第4話「真実」
2人の元を去った俺は、避難所に持って行く荷物を準備するため、一度家に戻った。
家に着くと、玄関のドアの前に見覚えのある人影が見えた。それは、美香だった。
「美香!?」
俺は驚きのあまり、大声を出してしまった。
俺の想像では、美香は避難所にいるものと思っていた。しかしそれが、俺の家の前にいたことに俺は驚いていた。
「慎也君!」
美香は俺に気づき、俺の元に走り寄ってきた。
「美香!お前は避難所にいるんじゃ・・・・」
俺は美香にここにいる理由を聞こうとしたが、それは途中で途絶えた。なぜなら、美香が俺をギュッと抱きしめたからだ。
「み、美香・・・さん?ど、ど、どうした・・・・んですか・・・?」
俺は驚きと緊張のあまり、胸を高鳴らせ、顔を紅潮し、口調が敬語になっていた。
俺が理由を聞くと、美香は俺に顔を見せた。美香の目には涙が潤んでいた。美香は涙ぐみながら話した。
「慎也君・・・・無事でよかった・・・・もう、二度と危険な真似なんて・・・・しないで・・・・!!」
美香の涙と言葉を聞いた俺は、緊張が消え、美香を抱きしめた。
そして、俺は美香に一言謝った。
「ごめん・・・」
俺は、俺が勝手なことをしたせいで美香を悲しませてしまった。俺が勝手な真似をしなかったら、美香は悲しまずに済んだだろう・・・・と思うと、自分が情けなく思えた。
俺が謝ると、美香は涙を拭った。
美香の涙が収まったところで、俺は美香の質問を投げつけた。
「それより、お前はどうしてここにいるんだ?」
「避難所についたら、ドラちゃんがいなくて・・・・どっかではぐれたんじゃないかと思って、探しに来たの。」
それを聞いた俺は、足を動かし、玄関のドアの前に立った。
「・・・美香、鍵は?」
俺は美香にドアに鍵を掛けたかどうか尋ねた。
「慎也君が出ていった後、テーブルの上にあった鍵使ったから・・・・・鍵はかかってるよ。」
美香の話を聞いた俺は、試しにドアノブを回してみた。すると、ドアは開き、スーッと開いた。鍵は開いている。
「あれ?鍵掛けたのに・・・・」
俺は家の周囲を回り、窓が割られていないか確かめた。火事場泥棒に入られた可能性があるからだ。
しかし、窓ガラスは割れていない。2階も見てみたが、異常はない。
「・・・・入ってみるか。」
俺はこの状況が異常だと思いながらも、家の中に入った。家の中は真っ暗で、足元が見えない。俺と美香はスマホのライトを使って、目の前を照らしながら歩いた。
リビングの方に近づく、中から変な物音が聞こえた。それは、固い物をかみ砕くような音だった。リビングとキッチンは繋がっている。恐らく、泥棒が冷蔵庫の食べ物を漁っているのだろう。
俺は音を立てないようにドアを開け、そっとキッチンに近づき、のぞき込んだ。
そこで冷蔵庫を漁っていたのは、パンドラだった。
「パンドラ!?」
「ドラちゃん!?」
俺と美香は驚きのあまり、声が出た。パンドラは声で俺達に気づき、振り返った。
パンドラの周りをよく見てみると、生の野菜や肉、魚といった生の食材、ポテチや煎餅といった菓子、それに調理前のインスタントラーメンが落ちていた。
「お前・・・・何やってんだ?それ、生の食材だぞ?そのまま食ったら腹壊すぞ?」
「・・・・大丈夫。」
俺の質問に、パンドラは無表情で答えた。
すると、美香が言った。
「そんなに・・・・お腹空いてたの?」
「うん・・・・すっごく・・・・お腹空いてたの・・・・」
美香の質問に、先ほどと違い、パンドラは不気味に笑いながら答えた。
その顔を見た途端、俺は全身に悪寒が走った。
パンドラ・・・・何から何まで分からなすぎる。真っ暗な部屋の中で1人で食べ物を漁る。ポテチを袋ごと食う。洞窟の中で球体の中に閉じ込められていた・・・・考えれば考えるほど、パンドラの正体がわからなくなっていく。
その時、俺の頭に声が響いた。
『気をつけて・・・・この子から怪しい気配がする・・・・』
その声はノアの声だった。
(ノア・・・!?どこから・・・・?)
俺はそう考えると、またノアの声が響いた。
『テレパシーで君の頭に語りかけている。それより、この子に近づかない方がいい!』
(ああ?なんでだよ?)
『理由は分からない・・・・でも、何か嫌な予感がするんだ・・・・』
俺が脳内でノアと話していると、美香はポケットからハンカチを取り出し、口を拭いた。
「さ、早く避難所に戻らないと!」
「あ、ああ・・・・」
俺達はパンドラを連れ、避難所に戻った。再び自分の家に戻れたのは、一週間が経ってからだった・・・・・
一週間後、俺達は自分達の家に帰ることができた。
「父さん、母さん、いってきます。」
俺は和室に置いてある仏壇に蝋燭を立て、両親に挨拶をした。
その時、また頭に声が響いた。
『これが、君の両親か・・・・なんて言ったらいいか・・・・』
俺は一週間の間にノアに俺の両親のことを話した。両親が死んだこと、ガルタークとノアの戦いに巻き込まれた時のこと・・・・
ノアは事実を知って落ち込んでいた。今まで人を守ってきたこいつにとって、相当ショックだったみたいだ。
(ケッ、いい気味だ。そのまま反省してろ。)
俺は心の中でノアを罵倒した。しかし、心の奥底で、俺はこんなことに意味がないと感じていた。俺がこんなことをしても、死んだ両親が戻ってくるわけじゃない。だけど、わかってても、こうせずにはいられなかった。自分の本心よりも、ノアへの恨みが強かったのかもしれない。
すると、ノアは俺に語りかけた。
『慎也、こんなことをしても、君の両親が喜ぶかは分からない・・・・でも、約束する。君だけは必ず守る。』
「・・・・その代わりに、俺に戦えって言うのか?」
『いや、君は戦わなくていい。君の体が完治したら、僕は君の体から出ていく。その方が、君の為になるだろうし・・・・』
ノアはいい奴だ。俺が結構ひどいこと言っても、ノアは全然気にしないどころか、俺のことを心配してくれている。猛さんとジャックさんがこいつに惹かれたのは、こいつのこういう所にも影響があるからかもしれない。
ふと、俺はノアに気になることを質問した。
「なあ、お前はなんで人間を守るんだ?」
『なんでって・・・・』
「お前が思ってるほど、キレイな奴ばっかりじゃないぞ、人間は。現実じゃ働かずに家にいる奴は多いし、裏じゃ汚い商売はやってるし、人を蹴落とす奴はいるし、金に汚い奴だっている。はっきり言って・・・・人間を守る価値なんて・・・・」
俺が人間の汚い所を言い並べると、ノアは俺の話を押しのけた。
『僕は、信じてる。』
「えっ?」
『僕は、人間が変われるって信じてる。人間が、すばらしい未来を作れるって、信じてる。だから、僕は守るんだ。それに、人間が、1人でも僕のことを信じてくれれば、僕は何度だって立ち上がれる。』
俺は、ノアの話を聞いて、ふと思った。
ノア、こいつは、心の深くまで人間のことを信じている。例え、裏切られ、痛めつけられても、こいつは人間を信じ続けるだろう。それほど、ノアの意思は固く思えた。
ノアの話を聞いた俺は、自分が恥ずかしくなった。俺は、自分だけのことを見て、ノアのことを理解しようとしなかった。俺自身、そろそろ過去を克服するべきなのかもしれない・・・・
「・・・ノア、お前はすごいよ。」
『えっ?何か言った?』
ノアの問いかけに、俺は笑って答えた。
「別に!さ、早く学校行かないと・・・・ん?」
俺は学校に行こうと立ち上がった。その時、ふと近くにあった棚が開いていることに気がついた。
「いっけね、ちゃんと閉めたはずなのに・・・・」
俺は棚を閉めようとした。すると、中に古びた小さい本のような物があったことに気がついた。
「なんだこれ?」
俺は本を手に取り、本を開いた。すると、ページには見たことのない文字が書き殴ってあった。
『これは、大昔の日本の文字だ!』
「わかるのか?」
『うん。ちょっと読んでみて。僕が翻訳して、声に出すから。』
ノアの言う通り、俺は本の一番最初のページを開いた。それと同時に、ノアは書いてある文字を翻訳した。
『平和な村に、突如、巨大な物の怪が現れた。物の怪は大きな羽を広げ、空を飛び回り、触手を使って家畜を串刺しにし、家畜を飲み込み、作物を食い散らかした。人々はその物の怪によって飢餓に陥りつつあった。しかし、そこに現れたのは、巨人だった。巨人は人間を助けるべく、物の怪と戦った。しかし、巨人でも物の怪を倒すのは難しく、劣勢を強いられてしまう。そこで、村の人々は橙から陰陽師の家系である"草薙家"と"神代家"に相談を持ちかけた。すると、2つの家系の陰陽師は一本の刀に力を込め、その刀で物の怪を斬った。すると、物の怪はたちまち力が弱まった。その隙に巨人は物の怪を攻撃し、ついに倒すことができた。そして、"草薙家"と"神代家"は、物の怪を呪力によって作られた黒い玉に物の怪を封じ、"神代家"に代々から伝わる黒い石を封印の鍵とした。玉は洞窟に封印され、刀は神棚に納められた。もし、その鍵が外されたが最後、人類は・・・・』
ページはここで途切れていた。そこに、ノアは静かに口を開いた。
『そうか・・・・思い出した・・・・この刀は、昔、村に現れた邪神を倒すために使われた刀・・・・その名は"白薙"・・・・人間達の協力がなかったら、あいつは倒せなかった・・・・』
俺は、ノアの話とこの本の内容を聞いて、恐ろしい想像をしてしまった。大昔に出た物の怪は、ノアが言うには邪神・・・・さらに、俺が持っているこのスティック・・・・このスティックは神棚で見つけた刀が変化したもの。そして、神棚で祀られていた刀の名は、"白薙"・・・・最後に、一番恐ろしいのは、黒い玉に封じられたもの・・・・
俺は、思い切ってノアに尋ねた。
「なあ、その邪神の名前・・・・なんて言うんだ?」
『・・・・パンドラ・・・・』
その時、全てが繋がった。
俺と美香が見つけた洞窟は、邪神を封印していた洞窟で、隣にあった神棚は邪神撃破に活躍した刀として祀られていた。そして、洞窟の中にあった黒い球体・・・・あれは邪神を封印していたんだ。そして、球体にはめられていた黒い石・・・あれを取ると封印は解け、中に封じられていた邪神は蘇る・・・・そして、その邪神の名は、パンドラ・・・・俺と美香は、この世に邪神を蘇らせてしまったんだ・・・・
「そんな・・・・そんなことって・・・・」
その時、何かが割れる音が聞こえた。その音は隣の美香の家から聞こえた。
「美香・・・・!!」
俺は急いで美香の元へと向かった。そして、俺はその後、とんでもない光景を目の当たりにする・・・・




