第6話「戦いの序章 後編」
頭に響いてきた御門の声を聞いた僕は、彼女にテレパシーを送ってみた。
『君、テレパシーが使えるの?』
『テレパシー・・・・この日ノ本では超能力と呼ばれています。』
『超能力・・・・』
『この超能力は、陰陽師の中でも力のある者にしか扱えません。私だけでなく、草薙もこの能力を扱えます。』
『その通りです。』
その時、今度は男の声が聞こえてきた。この声は草薙道明の声だ。
『・・・どうして、僕を助けたの?僕はこの村を救えなかった・・・・いっそ、人思いにやられた方が・・・・』
「まだ楽だった」、そう言おうとした瞬間、道明は口を開き、それを遮った。
『あなたはまだ死んではなりません。あなたは、この世界の運命を担う存在なのです。』
『世界の、運命・・・・?』
僕は道明の言葉に疑問に思っていると、道明に続いて御門も口を開いた。
『我らの村の長・・・・大婆様が、未来を予言したのです。』
『予言・・・・?』
御門はゆっくりと予言の内容を語り始めた。
『数100年後の未来、変わり果てた大地に大いなる災いが訪れるであろう・・・・』
『災い?』
御門に続いて、道明も予言の内容を話し始めた。
『大いなる災いの前に、人々は絶望に打ちひしがれるだろう。しかし、この世に絶望が蔓延る限り、希望の守護神が必ず現れる・・・・・』
『希望の・・・・守護神?』
『その通りです。あなたは、その守護神なのかもしれないのです。』
『来るべき未来の為に、あなたを失うわけにはいきませぬ!』
僕は2人にいきなりとんでもないことを言われ、思わず戸惑った。僕はただの巨人で、守護神なんかではない。さっきのパンドラも倒せないのに、何が守護神なんだ。
僕はなんとかして2人を説得しようと試みた。
『ま、待ってよ!僕は守護神なんかじゃないよ!もし本当に守護神だったら、さっきの奴だってすぐ倒してた!そうだろう!?』
『『・・・・・』』
僕の言葉に、2人は沈黙した。それを見かねた僕は続けて言った。
『とにかく、僕は守護神なんかじゃないんだ。放っておいてくれ。』
僕はそっぽを向き、2人を遠ざけた。すると、2人は僕の腕に触れ、ゆっくりと口を開き始めた。
『あなたは、それでいいのですか?』
『えっ?』
『負けたままでいいのですか?悔いのあるままでいいのですか?』
『大婆様が言っていました。やり残したことがあるまま死ぬな・・・・と。』
『・・・・』
2人の言っていることはもっともだ。このまま何もしなかったら、僕はパンドラに負けたままになる。このまま逃げたら、僕は弱いままかもしれない。死んだ兄さんやアグニル先生に顔向けもできない。でも、今の僕の力じゃあいつに勝てない。1人だけじゃ・・・・
僕は2人の方に顔を向け、テレパシーで2人に呼びかけた。
『君達と一緒なら・・・・あいつを倒せるの?』
『我ら2人だけではありません。村の人も一緒に、全員なら・・・・!』
道明の言葉を聞き、僕は決心した。僕達で、奴を倒すと・・・・!
『よし・・・・やろう!みんなで!』
1週間後、パンドラ討伐のための作戦が開始された。
まず、村の中央に食料庫を設置し、その中に村に残された食料の備蓄を入れておく。これでパンドラを誘い出す。
これが失敗したら、村人達は本当に餓死してしまう。絶対に成功させなければならない。
「陰陽師様・・・これで本当に大丈夫なんですかい?」
「今思い当たる最高の策は、これだけです。やれるだけやるしかありません。」
僕は海の中、村人達は森の中、道明と御門は建物の残骸の中に隠れ、待機している。
その時、翼を羽ばたく音が聞こえてきた。僕はひそかに海から顔を出して見てみると、村の中央に奴が、パンドラが降りてきた。
(来た!)
『な~んだ、まだあるじゃない♪』
パンドラは喜びながら触手を食料庫に伸ばした。
「今だ!!」
その時、村人達が一斉に飛び出し、巨大な網をパンドラに投げつけた。しかし、パンドラはその網をいともたやすく切り裂いた。
「弓兵用意!!」
村長の掛け声の下、弓を持った村人達が一斉に弓を張って矢を発射した。矢は雨のようにパンドラに降り注いだ。
『フフッ、こんなのであたしを倒せると思ったわけ?』
パンドラは鼻で笑い、触手で次々と矢を防いでいく。
「御門!」
「ええ!」
村人達がパンドラを足止めしている隙に、道明と御門は両手で印を作る。
「「破邪封縛・急急如律令!!」」
2人が呪文を唱えると、パンドラの周りに半透明の壁が現れ、四方を囲んだ。
これでパンドラを壁の中に封じ込めることができた。だが、パンドラは別段驚いている様子はなかった。
『へぇ、これが陰陽師の技・・・・噂には聞いてたけど、結構すごいわね。でも・・・・こんなもんであたしを封じ込めると思ったら・・・・大間違いよ!!』
パンドラは両腕の刃と触手を使って壁を激しく攻撃し始めた。
「くっ・・・!!」
「なんて激しい・・・・これでは長くはもたない・・・・!!」
パンドラの激しい攻撃に、2人の集中力が乱れ始めた。
その時、
「ウオオオオオオオオオッ!!」
僕は海を飛び出し、ブースターを加速させる。そして、壁の中にいるパンドラに向かって拳を突き出した。
『バカね!あんただってこの壁の前じゃ攻撃できないわ!』
パンドラはそう言ったが、その言い分とは裏腹に、僕の拳は壁をすり抜け、パンドラの顔に命中した。
『な、なに!?』
道明と御門が作り出したこの壁は、悪しき者を封じ込めることができるが、悪しき心を持たない者には効果がなく、そのまま壁をすり抜けるという特徴を持つ。
『き、貴様ぁ!!よくもあたしの体に!!』
パンドラは自分の体に傷がついたことに怒り、触手で僕を攻撃し始めた。しかし、壁の外まで下がった。そして、パンドラの攻撃は壁に阻まれ、僕に攻撃は届かない。
僕は壁に手をいれ触手を掴み、思い切り後ろに引っ張った。すると、引っ張られたことでパンドラの体も引っ張られ、壁に頭を思い切りぶつけた。
『くっ・・・!』
壁に頭をぶつけたパンドラはよろめいた。その隙に僕はさらに触手を引っ張り、何度も何度もパンドラを壁に叩きつけた。そして、拳にアースエナジーを溜め、パンドラの顔面に思い切りたたき込む。
『がはっ・・・!!』
パンドラの頭は何度も何度も壁に叩きつけられたことでヒビが入っていた。さらに、顔は殴られたことでゆがんだ。
攻撃をくらったパンドラはよろめき、壁によりかかった。
「道明、今だ!」
「わかってる!!」
2人は術を解き、壁を消した。その際、僕は瞬時にパンドラを羽交い締めにした。
『な、なにする気・・・・?』
「剣よ、悪しき気を払い給え・・・・でりゃあああ!!」
道明は腰に納めた刀を抜き、刀に向かって術を唱えた。すると、刀に白いオーラが纏い始め、道明はその刀をパンドラに向かって投げた。
『ぐあっ!!こ、これは・・・』
刀はパンドラの腹に突き刺さった。その瞬間、パンドラは力を振り絞って僕に攻撃をしてきた。僕はとっさに拘束を解き、攻撃をよけた。すると、パンドラはいきなり地面に倒れ込んだ。
『な、なんなのこれ・・・・!?力が抜けて・・・・動けない・・・・!?』
パンドラは自分の力が突然出せなくなったことに驚きを隠せなかった。そんなパンドラに、道明がテレパシーを使い、パンドラに説明した。
『刀に相手を弱体化させつ術をかけた。術によって貴様の力は弱まったのだ。』
『あ、あんた・・・・こんなことしてただで済むと思ってんの?絶対、あんた達を殺してやる・・・・!何100年掛かってでも・・・・!!』
パンドラは力が入らない体で、なんとか立ち上がろうとしたが、また倒れ込んだ。
そこに、御門がパンドラの前に現れた。
『貴様がまた現れようと、人間は負けない。ノア殿と、人間と、我らの子孫がお前を倒す。』
「御門、封印を。」
「ええ。」
御門は懐から首飾りを取り出した。そして、その前で印を作り、呪文を唱え始めた。
「邪気封縛・急急如律令!!」
御門が呪文を唱えると、首飾りから巨大な渦が発生し、パンドラはその渦の真ん中へと吸い込まれていった。
『必ず、必ずブッ殺してやる!!覚えてろ、人間どもぉぉぉぉぉぉ!!』
パンドラは捨て台詞を残し、渦の中へと消え、首飾りに封じ込まれた。すると、首飾りはたちまち巨大化し、卵のような球体に変化した。その球体は、人間と同じくらいの大きさで、真ん中に黒い石がはめ込まれていた。
「この黒い石は封印を解く鍵。私か、私の血脈の者がこれに触れば封印が解ける仕組みになってます。」
御門の説明通りなら、これでパンドラが復活することはありえない。この世に平和を取り戻すことができた。
「や、やった!あの物の怪を倒したぞ!!」
パンドラの封印に、村人達は大いに喜んだ。そこに、御門と道明が村人達の前に立った。
「村人の皆様、これで悪しき魂は封印されました。」
「後は村の復興のみ。復興できるかどうかはあなた方の手にかかっています。」
「はい!」
「ようし!!気合い入れて村を立て直すぞ!!」
活気づく村人達を見て、僕はひっそりと村を立ち去ろうとした。しかし、その時、
「お、お待ちください!巨人様!」
村の村長とその孫娘らしき幼い女の子が僕の前に現れた。
「あなたはこの村の救世主・・・・なのに、我らはあなた様を侮辱した・・・・!」
村長は孫娘の前で手首を前に動かす動作をした。その動作を合図とし、孫娘が両手に残った村の食料を手に、僕に向かって差し出した。
「これは、せめてもの償いです、どうか、お納めください・・・・」
村長はそう言って深々と礼をした。それを見た僕は、食料を受け取らず、ブースターを展開し、そのまま空中を飛んでいった。
「きょ、巨人様!」
「大丈夫。あの方は、もう怒ってはおりません。」
「み、御門様・・・・」
「なぜなら、あの方はこの大地の守護神なのですから。」
僕は戦いに勝った。僕一人の力じゃない。みんなの協力があって勝てた。
僕は嬉しさのあまり空中を飛び続けた。
だけど、この戦いは・・・・後の現代日本での決戦までの序章にしか過ぎなかったのだった・・・・




