第2話「謎多き少女」
それからその褐色の女の子は美香の家でしばらく面倒を見ることになった。しばらく経って両親が見つからなかったら、孤児院に送るらしい。
家に帰ってきた俺は、私服に着替え、自分の部屋のベッドで横になった。そして、なぜあの女の子が黒い球体のいたのか、あの洞窟は一体なんなのか、隣にあった神棚は一体なんなのか・・・・いろいろ考えてみたが、何もそれらしい答えが見つからない。
その時、家のインターフォンが鳴り響いた。俺は急いで下に降り、玄関のドアを開けた。
そこにいたのは、美香とあの時の女の子だった。女の子はさっきと違い、美香が小さい頃着ていた服を着ていた。
「慎也君、晩ご飯のおかず、持ってきたよ。」
美香はそう言って、大きめのタッパ一杯に詰まった唐揚げを差し出した。
俺はそれを受け取り、礼を言った。
「サンキュ。いつも悪いな。」
俺の両親が死んでから、美香はこうやって毎日のように料理を持ってきてくれた。
「いいのいいの。慎也君のことだから、どうせインスタント物だけで済ませてそうだし。」
「済ませてねぇよ。」
美香の言ってることは本当だった。俺は最初の内は自炊していたが、そのうち面倒になってインスタント食品ばかり食べるようになっていった。だからこそ、美香の差し入れは本当に感謝してる。
「上がれよ。お茶ぐらい出すぞ。」
「おじゃましまーす。」
俺は2人を家に上げ、お茶を入れた。その間、美香は持ってきた差し入れを冷蔵庫に入れた。
「慎也君、ちゃんと野菜も食べてる?」
「はあ・・・・食ってるよ!キャベツのパック入りの奴。」
俺はため息混じりで美香の質問に答えた。すると、美香は母親みたいに俺に注意してきた。
「それだけじゃダメでしょ!ちゃんとニンジンとかピーマンも食べなきゃ!」
「お前は俺のオカンか何かか!?」
俺と美香が口喧嘩していると、あの女の子が俺の上着の裾を引っ張ってきた。
「お腹・・・・すいた・・・・」
それを、美香が不思議そうな顔で見ていた。
「あれ?ドラちゃんさっきご飯食べたばかりなのに・・・・」
「ドラちゃん?なんだそれ?」
俺は美香の呼び方に、思わず理由を聞いてしまった。
「この子、名前が『パンドラ』って言うんですって。」
「パンドラぁ?」
「パンドラ」・・・・よくアニメやマンガで聞いたことがある名前だ。確か元はギリシャ神話に登場する女性で、その女性が開けたと言われる災厄の全てを封じていた箱をパンドラの箱・・・・と言うらしい。この子がパンドラなら、入っていた黒い球体がパンドラの箱・・・・という考察ができるが、いかんせんバカバカしい。
俺は棚からポテチを取り出し、パンドラに手渡した。
「こんなのでいいか?」
パンドラはポテチを受け取ると、驚いたことに、袋のままポテチにかじりついた。そしてそのまま袋を破り、袋の切れ端を口に入れ・・・吐き出した。
「不味い。お兄ちゃん嘘ついた。」
「・・・・美香、こっち来い。」
俺は美香を連れ、リビングの片隅に寄った。
「あいつ・・・・どう考えても普通じゃない!ポテチは普通、袋開けるだろ!?幼稚園児でも分かるぞ!とっとと施設に送った方がいいんじゃないのか?」
「でも、そんなことしたらあの子がかわいそう・・・・両親を探してからでも遅くないよ。」
「そんな悠長な・・・・」
俺と美香がコソコソと話していると、パンドラが下から顔をのぞき込んだ。
「何してるの?」
「あっ、いや、その・・・・こ、この後、歌番組が始まるよなーって・・・・」
「そ、そうそう!せっかくだからここで見よーっと!」
俺と美香は咄嗟に嘘をつき、美香はテレビをつけた。テレビではドキュメンタリー番組がやっていた。しかし、テレビの映像はすぐに変わってしまった。ドキュメンタリー番組の映像が終わり、臨時ニュースの速報が入った。
『臨時ニュースです!たった今、渋谷にてガルタークとノアが現れました!』
「なに!?」
俺と美香は臨時ニュースを聞いて思わず驚いた。そして、パンドラは持っていたポテチの袋を床に落とし、そのまま床に膝をついた。
「あ、あいつが・・・・あいつが来る・・・・!!」
パンドラは自分の体を抱き、怯えた動物のように震え出した。
「大丈夫よ。大丈夫だから・・・・!!」
美香はパンドラを落ち着かせようと、体を抱きしめた。
『ノアとガルタークは、現在戦闘中であり、自衛隊は防衛とガルターク撃破のための準備を進めているとのことですが、いつになるかはまだ分かりません。渋谷付近にお住まいの方々はすぐに避難をしてください!』
「ここも危なそうだな・・・・」
今、俺が住んでいる家から渋谷までは大体3kmくらい離れてる。とはいえ、こっちに被害が及ばないとはいえない。俺はすぐ避難できるように自分の部屋に戻り、荷物をまとめようとした。
しかし、部屋に戻った時、俺は部屋の中で異様なものを見つけた。それは、淡く光っている鞄だった。その鞄は学校ジャージが入っている鞄で、神棚で見つけた刀が入っている鞄でもあった。俺は不思議に思いながら鞄を探った。すると、すぐに光の原因が見つかった。原因は刀だった。刀が鞄の中で光を放ち、その光が外に漏れていた・・・・と考えられる。
俺はその刀を手に取り、頭の中で思考を巡らせた。そして、俺はこの光がノアやガルタークに関係しているのではないかと考えた。だが、それを確認するには、ノアに近づくしかない・・・・そう思った俺は、タンスからジャケットを取り出し、身に着けた。そして急いで下に降りた。もちろん、刀も忘れてない。
「美香!おじさんとおばさん、それにパンドラ連れて避難所に行け!」
「慎也君は!?」
「俺は・・・・気になることがあるから、渋谷に行く。」
俺の一言に、美香はひどく驚いているようだった。それも当然だ。「気になることがあるから怪獣のいる渋谷に行く」なんて、とんでもないバカか、気が狂った奴の行動だろう。しかし、俺は行かなきゃならなかった。謎の解明と、ノアに会って自分の気持ちに決着をつけたかった。今ほど絶好の機会はないだろう。
「じゃあな!」
「慎也君!行っちゃダメ!!」
俺は美香の静止も聞かず、家を飛び出した。そして、渋谷へと走っていった。今思えば、自転車使えば早かっただろうが、今の俺にそんな考えは思いつかなかった。
そして、1時間後、俺はなんとか渋谷にたどり着いた。
「はあ・・・はあ・・・・ノアは・・・?」
俺は息を切らしながら辺りを見回した。すると、火球が俺の頭上を通り過ぎた。通り過ぎた火球は後ろにいたガルタークに命中した。
「ギャオオオオオオオオオオオッ!!」
「ウオオオオオオオオオッ!!」
ノアとガルタークは叫び声を違いを威嚇し合った。
先に攻撃を仕掛けたのはノアだった。ノアは先制攻撃で拳を繰り出すも、ガルタークはひらりとかわし、尻尾をノアの首に巻き付け、首を絞める。しかし、ノアは逆に尻尾を掴み、地面に叩きつける。そこですかさず、両手にエネルギーをため、火球を放つ。ガルタークは咄嗟に跳び上がってよけた。
俺は思わず戦闘を固唾を飲んで見守っていた。理由はただ単純に、目の前で戦っている巨人と怪獣の光景がすごかったからだ。こんな光景は、テレビの特撮ぐらいでしか見られない。
その時、ノアはガルタークの背後に回り、首を掴んだ。これで終わった・・・・と思いきや、ガルタークは突然ノアとともに宙に飛び上がり、高速で回転を始めた。そして、その遠心力でノアをふりほどき、尻尾でノアを吹き飛ばした。その時、ノアは俺の目の前に真っ逆さまに落ちていった。
「!!」
ノアは俺に気づいたのか、内蔵されているブースターを使って回避しようとした・・・・だが、間に合わなかった。
「えっ・・・・」
俺は悲鳴を上げることなく、ノアの巨体に踏みつぶされた・・・・痛みも何も感じなかった・・・・・ただ、目の前が真っ暗になった・・・それだけだった・・・・
この時、俺は死んだと思っていた。だけど、俺はこの後、信じられない出来事に遭遇することになった。それは、忘れたくても忘れられない出来事だった・・・・・




