする?」
復讐を臭わせる言葉にボガードは何を言っているんだと混乱していたが、その一方でケイはボガードの多才なスキルに目を奪われていた。
正直、攻撃や防御スキルの多才さや自己回復のスキルありと全体的な数値も高い。
ケイとしてはこの男性を引き入れればより一層セコム感が増すと考えていただけなのだが、どうも知らない間に両者に温度差がある。
「わかった。君の要求を受け入れよう」
ケイの表情を読み取ることができなかったボガードは、何かを決意したのかはたまた観念したようなため息をついてから承諾をした。その途端ケイはよし!とガッツポーズを取り、屋敷を買ったから警備を頼みたいと説明をした。
少なからず構えていたボガードは、その言葉に鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしたのはいう間でもない。そして続けて「本当にやりたいのなら手伝ってやる」と耳打ちをされ更に困惑した。
ケイはとりあえず今回はこの四人でとラミケルに伝え、一階の応接室にいるみんなの元に戻ろうとした。
(ケイ、ちょっと待つんじゃ!)
一階に下りたケイの脳裏に突如、大剣・インイカースの声が響いたのである。
四人の使用人と突如ケイの脳裏に響いた大剣・インイカースの声。
この後、ケイ達に意外な展開が待ち受けていた。
次回の更新は3月4日(水)です。




