第3話「初陣」
「きょ、巨人が動き出したぞ!!」
「怯むな!撃て!撃てー!!」
教団の者達は僕に向かって矢を放ってきた。しかし、そんなものが僕に通じるはずもない。僕の固い装甲は軽々と矢を跳ね返す。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
僕は雄叫びを上げながら拳を振り下ろした。
「う、うわあああああああああ!!」
教団の者達は一斉に逃げ出した。しかし、それよりも早く僕の拳が彼らを押しつぶした。全員とはいかなかったが、何人かは僕の拳で潰れ、そこに残っていたのは大量の血と人の皮だった。
(よくも、よくも!よくも!!よくも兄さんを!!)
僕は怒りに身を任せ、開発室の中で暴れ回った。そこに人がいようが、僕にとって大事なものがあろうが、お構いなしだった。怒りに身を任せ、ただただ自分の力を振るっていた・・・・
気がついた時には、もう開発室は跡形もなく無くなっていた。見えるのは小さくなった街・・・・いや、僕が大きくなったから、小さく見えてるだけだ。その時、僕はふと自分の拳に目をむけた。僕の拳には、人間の血がベットリとついていた。しかも、少しだけ人間の皮がこびりついていた。
(これ・・・本当に・・・僕がやってのか・・・・?)
僕は戦ったことなんてなかった。戦いの才能なんてなかった。なのに、そんな僕が、人を殺した。悪人だったとはいえ、僕は人を殺した。
「な、なんだあれは・・・・?」
「まさか、あれが王の言っていた"巨人"か!?」
「きっとそうだ!奴さえいれば、俺達は助かるかもしれない!」
人々が僕を見て、雑談している。しかし、僕の耳にそんなものは入ってこなかった。
僕の胸は激しく脈打った。機械であるノアになったから脈なんてないけど、コアになった僕の心臓は脈を打っている。ぼくは段々、自分の力が怖くなっていった。なんのためにこの力があるのか、自分が人や物を傷つけていいのか・・・・頭が混乱しそうになった。しかし、次の瞬間、そんな考えも吹き飛んでしまう。
「ギャオオオオオオオオオオオッ!!」
壁の向こうから獣とは思えない不気味な叫び声が轟いた。それを聞いた途端、僕の考えごとは吹き飛んだ。それと同時に、兄さんが最後に言い残した言葉が頭をよぎる。
『お前のような強くて優しい者が、手を差し伸べてやるんだ。』
その言葉を思い出した僕は、気がついた。今やるべきことは、悩むことじゃない。戦うことだ。みんなを怖がらせ、苦しめる敵を僕が倒す・・・・それが、僕の今のやるべきことだ。
(そうだ・・・・悩んでる場合じゃない。僕がみんなを、人間を守るんだ!!)
僕は化け物と戦うことを決心し、ノアに搭載されたブースターを射出し、大空へと飛び上がり、壁の外へと舞い降りた。
「おお!!飛んだぞ!!」
僕が飛んだ瞬間、人々は喝采を上げた。
そして、壁の外に出た僕を待ち受けていたのは、みんなが恐れていた化け物達だった。今でいうと、怪獣・・・と言った方がわかりやすいだろうか。怪獣の数は数え切れないほどだった。姿形は一匹一匹別で、虫のような姿、恐竜のような姿、獣のような姿・・・・それぞれに特徴があるものばかりだ。
「ギャオオオオオオオオオオオッ!!」
「キュイイイイイイイイイイイイ!!」
「ブォォォォォォォォォォォォン!!」
怪獣達は僕を見るなり、雄叫びを上げて襲いかかってきた。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
僕も雄叫びを上げ、拳を振りかざし、真っ正面にいた蜘蛛型怪獣の顔に拳をたたき込んだ。拳を受けた怪獣はそのまま吹き飛び、後ろにいた怪獣達とともに後ろに転がる。
その時、蜘蛛型怪獣の両サイドにいた象型怪獣と獅子型怪獣が僕の両腕に噛みついた。しかし、固い装甲のおかげで、僕はいたみを感じず、傷もできなかった。僕は2匹の怪獣を持ち前のパワーで振り回し、遠くに投げ飛ばした。さらに、両手にアースエナジーを集中させ、投げ飛ばした怪獣に光弾を発射。光弾を受けた象型と獅子型怪獣は爆散した。
その時、後ろから牛型怪獣が僕の背中に体当たりしてきた。僕はそれをまともに受け、吹き飛んでしまうも、ブースターを使って体勢を直し、地面に着地。牛型怪獣はさらに突進してくる。僕はそれを角を掴むことで止めた。そして、掴んだ角をそのままへし折り、怪獣の脳天目掛けて突き刺した。
「ブォォォォォォォォォォォォン!!」
牛型怪獣は痛みのあまり叫び声を上げる。僕は間髪入れずにさらにもう一本の角を突き刺し、拳でさらに奥まで貫通させた。脳にまで角が刺さった牛型怪獣は倒れ、ピクピクと痙攣した後、息絶えた。
「キュイイイイイイイイイイイイッ!!」
その時、背後から虫型と鳥型の怪獣が現れ、触手とかぎ爪で僕を捕まえ、僕は空に連れて行かれた。しかし、僕はブースターの向きを垂直に変え、さらにブースターの噴射による推進力で高速回転し、2匹の拘束を振り切る。2匹の足を掴み、地面に向かって投げた。虫型と鳥型は羽を広げて逃げようとしたが、投げられたことで生じた気圧のせいで羽ばたくことができず、そのまま地面に叩きつけられた。さらに、僕はブースターを切り、地面に落下。そのまま虫型と鳥型を体重で押しつぶした。押しつぶされたことで、怪獣の口から大量の血とゲロを吐き出した。
(さあ・・・・次はどいつだ!?)
「ウオォッ!!」
僕は掛け声を上げ、怪獣達を威圧してみせた。すると、向こうからゴリラ型の怪獣が僕に殴りかかってきた。僕はそれを片手で受け止め、空いた手で怪獣に殴りかかった。すると、怪獣も僕の拳を受け止めた。そこから力比べが始まった。僕の力と相手の力はほとんど同等だった。互いに一歩も譲らない駆け引きの隙を突き、僕は怪獣に頭突きを喰らわせた。固い金属でできた頭部が、怪獣に大きなダメージを与える。さらに僕は何度も頭突きをした。すると、怪獣の頭から血が噴き出した。怪獣は掴んでいた僕の拳を離し、頭を押さえ込んだ。僕は間髪入れずに後ろに回り込み、首と頭を掴んで首の骨を折り、頭を引きちぎった。
(まだまだ・・・・やってやる!!)
「ウオオオオオオオオオッ!!」
それから何十分・・・・いや、何時間か過ぎたかもしれない。僕は無我夢中で怪獣達と戦った。首を折り、腹に風穴を開け、爆散させ、殴り殺し・・・・傍から見たらただ、僕を含めた化け物達が殺し合いを演じているように見えるだろう。だが、戦ってる最中の僕に、そんなことを考えている余裕はなかった。
ふと気がつくと、僕は赤や緑で染まった大地の上に立っていた。目の前には怪獣達のなれの果て・・・・死骸が向こう側にまで転がっている。地面には怪獣の血が付着し、赤の血と緑の血が混ざってコントラストを生み、さながらカラフルな地面に見える。そして、僕の体にも怪獣の血が大量に付着していた。
(これを、僕がやったのか・・・・まるで僕は殺人鬼だ、化け物専門の・・・・)
僕は死屍累々とした場に、ただただ立ち尽くした。その時、後ろからたくさんの声が聞こえ、僕は振り返った。そこにいたのは、街の人々だった。
「やったぞーーーー!!"巨人"が勝ったぞーーーー!!」
「私達は・・・・助かったのね!!」
「みんな、この街の、いや、この世界の英雄を讃えよう!!」
「ありがとーーーーー!!」
「お前はみんなの英雄だーーーー!!」
みんな、僕のことを力一杯褒め称えている。ただ、僕はそれが嬉しくなかった。ただ、胸が苦しく感じるだけだった。
(違うんだ・・・・僕は、英雄なんかじゃない・・・・家族の1人も救えないで、何が英雄だ・・・・)
僕はまたも悲観的な考えに捕らわれた。振り返ってばかりじゃダメなのはわかっていた。しかし、目の前で兄が死んだという出来事が、頭の中にこびりつき、それをずっと抱え込んでしまった。それによって、悲観的な考えに捕らわれてしまったんだ。
僕は、人々の喝采を前に、その場から立ち去ることにした。その時、人々は「ありがとう」と大声で叫んだ。僕はお礼を言われる立場じゃない。今の僕は、ただたの兵器だ。
僕は人々の声を背に、僕は生まれ故郷の街を後にした。この編の怪獣はみんな倒したし、僕が離れても、少しの間は大丈夫だ。
(兄さん、僕は自分のやるべきことをやったつもりだよ・・・・)
僕は海の中に入り、体についた血を洗い流し、海の中でしばらく眠りにつくことにした。
(今やることはわかったけど、これから先のことは・・・・・・全然考えつかないよ・・・・)
僕は頭の中で今後のことを考えながら、海の中で眠りについた。
だが、僕はこのとき知らなかった。この戦いが、新たな悲劇の始まりなのだと・・・・




