最終話「始まりの終わり」
長い戦いにもようやく終わりが来た。スペルトを倒せば、アルケー教団との因縁も終わる。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
僕はスペルトに向かって殴りかかる。しかし、スペルトはそれを軽々とかわす。続いてウィンディと兄さんが同時に攻撃する。スペルトの両サイドから、ウィンディは手首、兄さんは腕から刃を出現させ、スペルトに斬りかかる。だが、スペルトはこれもよけ、翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こし、二人を吹き飛ばした。
「これならどうだ!!」
僕は両手にアースエナジーを集中させ、光弾を放つ。一方、スペルトは妙な行動に出た。大きく息を吸い込み、大量の唾液を吐き出した。すると、驚いたことに吐き出された唾液が瞬時に固まり、巨大な氷塊のようになった。氷塊はそのまま光弾にぶつかり、相殺された。
「なに!?」
「その程度か?」
スペルトはニヤリと笑う。
「同時攻撃だ!」
僕とウィンディは兄さんの指示の下、散開し、スペルトを狙う。
僕はさっきと同様、両手にアースエナジーを溜める。兄さんは額に体内エネルギーを集め、ウィンディは手首、足のブレードに風の力を集中させる。そして、僕は光弾、兄さんは光線、ウィンディは風の刃をスペルトに向かって同時に放つ。この時、兄さんの光線はスペルトの頭上、ウィンディの攻撃はスペルトの両サイドと股下、僕はガルタークの正面を狙って放っていた。こうすれば、ガルタークはどの方向にもよけられないし、さっきみたいに唾液の塊で防ぐことも難しい。
これには、思わず僕は勝利を確信した。しかし、スペルトは思わぬ行動に出た。なんと前面を羽で覆い、僕の攻撃を正面から受けたのだ。しかも、この時スペルトは光弾が当たる瞬間に後ろに下がることでダメージを抑えている。さらに、攻撃を受けたことでさらに後ろに下がり、兄さんとウィンディの攻撃もかわす。
「そんな・・・・!!」
成功すると思っていた僕は驚きを隠せなかった。だが、これだけでは終わらなかった。スペルトは後ろに下がった瞬間、口から唾液を吐き出し、針のような形に凝結させた。それを兄さんの光線とウィンディの風の刃に当て、攻撃の軌道を僕の方に修正した。
「なに!?」
「エルト、よけて!」
僕はウィンディの言う通り、攻撃をよけようとした。だが、僕は咄嗟のことで反応できず、そのまま攻撃を受けてしまった。
「うわあああああああああああ!!」
僕は攻撃を受け、吹き飛ばされた。スペルトを倒すために用意した渾身の一撃だ。僕に効かないはずがない。攻撃を受けた僕は、体がボロボロになり、徐々に動かなくなっていくのを感じた。
僕はスペルト、いや、ガルタークの力を思い知った。ガルタークは力だけでなく、知能も僕達を越えていた。この怪物に勝つ方法は・・・・ない。
「エルト・・・そんな・・・・」
「ククッ・・・ノアは、死んだ!これで全ては自然のままに戻った!私がこの地上を滅ぼすことで、地上はあるべき形となるのだ!!」
スペルトは笑い声を上げながら叫んでいる。それを見て、兄さんは拳を握りしめた。
「貴様・・・・よくも!!」
「ククッ、貴様らは見逃してやる。私が作ったかわいい子どもみたいなものだからなぁ。」
スペルトはそう言って不気味な笑顔を浮かべ、そのままゆっくりと地上を目指して降りていった。
「エルト!!」
兄さんとウィンディは僕の元に駆けつけ、手をギュッと握ってくれた。僕はそれがとても嬉しかった。これが、最後の別れとなるのだから。
「兄さん、僕・・・もう・・・・」
僕は自分が死ぬと確信していた。強力な攻撃を二つも受け、それに加えて、今までの戦いで体がまだ回復しきっていなかった。
「ディルスさん、なんとか・・・・なんとかエルトを助けられないんですか!?」
「俺達にそんな術は・・・・」
二人は落ち込んだ。僕を助けられなくて悔しいと思ってくれてる。だけど、僕はその気持ちだけで満足だった。どうせ、勝てない相手だったのだから。
その時、兄さんはハッと何か思いついたかのように顔を上げた。
「一つだけ、方法がある。俺達の全エネルギーをエルトに集中させる!」
兄さんはとんでもないアイデアを出した。それを聞いた僕は、声に出せないくらい驚いていた。
「そ、そんなの、できるんですか!?」
「理論上ではな・・・・」
兄さんの言う通り、理論上は可能だ。兄さんとウィンディ、二人のエネルギー源は違うけど、アースエナジーがそれを分析し、取り込むことで僕の体に馴染ませエネルギーに変換できる。だけど、最大のリスクとして、僕に全エネルギーを使ったりしたら・・・・二人は、死んでしまう。
「ダメ、だ・・・・そんなことしたら、二人は・・・・」
「わかってる・・・・俺達は死んでしまう。だが、俺は構わない。どうせ死んだ命だ。俺の好きなようにする。ウィンディ、お前はどうする?」
「あたしは・・・・やります。私の命だもん・・・・好きなようにする!」
僕は二人の決断が信じられなかった。どうして僕にそこまで命を懸けられるのか、何故僕を信じているのか、僕には理解できなかった。
「どうして・・・・どうして、そんなことができるんだ・・・・!?」
僕の疑問に、二人は答えた。
「お前、言ったよな。ノアは、希望だと。俺にとって、お前はノア以上の、たった一つの希望なんだ!!」
「あたしだってそうだよ!エルトがいなかったら、あたし、自分を見失ってたかもしれないし。あたしにとっても、エルトは希望だよ!」
僕は2人の答えを聞いた途端、考えていた疑問は全て晴れた。
僕は2人にとっての希望、いや、2人だけじゃない。僕は地上に生きる全ての人の希望になるかもしれないんだ。なのに、僕は諦めようとした。自分が情けない。相手が強いからってなんだ!僕が弱いからってなんだ!みんなの希望になる僕が、絶対に負けちゃいけないんだ!
「ウィンディ、いくぞ!」
「はい!」
2人は僕の手をギュッと握り、全エネルギーを僕へと流し込んだ。2人の力が、僕の中に入っていくのを感じる。体中から力が漲るような感じだった。
「頼んだぞ、エルト・・・・」
「エルト・・・ありがとう・・・・」
全エネルギーを使い、僕に力をくれた2人は粉々に砕け、砂のように消えてしまった・・・・
「兄さん・・・・ウィンディ・・・・!!」
僕は2人の死に涙した。だけど、僕はすぐに涙を拭い、スペルトを追いかけた。
もう迷いは吹っ切れた。今ようやくわかった。僕のこの力は、僕だけじゃなく、僕に関わった全ての人達が作られたことを!同様に、僕の力は僕に力を貸してくれたみんなによって作られたことを!そして僕は、この地上の平和を守り、みんなの希望として怪物と戦い続けなければならないことを!
「見つけた!」
「なに!?ノアだと!?」
僕はスペルトの尻尾を掴み、雲の上に向かって投げ飛ばした。
「くっ・・・!!」
投げ飛ばされたスペルトだったが、すぐさま態勢を整えた。
「貴様・・・・なぜ生きている!」
「2人が、力を貸してくれたんだ。そして僕は戻ってきた!お前を倒すために、この地上を守るために!!」
「私の理想を、野望を邪魔するなぁ!!」
スペルトは逆上し、牙をむきだしにして僕に飛びかかってきた。
僕はそれをよけ、拳を突きだし、スペルトを殴り飛ばした。殴る時に拳を回転させたため、威力が底上げされている。
「お前のつまらない理想のために・・・・みんなを死なせるわけにはいかないんだ!!」
僕はそう叫び、今度はこっちから攻撃を仕掛けていった。スペルトも僕に向かって突進する。2人の攻撃はぶつかり合い、火花を散らす。そこから目に見えない速さで飛び回り、攻防を繰り返す。現時点での強さは、僕の方が上だった。スピード、攻撃力・・・・全てにおいて勝っていた。まるで、2人が僕と一緒に戦ってくれているかのようにも感じた。
「バ、バカな・・・・私が貴様に劣るはずが・・・・!!」
スペルトは僕の強さに驚いている。僕自身も、この力には驚いている。さっきまで強いと思っていたスペルトが、急に弱くなったと思えるほどだった。
「貴様なんぞに、私が負けるはずがない!」
その時、スペルトは僕の周囲を飛び回り、唾液を何度も吐き出していった。吐き出された唾液は瞬時に凝結し針のように変わった。その針は僕を取り囲み、僕に向かって一斉に飛んできた。しかし、これぐらいだったら僕の装甲にはなんのダメージもない。僕は腕を交差させ、防御態勢をとった。
しかし、針が僕の体に当たろうとした瞬間、凝結した唾液の針は突然蒸発し、白い煙を上げた。恐らく、唾液の温度が急激に上昇し、蒸発。白い煙になって消えたんだ。
「奴はこんなこともできるのか・・・・」
僕はスペルトの力に少し驚いたが、すぐに冷静さを取り戻し、気持ちを落ち着かせた。
その時だった。背後からスペルトが襲いかかってきた。スペルトは牙をむきだしにし、口からはよだれを垂らし、両足の鋭いかぎ爪で僕を捕らえようとする。
しかし、僕はそれに気づき、スペルトの首と羽を掴んだ。
「ぐあっ!!?な、なぜだ・・・・!?姿は見えないのに・・・・気配だって・・・・」
「どれだけ気配を消しても・・・・僕には分かるんだ。お前の邪悪な心が!」
「こ、心だと・・・・?」
「これで、終わりだ!!」
僕はアースエナジーを胸のコアに集中させた。そして、スペルトに向かって放つ、今の僕の最大の力・・・・
「や、やめろぉ!!」
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
僕は胸のコアから巨大な光線を放ち、スペルトの胸に大きな風穴を開けた。
「あ・・・あっ・・・・」
スペルトは負けたことで力を失い、元の人間の姿に戻った。だが、スペルトはかなり衰弱している。もう死ぬのは時間の問題だ。
「これで・・・・終わったんだ・・・・」
僕は青空を見つめながら、小さくつぶやいた。その時、スペルトは笑った。
「なにがおかしい?」
「これで、終わりではない!これから始まりだ!私は死んでも・・・・ガルタークの魂はまだ死んではいない!!」
スペルトがそう叫ぶと、体から黒いオーラのようなものが現れ、そのオーラは地上に向かって飛んでいった。
「な、なんだ今のは!?」
「ガルタークの魂・・・・奴は復活するために地上にいる人間の魂を喰らう気だ・・・・」
「なんだって!?」
「もう止められない・・・たとえ貴様でもだ!!フハハハハハハハハハハハ・・・・・!!」
スペルトは高笑いを浮かべながら砂のように消えていった。僕はすぐさまガルタークの魂を追いかけた。
ガルタークの魂を見つけた僕は逃げないように魂を抱きかかえ、動けないように拘束した。
ガルタークは今、魂だけの状態になっている。僕の力じゃ魂を攻撃することはできない。だけど、力を使って封印をすることならできる。僕は力を使って小さい石を作り出した。この石が、封印を解除する鍵となる。
僕はその石をできるだけ遠くに向かって投げた。これでしばらくは大丈夫なはず。しかし、封印はやがて解けるかもしれない。その時は、石によって、僕の力は目覚めるだろう。
「その日が・・・その日が来るまで・・・・」
僕はガルタークの魂ごと、体を固い鋼のように変化させ自分をガルタークごと封印した。僕の体は海に落ち、海の底まで沈んだ。やがて地形は変わり、海から山に変わり、木が生い茂り、生命を宿す。その中で僕は眠った。来るべき日、来るべき戦いの時まで・・・・・
『あの、すいません・・・・この石、売り物ですか?』
誰かの声が聞こえる。そうか・・・・ついに来たんだ。戦いの時が。これから先、辛いことがあるかもしれない。誰かを巻き込むかもしれない・・・・でも、それでも僕は負けない。なぜなら僕は、みんなの希望だから。僕の名前は・・・・ノア。
ついに、本当に終わりました!今回はなんというか、本当に書いてて「ちょっと辛いかな・・・・」って少し思ってしまいましたが、なんとか終わらせることができました!読んでくれた方がいたら、ありがとうございます!これで本当に完結です!




