第4話「災いの恐虫」
俺達は基地に戻り,研究所の博士の部屋に駆け込んだ。
部屋に入るとジョージ博士と大崎教授が待っていた。さらに,部屋の奥の壁には映写用スクリーンが置かれ,テーブルにはパソコンが置かれていた。
「よく来てくれた。これからあの怪獣の生体を話す。」
教授の言葉とともに,俺と猛はソファに座り込んだ。
この時,俺は少し気になる点に気がついた。スクリーンの側にいた博士の表情が曇っていた。博士がこんな表情を見せることはなかった。博士はいつも明るく,部下に気軽に接している。なのに,今の表情は重く,何か責任を背負ったような顔だった。
すると,スクリーンに街に現れた怪獣が写し出された。それと同時に博士が口を開いた。
「私は・・・・この怪獣を知っている。」
それを聞いた途端,俺と猛は驚愕した。
「ど,どういうことですか?博士!」
動揺する俺達を尻目に,教授がパソコンを操作してスクリーンの映像を変えた。
出てきた映像は静止画で,そこに写されているのはあの怪獣に似た巨大な虫だった。大きさは街に現れた時と比べると少し小さいが,人目であの怪獣だとわかった。
「あれは第2次世界大戦が始まる7年前のことだ・・・・」
博士は当時のこと,怪獣のことを話してくれた。
「当時の私は,調査隊として仲間とともにブラジルを調査していた。一週間に及ぶ調査が終わり,基地に戻ろうとしたところで,私達調査隊はある物を発見した。それは,巨大なサナギだった。見た目は芋虫などが作るそれと全く同じで,それを何倍にも巨大化したような物だった。さらに,不思議なことに,その近くには文字が書かれた石板があった。」
「石板ってもしかして・・・・」
石板と聞いて,猛はあることに気がついたようだ。
「そう。石板には君達が鉱山で見つけたものと同じ文字が彫られていた。」
博士は猛の質問に解答すると,再度話を続けた。
「調査隊の一人が興味本位でそのサナギをつついた。その時だった・・・・急にサナギが2つに裂け,中からこの怪獣が飛び出した。仲間達は銃を発砲したが,敵わずみんな喰われてしまった・・・・」
「は,博士はどうやって生き残ったんですか?」
「怪獣に喰われる寸前,遠くからヘリの音が聞こえた。そのヘリは,調査隊を迎えに来たヘリだった。怪獣はその音に反応し,私を無視してそっちに飛びついた。私は恐怖に震えながら様子を見に行った。そこには,ヘリの残骸が転がっていた。その残骸から,人間の血と油が流れ,流れた先で血と油が混ざり合っていた・・・・私は基地に帰った後,上官にこの目で見た全てを話した。だが,上官は信じなかった。私は狂人と呼ばれ,挙げ句の果てには仲間を殺した殺人鬼とまで呼ばれた。その後,私はこの研究所に左遷された。だが,これは私にとってチャンスでもあった。今の私はここであの怪獣を殺せる薬を開発している。殺された仲間の為にも,人類の為にも・・・・・」
博士の話を聞き,俺達は何も言えなかった。遭遇した博士自身の恐怖,博士の悔しさ,憎しみ,辛さ,信念・・・・博士はいつも明るかった。だが,その反面,博士は死んだ仲間のため,人類のために努力していたんだ。
それを理解した俺は,あの博士の背中が大きく見えた。まるで,ヒーローのようにも見えた。
博士の話が終わると,教授はスクリーンの映像を変えた。
今度は見たこともない文字が写し出された。恐らく古代文字だった。
「これは博士が見つけた古代文字と,鉱山で見つけた古代文字。これを解読すると・・・・」
スクリーンに写った古代文字の下に解読した文字が写し出された。
スクリーンにはこう書かれていた。
『災いの恐虫ベルゼルト,その力,ノアをも凌ぎ,恐怖の種を地に蒔く。やがて,その種は芽を出し,地上界に地獄をもたらすだろう。ノアの力の根源,大地のみにあらず。ノアの真の力は人間にあり。』
この文字に書かれている恐怖の種・・・・恐らく,あの怪獣・・・・ベルゼルトの卵のことだろう。あいつが雌なのかは定かではないが,もし雌で,地球に卵が蒔かれたら・・・・その時は本当に人類が終わってしまう。
俺は思いきって教授と博士に質問を投げかけた。
「今のアメリカ軍の兵器で,あの怪獣を倒せますか?」
俺の質問に,二人は項垂れた。すると,博士が口を開いた。
「わからん。核ミサイルを使えば倒せるだろうが,それを使うわけにはいかん。」
博士の言う通りだ。核ミサイルなんて使えば,怪獣ごと人間も死ぬ。しかし,今の兵器の倒せるかどうかわからない。
その時,緊急警報が鳴り響いた。
『各隊員に告ぐ!!ニューヨークに怪獣と巨人が出現!!陸軍は住民の避難を最優先!!空軍は戦闘の準備が完了次第,2体の撃破に専念!!繰り返す!!・・・・』
俺はその放送を聞いた途端,唖然とした。軍は怪獣だけでなく,ノアも殺す気だ。
「何考えてんだ・・・・!!」
俺はすぐに司令室へと急いだ。マーカス少尉や他の上官を説得しなければならない。
司令室に入ると,そこにはマーカス少尉がいた。他の上官はまだ来ていないようだった。
「アダン上等兵,君もすぐ戦線に加わり,避難誘導及び戦闘に協力したまえ。」
「その前に,ノアへの攻撃をすぐに止めてください!!ノアは敵じゃありません!俺や教授達を助けてくれたんです!それに,日本に現れた怪獣もあいつが倒したんです!」
俺は必死に少尉を説得した。しかし,少尉の答えは・・・・
「それは日本での話だ。ノアはアメリカ軍の障害になり得る可能性がある。そのために奴は殺す。」
少尉の答えはそっけないものだった。少尉の言っていることも分かる。だが,今は・・・・ノアの力が必要だ。
俺は負けずに説得を続けた。
「このままじゃ人類は絶滅するかもしれないんです!それを回避するためにノアの力が必要なんです!」
「・・・・君と話している場合じゃない。」
少尉はそっぽを向き,作戦状況を確認した。
俺はもうダメかと思った。だが,諦めるわけにはいかない。俺はダメ元で自身の考えを少尉にぶつけた。
「少尉!!我々アメリカ軍・・・・いや,軍人は人を守るためにあります!ノアも同じです!ノアは誰になんと言われようと人を守っています!ノアは我々軍人と考えることは同じなのではないですか!?」
「・・・・・」
少尉はしばらく黙った。俺はもうダメだと諦めた。だが,その時,少尉は口を開いた。
「全軍に通達!作戦を変更!!攻撃対象を怪獣のみに移行!!全勢力を持って奴を倒せ!!」
「了解!全軍に通達!・・・・・」
モニターにいた隊員達が少尉の言葉に了解し,通信機で全軍に作戦変更を知らせた。
俺はそれを聞いて驚いた反面,心から喜んだ。
「少尉・・・・・!!」
俺は礼を言おうとしたが,嬉しさのあまり言葉が出なかった。
それを見越してか,少尉は言った。
「全ての責任は私が持つ。君は行きたまえ。」
「了解!!」
俺は少尉に敬礼し,司令室を後にした。
「全軍!あのでかい虫に我が軍を敵にしたことを思い知らせてやれ!!」
『了解!!』
少尉の言葉とともに,ノアとアメリカ軍,ベルゼルトとの決戦が開始された。




