第3話「明日を生きる人に」
「うおおおおおおおお!!」
僕は雄叫びを上げながら右手の"白薙"を振りかざし、シヴァに向かって突進する。対し、シヴァは何も行動を起こさなかった。奇妙だが絶好のチャンスだと僕は思い、そのままシヴァに近づき、"白薙"を振るった。しかし、"白薙"を振るった瞬間、シヴァの姿が消えた。
「なに!?」
僕は慌てて辺りを見回そうとした次の瞬間、後ろから何者かに吹き飛ばされた。
「!!」
僕は体勢を整えつつ後ろを振り向くと、そこにはシヴァの姿があった。僕は一瞬、なぜいきなりシヴァの姿が消えたのかわからなかった。だが、次の瞬間、僕はシヴァが突然消えた理由がわかった。シヴァは僕の目の前で、また姿を消した。その瞬間を目を凝らさず見てみると、シヴァは自分の体の前で空間の穴を開き、その中に全身を折り曲げ、小さくなりながら入っていく。そして、シヴァの姿が完全に消えたところで、背後・・・・あるいは横や上空に現れる。所謂、瞬間移動だ。
「瞬間移動・・・・そんなこともできるのか!」
僕がそう言うと、シヴァはまた瞬間移動し、今度は衝撃波による斬撃を放った。僕はそれを防ぎ拳を突き出した。しかし、シヴァはまた瞬間移動でよける。
「ダメだ!このまま攻撃しても、瞬間移動やバリアのせいで攻撃が当たらない!どうすれば・・・・」
僕がそう呟きながらシヴァの攻撃を防いでいると、慎也が声をかけてきた。
「落ち着け!とりあえず、次にテレポートする場所を予測するんだ!」
「そんな無茶な・・・・」
「やれるだけやるんだよ!やらなきゃ死ぬだけだ!」
「・・・・わかった!」
僕は"白薙"を振るい、シヴァに攻撃した。するとシヴァは瞬間移動で攻撃よけた。
僕は、"白薙"を構え、慎也の言う通り、シヴァの行動を予測してみることにした。じっと動きを止め、感覚を聴覚、嗅覚に集中する。すると、後ろから『ブォン』という奇怪な音が聞こえてきた。
「そこだ!」
音が聞こえた方向に"白薙"を突き出す。後ろを向くとそこにはシヴァがいた。"白薙"はそのままシヴァの胸目掛けて切っ先を突き刺そうとする。しかし、刃が突き刺さる直前、シヴァは攻撃を防いだ。それも、バリアではなく、素手でだ。
「な、なに!?素手で"白薙"を・・・・!!?」
"白薙"はパンドラさえも真っ二つに切り裂いた最強の剣・・・・しかし、シヴァはそれを、手1つで防ぎ、なおかつダメージも受けていない。
「こんな刃など・・・・我には通じぬ。」
「そ、そんな・・・・」
僕は思わず落胆した。"白薙"は慎也の守りたいという思い、助けたいという願いから生まれた奇跡の力・・・・それがいとも簡単に破られたのだ。まるで、人間の思いがちっぽけなもののように感じてしまい、悔しくなった。そして、そう思う自分自身、情けなく感じた。
だが、シヴァは、"白薙"を防ぐだけでは終わらなかった。なんと、シヴァは両手で"白薙"を防ぎ、"白薙"を通して僕の体内のエネルギー、アースエナジーを吸い取り始めたのだ。
「な、なんだ!?」
慎也は思わず驚いた。無理もない。目の前でこんなことが起きれば、誰だって驚く。
僕は反撃しようとしたが、アースエナジーを吸い取られ体に力が入らず、反撃ができなかった。
「か、体が重い・・・アースエナジーが・・・・!!」
アースエナジーを吸い取られた僕は、体がフラフラになり、足もおぼつかなくなっていた。しかし、それでも負けるわけにはいかなかった。僕はなんとか力を振り絞り、拳を繰り出した。拳はシヴァの体に当たったが、力が抜けた今の体では、全然通じない。
すると、シヴァは左腕に手を当て、そのまま一文字を描くように手をスライドさせる。すると、シヴァの左腕に光輝く剣が現れた。それはまるで、"白薙"のようだった。
「そんな・・・」
僕が呆気にとられていると、シヴァは問答無用で剣を振るった。咄嗟に気づいた僕は、攻撃をかわそうとしたが間に合わず、そのまま左腕を肩ごと切り落とされてしまった。
「う、うあああああああ!!」
「オオオオオオオオオオオオオッ!!」
僕は痛みのあまり叫び声を上げてしまった。そして、慎也も同様に痛みを感じ、左腕を押さえた。僕と慎也は意識を同化している。そのため、僕のダメージが慎也にも来てしまう。このまま戦えば、間違いなく慎也と僕は死んでしまう。だが、左腕を失った今、戦う術は限られてしまった。アースエナジーを吸い取られてしまい、"白薙"は使えない。しかも、今の状態じゃ通常の攻撃も通じない。完全に万事急須だ・・・・しかし、1つだけ勝てる見込みがあった。だがそれは、失敗すれば死ぬ、成功しても相討ち・・・・まさしく賭けだった。
「哀れな・・・消えよ。」
シヴァは小さく呟き、ゆっくりと僕に近づいてきた。対し、僕は最後の力を振り絞り、仁王立ちをした。
「世界中のアースエナジー・・・・僕に・・・・最後の力を・・・・!!」
僕は全身に力を溜めた。すると、空にオレンジ色のエネルギーが波のように僕の頭上に集まり、僕の体にチャージされていく。
「ノア!何をする気だ!?」
「最終兵器を・・・・『ノヴァ・バスター』を使う!!」
「な、なんだって!?そんなことしたら、地球のアースエナジーが・・・」
慎也は必死に僕を止めようとした。気持ちはわかる。地球上に残されたアースエナジーを使えば、大地に咲く木々は枯れ、海は枯渇してしまう。だけど、今はこれしかない。シヴァを倒すには、これしか方法がない。
「わかってくれ!今はこれしかないんだ・・・・!!」
「・・・・わかった。なら、俺も最後まで付き合うぞ!!」
「ありがとう・・・・慎也!ウオオオオオオオオオッ!!くらえ、ノヴァ・バスター!!」
僕は胸の装甲を開き、砲門を射出、そして、自分の体に溜まったアースエナジーをチャージし、一気に発射した。チャージしたアースエナジーは光線に変わり、シヴァに襲いかかる。
しかし、シヴァは目の前に巨大なバリアを張り、ノヴァ・バスターを防いでしまった。
「そ、そんな・・・・ノヴァ・バスターが・・・・!!」
僕はそれを見て、絶望感に襲われた。ノヴァ・バスターは全てを破壊することができる最終最強の兵器・・・・それがいとも簡単に防がれた。さっきの"白薙"といい、シヴァの戦闘能力は、僕を遙かに上回っている。その時、僕は感じた。僕とシヴァの・・・圧倒的な戦闘力の差、まるで、赤ん坊が神に挑むかのように無謀な行動・・・・僕の無謀な行動で、人間を、生物を、傷つけてしまった・・・・
そして、ノヴァ・バスターを防いだシヴァは攻撃を防いだバリアの色を血のような赤に変えた。すると。バリアから先ほどのノヴァ・バスターがそのまま僕に返ってきた。
「あいつ・・・・跳ね返せんのかよ・・・・ノア!逃げるぞ!!」
慎也は僕に声をかけた。しかし、僕には何も出来なかった。ノヴァ・バスターを放ったことで、僕の中のアースエナジーは底をついてしまった。もう動くこともできない。
「どうしたんだよ!早く逃げるぞ!!ノア!!」
慎也は必死に声をかけている。僕にはもう何もできない。このまま攻撃を黙って受けるだけだった。だけど、今の僕に、できることが少しだけある。
「・・・・慎也、短い間だったけど・・・・今まで、ありがとう。」
僕は慎也に一言そう言った。慎也が・・・・いや、猛やジャック、みんながいなかったらここまで戦えなかった。みんなには本当に感謝している。感謝してもしきれない。
そして、とうとう光線が目の前まで近づいてきている。その時、僕は中にいる慎也を無理矢理外に追い出した。
「なっ・・・・!?ノア!?」
慎也は外に追い出されて驚いている。そんな慎也をよく見てみると、傷は1つもなかった。アースエナジーによる治療が間に合ったんだ。それを見た僕は一言、こう言い残した。
「よかった・・・・」
僕がそう言うと、光線が僕の体を飲み込んだ。僕の体は攻撃を受けたことで石のように砕けていった・・・・
「ノア・・・・ノアーーーーーー!!」
慎也は涙を流し、僕の名を叫んだ。
「慎也・・・・ごめん・・・本当にごめん・・・・」
「ノア!」
僕はかろうじて残った意識でスティックを通じ、慎也に話しかけた。
「みんなを・・・・守れなかった・・・・」
「気にしてない・・・ってのは嘘だけどよ・・・・でもノアが・・・・俺達が負けるなんて・・・・俺達は・・・・誰も守れねぇのかよ・・・・!!ちくしょう!!」
慎也は悔しさのあまり地面を思い切り殴った。悔しいのは僕も一緒だ。でも、奴には、シヴァには勝てない・・・・ノヴァ・バスターも、"白薙"も通じない・・・・万全の状態だったとしても、奴に勝つ見込みは・・・・ほとんど0に近い。
そう思ったその時、二人の男が現れた。
「いや、まだ終わりじゃない。」
そこに現れたのは、ジャック・アダン。ベルゼルトと戦い、僕を助けてくれた人だ。
「俺達は・・・・まだ負けてない!」
ガルタークとの戦いの時、僕に力を貸してくれた真銅猛も来てくれた。
「二人とも・・・・どうしてここに?」
「車でお前達の後を追いかけて来たんだ。かなり時間はかかったけどな。」
ジャックがそう言うと、二人は首に下げているペンダントを取り出した。
「それは、僕があげた・・・・」
「そう。調べてみたら、こいつの中にはアースエナジーが込められている。こいつとそのスティックの力を合わせれば・・・・」
猛は意気揚々と説明をしてくれたけど、僕には納得できなかった。その理由は1つ。
「無理だ!その石の力の一個や二個のエネルギー量じゃ・・・・」
そう問題なのはエネルギー量だ。いくらペンダントの中にアースエナジーが込められているとはいえ、その量は限られている。だが、僕の言い分を予想したのか、猛はある提案を出した。
「心配ない。足りないエネルギーは・・・・俺と、ジャックさんと、慎也君の生体エネルギーで補う!」
「な、なんだって!?本気で言ってるのか!?」
「ああ、本気だ。」
「ダメだ!そんなことしたら、君達は死ぬかもしれない!!それに、復活したとしても、シヴァを倒せるわけじゃ・・・・」
僕は猛の提案に弱きになり、提案に反対した。僕としては、三人には危険なことはさせたくないし、死なせたくもない。それに、僕のせいで誰かが傷つくのはもう嫌だった。
すると、猛はスティックを掴み、叫んだ。
「バカ野郎!!今やらないで・・・・・いつやれってんだよ!!あいつに勝てる可能性は・・・・0かもしれない。でも、やらなきゃ本当に0で終わるんだぞ!!」
「!!」
猛の一言に、僕はハッとした。
「・・・・俺は、お前のおかげで変われたんだ。ずっと引きこもりのニートだった俺を、変えてくれたのはお前なんだ!だから・・・・今度は一緒に戦いたいんだ。」
「猛・・・・」
「俺も、同じ気持ちだ。お前がいなかったら、俺はずっと変わらなかったと思う。でも、あの日の戦いで、俺はお前に勇気をもらったんだ!だから俺も・・・・一緒に戦いたい。」
「ジャック・・・・」
「ノア、二人の言う通りだ。ノアは・・・・パンドラとの戦いの時に、俺が諦めそうになった時、『諦めるな!』って言ってくれただろ?俺は、あの言葉があったから戦えたんだ。なのに、お前が諦めてどうすんだよ!」
「慎也・・・・」
その時、僕は気づいた。みんな、明日を生きたいんだ。明日が辛いか、楽しいかなんて誰にもわからないけど、それでも、みんな生きようとあがいてる。僕が戦いと思った理由はなんだ?次の時代を生きる子ども達のため、僕を信じる人達のため、そして、明日を生きたいと願う・・・・大勢の人間達のため・・・・!!
「ああ・・・・そうだね・・・・僕が諦めるわけにはいかない!みんなで戦うんだ!!」
「ああ!」
「うん!」
「おう!」
「みんな、いこう!!」
僕がそう叫ぶと、三人はスティックとペンダントを合わせ、天に掲げた。
「「「「本当の戦いは、これからだ!!」」」」
その時、僕達の体は白い光に包まれた。やがて、その光は人の形を作り、巨人となっていく・・・・
そして、そこに現れたのは、生まれ変わった僕だった。全身は白を基調にした色に変わり、体も全体的にシヴァと似ているが、所々がシヴァと違っていた。頭には剣のような角が一本生え、マスクには鬼の面のような牙がつき、中から僕の口が見える。肩はシヴァよりも面積が広い鎧になり、両腕両脚には小さいながら、武器のブレードがついている。背中には三本の輪が紋章として描かれている。そして、全身にオレンジ色のラインが走っている。
「な、なんだ・・・・こいつは・・・・!?まさか、復活したというのか!?」
その突然の出来事に、シヴァも驚いていた。しかし、一番驚いているのは僕達だ。まさか、こんな姿に変わるとは思っても見なかった。これも、みんなの思いが1つになったおかげなのだろうか。
僕は、シヴァに向かって高らかに叫んだ。
「僕は今までの僕じゃない・・・・僕は、みんなの力を合わせ、生まれ変わった!その名も、"ガイアフォルム"!!こい、シヴァ!!」
シヴァにそう言って、僕は構えた。
「寄せ集めごときが・・・・!!」
シヴァも両手に赤い光を溜め、構えた。
本当に最後の戦いが・・・・今、切って落とされた!!




