第1話「悲劇と希望の始まり」
今から何万年前も昔・・・・地上は古代人達が暮らしていた。古代人達は現代にはない技術力を持っていた。地上にはタイヤがなく、煙が出ない車が走り、空には翼のない飛行機が飛び回る。
古代人達は何不自由なく暮らしていた・・・・そして、僕もその中で生まれ、暮らしていた。
僕の名前は、エルト・ピスケル。この時代きっての技術者である父さんと母さんの元に生まれた。と言っても、父さんも母さんも、5年前に新しいマシンの開発の途中で死んでしまった・・・・今は兄であるディルス兄さんと2人暮らしだ。兄さんは父さんと同じく技術者となり、開発の後を継いだ。僕も駆け出しだけど技術者になった。そして、兄さんと一緒に父さんがやり残したことをやるんだ。
そして今、僕は専用の開発室で兄さんと開発を進めていた。
「兄さん、後少し・・・後少しで、完成するね。」
僕がそう言うと、兄さんは微笑み、口を開いた。
「ああ。機械巨人・・・・これは父さんと母さんの長年の夢だった・・・・これが完成すれば・・・・」
「外にいる化け物も、倒せるんだね。」
この世界には、化け物が存在していた。原因はわからない・・・・だけど、奴らが人類に対して攻撃的なのは確かだった。化け物を恐れた人間達は街を巨大な壁で覆った。壁には「ギルハルコン」という特殊な金属が使われており、そう簡単には壊せない。しかし、それでも人間達は内心怯えている。壁が破られるかもしれないという恐怖、破られた時の不安感・・・・僕らはそれを終わらせるために、機械巨人を開発している。
「ねぇ、こいつに名前つけない?」
「機械巨人にか?」
「そう!元々は父さんが考えたやつだから、こいつは僕達の兄弟と同じだよ。」
僕は巨人の足を軽く叩きながら言った。すると、兄さんは笑った。
「ハハッ、そうだな。で、名前は決まってるのか?」
僕は兄さんに言われ、質問を返しつつ、巨人の顔を見上げた。
まだ骨組みしかできていなかったが、こいつの名前はもう決めていた。
「こいつの名前は・・・・ノア。」
ノア・・・・それは「希望」を意味する言葉だった。僕はこの巨人が人類の希望になることを願い、この名前をつけた。
「ノア・・・・希望か・・・・確かに、こいつは希望になるかもな。よし、なら早く完成させないとな!」
「うん!」
僕達は意気込みを入れ、開発を続けた。それから長い月日を経て、骨組み、外装、鎧まではできた。後は武装とコア、エネルギー転換装置のみだった。
「武装と転換装置はとりあえず問題はない・・・・後は、コアか・・・・」
僕は研究所から家に帰る道中、ずっと考え事をしていた。計算上、難しいのはコアだけだった。父さんと母さんはコアをノアに巨人に埋め込もうとしたところ、巨人とコアに拒絶反応が起き、研究所を飲み込むほどの大爆発を起こした。母さんと父さんはそれに巻き込まれ、この世を去った。それによって巨人も全壊・・・・だからこそ、今回は慎重にやらなければならない。また爆発させれば、今度街全体を巻き込むかもしれない。だからこそ、絶対に成功させる必要がある。
「エルト!」
考え事をしている最中、僕は呼び止められた。その声は女の子だった。僕は呼び止められ、後ろを向いた。そこにはきれいな黄緑色の髪をした女の子がいた。その子は僕の知っている子だった。
「あっ、ウィンディ。」
彼女はウィンディ・シルフ。僕の幼なじみで、昔よく一緒に遊んだ仲だ。最近はあまり会わなくなったけど、今会ってみると、昔と比べてすごく可愛らしくなった。身長は僕より低いけど、伸び、足もスラッと伸びている。体つきも良くなって、黄緑色の髪もサラサラで思わず触れてみたくなりそうだ。
「やっぱりエルトだ。」
彼女は僕に笑顔を見せた。僕もそれに釣られて笑った。
「久しぶり。どうしたの?」
僕がそう聞くと、彼女は笑顔をやめ、頬を膨らませ、不機嫌そうにした。
「『どうしたの?』じゃないもん。今まで会ってくれなかったクセに。」
「ご、ごめんよ・・・・ずっと開発が忙しくて・・・・」
彼女の言っていることは本当だ。僕は彼女とあまり会っていない。両親が死んでから、僕はずっと2人の意思を継ごうと、ずっと勉強を続けていた。そのため、彼女とはあまり遊ばなくなり、開発の方に夢中になっていた。
「巨人が完成したら、これまで一緒にいれなかった分、ずっと一緒にいるよ!だから・・・・」
僕はその場しのぎの言い訳をした。しかし、ウィンディは妙に感のするどい所があるから、僕の嘘なんて簡単に見破ってしまう。でも、このときは違った。ウィンディはふてくされるのを止め、僕の手をギュッと握りしめた。
「約束・・・・だからね。」
「・・・うん、約束する。」
僕とウィンディは約束を交わし、別れた。僕の手には、ウィンディの手の温もりが残っていた。ウィンディのためにも、早くノアを完成させないといけない。
そして僕は家に戻った。
翌日、誰かが家のドアをノックする音がする。
「うん・・・誰だよ、こんな朝早く・・・」
今の時間は朝の5時・・・起きるにはまだ早い時間帯だった。
僕は眠気を飛ばそうと目をこすり、一人で文句を言いながら、玄関のドアを開けた。すると、そこには無精髭を蓄えた大柄の男が立っていた。その人を見た途端、僕の眠気は飛んで行った。
「アグニル先生・・・・」
その人は僕の技術の先生で、この人が僕に製作の技術の全てをたたき込んでくれた。この人がいなければ、今頃僕は兄さんと一緒に作業はできなかっただろう。
「どうしたんですか?こんな朝早く・・・・」
「いや、大事なことを伝えに来たんだ。」
「大事なこと・・・・?あっ、とりあえず中に。」
「すまんな。」
僕は先生を家の中に通し、お茶を差し出した。
「それで、話っていうのは・・・・」
僕は席に座り、先生に要件を尋ねた。
「ああ・・・・お前は、『アルケー教団』は知っているな?」
「はい。」
「アルケー教団」・・・それは、全ては自然の摂理のままになることが正しいと唱える団体だ。今でいうところのカルト集団だ。
「そいつらがどうかしたんですか?」
「実はな・・・『アルケー教団』が王族達に巨人の開発の中止を願い出たんだ。」
「な、なんですって!?」
僕は先生の話を聞いて思わず驚いてしまった。
「奴らが言うには、化け物が現れた今、世界は化け物によって滅びるのが正しい・・・・だそうだ。」
僕は先生の話を聞いていく内に腹が立ち、拳でテーブルを叩いた。
「ふざけやがって・・・・!!あれを開発するのに、父さん達がどれだけ頑張ったか・・・!!」
「ああ。お前の気持ちはわかる。お前の父君は、素晴らしい人だった・・・巨人の開発を止めるには惜しい。だが、最終的な決定を下すのは王族達だ。今は待つしかない。」
「くっ・・・・!」
「とにかく、お前はディルスと一緒に開発を続けろ。俺は念のため奴らを見張る。」
「わかりました。先生、どうか気をつけて・・・・!!」
僕がそう言うと、先生はにやりと笑った。
「安心しろ。そう簡単にはやられないさ。」
先生はそう言って僕の家を後にした。僕は食器を片付けた後、着替え、開発室に持って行く荷物をまとめ、家を出た。そして、開発室に向かって走った。
このとき、僕は何か胸騒ぎを感じていた。何か良くないことが起きるのではないかと・・・・だけど、このときはそこまで気にしていなかった・・・・だが、後にこの胸騒ぎが、現実になり、僕達を襲い、悲劇の戦いへと発展するなんて・・・・このときはまだ思ってもみなかった・・・・




