第3話「融合」
(俺・・・・死んだのか・・・・?思ってみれば、短い人生だったな・・・・)
俺の頭の中に、小さい頃の記憶が流れ込んできた。いわゆる走馬灯という奴だ。それを体験した俺は、死を覚悟した。だけど、その時、真っ暗だった目の前が突然光に被われた。
『大丈夫・・・・君は死なせない・・・・』
聞き覚えのない声が聞こえ、俺は目を開けた。すると、目の前に光に被われた巨人が現れた。
「お前・・・・誰だ・・・・?」
『僕は、ノア。僕のせいで、君を死なせてしまった・・・・でも、安心して。君と僕の体を融合させ、君の体を元通りに治す。』
目の前に現れたノアは、いろいろと説明してくれてが、俺はあまりに突然のことにポカンと口を開け、ただただノアを見つめていた。
『わけがわからないかもしれないけど、心配いらないよ。僕が必ず治すから・・・・』
ノアがそう言い終えると、目の前が光に包まれ、ノアが見えなくなっていった。
「おい・・・・おい!しっかりしろ!!」
俺に呼びかける声が聞こえる。俺はその声に起こされ、起き上がった。
「よかった・・・・気がついたんだね。」
「やれやれ。一時はどうなるかと・・・・」
俺の目の前に、白衣を着た男と屈強な体をした黒人がいた。
「ここは・・・・あなた達は・・・」
俺の質問に、2人は答えてくれた。
「ここは避難所だよ。君、渋谷で倒れてたんだよ。」
「渋谷で・・・・」
「あっ、俺、真銅猛。考古学教授の助手やってんだ。」
「俺はジャック・アダン。アメリカで軍人やってんだ。今日は日本に観光に来たんだが・・・・運悪く怪獣に遭遇しちまってな。」
2人は俺に自己紹介してくれた。だけど、今の俺に2人の紹介が頭に入っていなかった。今、俺は自分が先ほど経験したことを思い出していた。
(目の前にノアがいた・・・・あれは、夢だったのか?)
そんなことを考えていると、ジャックさんが俺に声をかけてきた。
「そういえば、倒れてたお前の側に変なのが落ちてたぞ。」
「変な物?」
ジャックさんは手持ちの鞄から異形の姿をした太めのスティックのようなものを取り出した。
俺はそれを見た途端、自分が神棚で手に入れた刀の姿を重ねた。頭の中で刀とスティックを重ねた俺は、奪い取るようにそれを手に取った。
「まさか・・・・」
よく見てみると、形はかなり変わってはいたが、あの刀の面影がいくつか残っていた。そのスティックには鞘のような物がついており、握ったと同時に鞘から抜ける構造になっている。それと、色は全体的に白と黒で塗られており、真ん中にオレンジ色の結晶が埋め込まれていた。それは見れば見るほど吸い込まれそうになるほど、キレイなものだった。
すると、猛さんが俺の肩を叩いた。
「あのさ・・・・ちょっと来てくれないかな。話したいことがあるんだ。」
そう言った猛さんの目は真剣そのものだった。ジャックさんの目付きも同様だった。
俺達3人は人混みをよけながら人気のない裏口に回った。
「一体・・・・なんなんですか?」
俺は思いきって2人に、俺を連れてきた理由を尋ねた。
2人は少し黙った後、答えてくれた。
「・・・実は・・・俺達、見たんだ。」
「君が、君の体がノアと融合するのを・・・・」
「えっ・・・・」
俺は2人の一言に衝撃を受けた。それと同時に、俺は確信した。あの時の出来事は、夢じゃなかったと・・・・
「じゃあ、あれは、夢じゃなかったんだ・・・・」
「夢?どういうことだ?」
「実は、俺・・・・」
俺はあの時起きたことを一から説明しようとした。その時、
『それは僕から話すよ。』
聞き覚えのない声が俺の耳に届いた。
「!?」
俺はその声に驚き、思わず周りを見回した。なんと、猛さんとジャックさんも辺りを見回していた。
「2人にも・・・・・?」
「うん・・・・」
「聞こえた・・・・」
『こっちだよ。』
その声は、俺が手に持っていたスティックから放たれていた。
『猛、ジャック、また会ったね。』
「それ、どういう・・・・」
『あっ、そっか。話すのは初めてだもんね。僕はノアだよ。』
「ノ、ノア!?」
「ど、どういうことだよこりゃあ・・・・」
猛さんもジャックさんもいきなりのことに動揺していた。
『それは今から話すよ。実は・・・・僕は、慎也君を殺してしまったんだ。』
ノアの一言に、2人は驚いた。ノアは2人をよそに、説明を始めた。
『事故だったとはいえ、僕は戦いの中で慎也君を殺してしまった。だから、僕のアースエナジーで慎也君の体を元通りに治そうと思ったんだ。でも、慎也君の体は予想以上にひどい傷を負っていた・・・・このままだと、僕のアースエナジーだけじゃ足りないから、僕と慎也君が融合することで、僕の体に流れるアースエナジーと同化して、除々に慎也君の体を治すことにしたんだ。』
「じゃあ、慎也君の中には・・・・」
『そう。慎也君の中には僕がいる。それから、この刀のことだけど・・・・』
ノアは今度は俺が持っていたスティックのことを話そうとした。
「ああ、やっぱこれ、刀なのか?」
『うん。僕が慎也君と融合すると同時にこうなったけど・・・・とにかく、これがあればこれを通して僕と話せるよ。』
「でも、この刀がお前とどう関係あるんだ?」
俺がこの刀とノアとの関連性を聞こうとすると、ノアはうなり声を上げた。
『うーん・・・前に一回見たことがある気がしたんだけど・・・・それが思い出せないんだ。まあ、これは置いておいて・・・・ガルタークのことなんだけど・・・・』
ノアの一言で、猛さんはハッと何か思い出したかのような顔をした。
「あっ、そうだ!それだ!ガルタークって、あの時、ノアが倒したはずだよな!?」
猛さんの言う通り、ガルタークは6年前にノアが倒している。しかし、今、ガルタークは渋谷に現れた。
『そのことなんだけど・・・・実はガルタークとベルゼルトは何匹・・・・何百匹も存在しているんだ。』
「なに!?」
「どういうことだよ!?」
俺達はノアのその一言にひどく動揺し、驚きから思わず声が出てしまった。
すると、ノアは昔のことを語り始めた。
『時代は1000万年以上前・・・・つまり、僕が生まれた古代の時代・・・・ガルタークとベルゼルトは何千何万といて、人間達を襲っていた。僕は人間達と一緒に必死に戦ったけど、結局、数を百匹単位に減らすだけで精一杯だったんだ。そこで、人間達は僕を封印すると同時にガルタークとベルゼルトを一緒に封印した・・・・ということだよ。』
ノアの話から推測すると、今新たにガルタークが現れたということは、今後、また新たにガルタークやベルゼルトが現れるかもしれない・・・・ということになる。
「じゃあ・・・・」
猛さんも同じ考えに至ったのか、ノアに話しかけた。
『そう。奴らはまた来る。人間を脅かしに・・・・』
ノアの一言から、今後の戦いの厳しさが垣間見えた。
すると、ジャックさんは突然笑い出した。
「心配ねぇさ!こっちには天下のノアがいる!それに・・・・これはここだけの情報だが、米軍の技術班が、怪獣用の兵器を自衛隊と共同開発しているらしい。」
「あっ、それ、榊さんから聞きました!確か、ガルタークでも倒せるかもしれないって・・・・」
『そっか・・・・それ聞いたら俄然やる気が出てきたよ!みんなで頑張ろう!』
「ああ!地上は俺達人間とノアの手で守る!」
『うん!』
ジャックさんとノアが話していると、今度は猛さんがノアに話しかけてきた。
「あっ、そうだ!ノア!実は、俺と美咲の間に子どもが生まれるんだ!」
『えっ!?それ本当!?おめでとう!出産はいつなの?』
「医者が言うには今月中には生まれるらしい。今、新宿の病院に入院してる。」
『そっか!とにかく本当におめでとう!!何も贈り物ができなくて悪いけど・・・・』
「いいんだよそんなこと!それに、俺はノアのおかげで生きてられるんだ。ノアがいなかったら、俺はこうして働いて、結婚して、子どもができるなんてことはなかっただろうし。だから、本当にノアには感謝してる。」
『猛・・・・ありがとう。』
それからノア、猛さん、ジャックさんの3人は和気藹々と楽しそうに話し込んだ。俺はそれを蚊帳の外から見ていたが・・・・正直それを見て、ドン引き・・・・というより、薄ら寒く感じていた。いや、今思えば、俺はこの3人の中に嫉妬していたのかもしれない。
すると、ノアが俺が会話に入っていないことに気づいたのか、俺に声をかけてきた。
『慎也君!』
「・・・・なんだよ。」
『いきなりこんなことになって、君には本当に申し訳ないと思ってる。でも、僕がいる以上、君の安全は保証するし、必ず君の体は治す。それで、これはすごく勝手なことだけど・・・・慎也君、僕と一緒に奴らと戦って欲しい。これから僕達は、一心・・・・』
「嫌だ。」
ノアが「一心同体」と言おうとした瞬間、俺は大きい声でそれを断った。
『そっか、嫌か。それならしょうがな・・・・って、ええっ!?』
驚くノアを尻目に、俺はノアに怒りをぶつけた。
「勝手に人の体に入りやがって!何が『一緒に戦って欲しい』だ!勝手に俺を殺しておいてよく言えるな!!」
『で、でも、こうでもしないと君の体が・・・・』
「誰が『助けてくれ』って頼んだ!?お前に助けられるなんてまっぴらだ!この人殺し!!」
俺がノアに暴言を吐くと、ジャックさんが俺の胸倉を掴んだ。
「おい!いくらなんでもいいすぎだ!!こいつはお前を命がけで・・・・」
俺はジャックさんの腕を振り払い、自分の思いを打ち明けた。
「うるせぇ!!何も知らないくせに!何が人類を守るだよ・・・・何が感謝だよ・・・・正義感ぶりやがって・・・・」
「で、でも、君の手で、大事な人を守れるんだよ?守りたくないの?」
猛さんの一言から、俺の頭の中に俺の両親、それに美香の姿がよぎった。
それと同時に、俺は拳を握りしめ、2人に向かって言った。
「冗談言うなよ・・・・俺は、あんたらみたいに正義感なんてないんだよ・・・・!!」
俺はそう言って、その場を立ち去った。
俺には正義感はない。俺は臆病で、汚くて、ちっぽけな・・・・ただの人間だ。他の大勢の人間と同じ・・・・




