第1話「総力戦開始」
世界が終わりに向かっていた時、三人の勇者が現れた。あるとき、勇者達は地上を守る巨人に出会い、仲間に加えた。巨人と勇者達は、巨大な闇の力に向かって勇敢に戦った・・・・だが、闇の力は強大で倒すことはできなかった。だが、勇者達と巨人は諦めなかった。彼らは光を信じていた。人と自分達に眠る光の力を・・・・戦士達の姿に感銘を受けた大地の精霊達は四人に力を与えた。その力を1つにし、巨大な闇に打ち勝った。その後、勇者達と巨人は神となり、地上を見守り続けた・・・・
それは、僕が昔聞いた神話の一文だ。僕の名はノア。今の時代の人間の中には、僕のことを守護神と呼ぶ。でも、僕はそんな大層な存在じゃない。僕はただ、この美しい大地と人間を守りたい・・・・ただそれだけだ。
僕は人間である草薙慎也とともに戦い、彼の友達、神代美香を助け、パンドラを倒すことに成功した。だけど、まだ戦いは終わってはいなかった。パンドラが死ぬ間際に言葉、そして、遠くから感じるたくさんの災いの気配・・・・
「慎也、戦いはまだ終わってない。」
「えっ?」
僕がそう言うと、慎也はポカンとしたような顔で呟いた。
「遠くの方から・・・・多くの気配を感じる・・・・恐らく、ガルタークとベルゼルトだ。慎也、君は彼女と一緒に安全な所へ!これは僕の問題だ。君を巻き込むわけには・・・・」
僕は慎也に逃げるように説得しようとした。元を言えば、僕が戦いに巻き込ませてしまったんだし、第一、慎也はまだ子どもだ。戦いには巻き込めない。
すると、慎也は僕よりも大きな声を出して話を遮った。
「何言ってんだ!お前のアースエネジーで、美香の体を治して・・・・俺の体も治してる最中なんだろ?だったら、お前の中のアースエナジーは減ってるはず・・・・そんな状態で一人で戦ったら・・・・」
「・・・・」
慎也の言葉に、僕は何も言えなかった。慎也の言う通りだったからだ。僕の中のアースエナジーを使って、美香の体を元通りに治した。慎也の体ももう少しで完治する。しかし、それが今までの戦いの疲労と重なって、僕の中のアースエナジーは、半分以上も減っていた。今、慎也を外に出せばアースエナジーを維持できるけど、まだ完治していない慎也を外に出したら、体は死んでしまう・・・・そんなことはできない。でも、これ以上慎也を巻き込めない。
僕は頭の中でずっと考えを巡らせてみたけど、正しい答えが一向に見つからなかった。
すると、慎也が言った。
「ノア・・・俺はお前を信じるよ。だから、ノア、お前も俺を信じてくれ。だから・・・・一緒に戦おう、ノア!」
慎也の気迫と言葉に、僕は決心した。
「・・・わかった。必ず君は守ってみせる。」
「ああ、それでいい。美香、お前は安全な所に。」
「うん・・・・慎也君、気をつけてね。」
「ああ、わかってるって!」
慎也はそう言って美香を外に出し、美香はその場を後にし、避難所に向かった。
僕と慎也が話していると、遠くの方から無数の黒い影が近づいて来ていた。それは鳥のように羽を動かすものと、虫のように羽を動かすものの2種類がいた。僕はそれを見ただけで、"奴ら"が何者なのかわかった。
「ベルゼルト・・・・ガルターク・・・・!!」
やってきたのは、紛れもなくガルタークとベルゼルトだった。大きさは昔戦った時と違って二回りくらい小さくなってはいたが、見た目自体は変わっていない。"奴ら"は僕を360度囲むように現れた。数は数え切れない・・・・"奴ら"は本気で僕達を殺す気だ。
「敵は多い・・・・勝てるかどうかわからないな・・・・」
慎也は不安そうにボソッと呟いた。僕はそれを励ますように返した。
「大丈夫。こいつらは前に戦った時の奴とは違う。あれと比べたら、弱いよ。それに、一人じゃない。」
僕の言葉と同時に、僕の頭上に多数の戦闘機が通り過ぎた。さらに、遠くからは戦車のキャタピラの音、海の方からは軍艦が波を揺らす音が聞こえる。その数は数え切れない。自衛隊が総結集したんだ。
「すげぇ・・・こんなに自衛隊が・・・・」
慎也は自衛隊の数に驚いている。僕はそれを聞いてニヤリと笑った。
「言っただろ?一人じゃないって。ここからは人間と僕の総力戦だ!絶対に勝つよ!!」
「ああ!!」
その時、ガルタークとベルゼルトが一斉に襲いかかってきた。それと同時に自衛隊の一斉攻撃が開始された。自衛隊の発射した弾頭は怪獣の何体かに辺り、怪獣は爆散した。その中で生き残ったガルタークの一体が僕に向かって唾液を吐いた。唾液は瞬時に固まり、針のように鋭くなった。それと同時に後ろからベルゼルトが襲いかかる。僕は飛んできた唾液弾を掴むと、後ろにいたベルゼルトの額目掛けて突き刺した。
『キュイイイイイイイイ!!』
ベルゼルトは悲痛な叫び声を上げ、苦しんだ。その隙に僕は近くに落ちていた鉄骨を拾い上げ、棒のように振り回し、ベルゼルトの脳天をブッ叩く。脳天を殴られたベルゼルトはそのまま地面に倒れ落ちた。
僕はそのまま向かってくる怪獣に向かって鉄骨を振り回し、怪獣を叩き落とす。そして、遠くにいる怪獣に向かって鉄骨を投げた。鉄骨は遠くの怪獣に突き刺さる。それと同時に戦闘機がミサイルをたたき込み、怪獣は爆散した。
怪獣達も負けてはいない。ガルタークとベルゼルトは互いの能力と知能を生かし、空軍、陸軍、海軍を倒していく。
「あいつらも負けてない・・・・」
「ノア!"白薙"は使えるか?」
「使いたいのは山々だけど、あれはアースエナジーを大量に消費する。」
「でも、アースエナジーって大地の力そのものなんだろ?ノアが地上にいれば、大地から無限に供給できるんじゃないのか?」
「・・・・・」
僕は慎也の質問に答えられず、項垂れてしまった。その時、ガルタークが僕に襲いかかった。僕はガルタークの羽を掴み、攻撃を防いだ。
僕は、戦いながら慎也に説明をすることにした。
「・・・・アースエナジーは、2年前、僕が多くのアースエナジーを使ってしまったんだ。」
「2年前・・・・アメリカに現れたベルゼルトの時か?」
「そう・・・あの時のベルゼルトはとても強かった・・・・僕は奴を倒すために、最終兵器『ノヴァ・バスター』を使用した・・・・『ノヴァ・バスター』は地上のアースエナジーを大量にチャージして放つ奥の手・・・・そのせいで、地上のアースエナジーは激減した。今、アースエナジーは一応は増えてるけど・・・・僕が地上のアースエナジーを供給してしまったら、地上はどうなるかわからない。」
僕は説明をしながら、ガルタークの首をへし折った。
「でも、このままじゃ・・・・自衛隊もいずれ力尽きる!怪獣はいつ全滅するかわからない!クソ!どうすればいいんだ・・・」
その時、突然怪獣達の動きが止まった。
「な、なんだ?どうしたんだ?」
怪獣達の突然の停止に、僕は様子を見るだけだった。自衛隊も同じで、戦闘機は様子を見るように旋回し、戦車と軍艦はそのまま静止した。
『な、なにが起きているんだ・・・・?隊長、攻撃しますか?』
『いや、待て!まだ様子を見て・・・・』
その時、
「時は来た・・・・」
ガルタークから男の声を発し、喋り始めた。
「今こそ、真の邪神が目覚める時・・・・」
ベルゼルトも同様に喋り始めた。
「しゃ、喋った!?」
慎也はいきなり怪獣達が喋り始めて動揺している。それは僕も同様だ。しかし、それ以上に嫌な予感が僕を支配しつつあった。
(なんなんだ・・・・なんだ、この嫌な感覚・・・・)
「邪神は現れる・・・・」
「人間どもに天罰を下すために・・・・」
その時、パンドラの亡骸が突然黒い靄に変わり始めた。
「な、なんだ!?」
驚くのもつかの間、黒い靄は空中に舞い上がった。
「目覚めよ・・・・邪神よ・・・・」
「邪神の名において、全てを破壊せよ・・・・」
怪獣達は一斉に黒い靄の元に集まり、その身を次々と寄せていく。やがてそれは人の形を作り、巨大な黒い巨人が完成していった。
その時、僕はパンドラが死に際に言ったことを思い出した。
『私の名はパンドラ・・・・それがどういうことか・・・・よく考えることね・・・・』
僕は、パンドラの言っていたことがようやくわかった。僕はパンドラが封印されていた黒い球体が"パンドラの箱"だと思っていた。でも、それは違った。パンドラの箱は、パンドラ自身だったんだ。パンドラが死んだことで、箱の封印が解け・・・・中に入っていた災い・・・・怪獣達の言う真の邪神とやらが蘇ってしまったんだ。
だが、それに気づいたころにはもう遅かった。目の前には、封印から解き放たれた真の邪神が・・・・目を覚ました。




