第2話「巨人再び」
挨拶を済ませた俺は,マーカス少尉に尋ねた。
「少尉,どうして俺を・・・・」
「わかった。今話す。失礼,少々外してもらえますか?」
マーカス少尉は教授と猛を部屋の外に出し,俺に本題を話した。
「一週間前,コロラド州の鉱山で古代文明の碑石が見つかったことは知ってるかね?」
古代文明の碑石・・・俺は,その存在を前にテレビのニュースで見て知っていた。
「ええ,知ってます。」
古代文明に考古学教授・・・・この二人の目的は大体見えた。大方,「碑石を見て,解読したい」というところだろう。
「この二人はそのことを知り,実際に見てみたいそうだ。で,我々に護衛をして欲しいそうだ。」
少尉はそう言ったが,俺は少々納得できなかった。
そんなことなら個人で勝手に行けばいい話だからだ。
「どうして我々が?我々とは何も関係が・・・・」
俺が文句を言いそうになった瞬間,少尉は俺の声を塞ぎ,話を続けた。
「その碑石とやらが,どうも東京で現れた怪獣と関係があるそうだ。上官はこのアメリカに怪獣がいるのではないかと予想している。そのためにも,あの二人の知識は必要だ。」
少尉の言い分には,俺自身も少し納得ができた。もし怪獣がこのアメリカに現れれば,怪獣の知識のない俺達アメリカ軍が戦っても勝つ見込みはない。そのために,東京での騒動を経験したあの二人が必要なのだろう。
しかし,まだ納得のできないことがあった。
「しかし,それと私のなんの関係が・・・・・」
それは俺がここに呼ばれた理由だ。まあ,大体の予想はついてるが。
すると,マーカス少尉は突然微笑みを浮かべた。
「君はしばらくあの二人の護衛及びお目付役をしてもらう。」
「えっ」
思った通りだ。思った通りの展開だったが,俺は思わず声を上げてしまった。
俺は冷静さを保ちながら,少尉に言った。
「お言葉ですが,私には訓練が・・・・」
すると,少尉は俺の言葉を押しのけ,
「訓練はしばらく休んでいい。隊長にも言っておくよ。それじゃ,頼んだよ。」
と言って,少尉は部屋を出て行った。
実質,俺は面倒事を押しつけられたんだ。
しかし,ウダウダ言っていても仕方がない。仕事は仕事で,きっちりこなさなければならない。
俺は腹をくくり,部屋の外に出た。
ドアの横には,あの二人が待っていた。
俺は2人に言った。
「今からヘリを手配します。ヘリを利用して,鉱山に行きましょう。」
早速俺達はヘリを利用して,コロイド州の鉱山に向かった。
その道中,ヘリの中で2人は鞄から一枚の紙切れを取り出した。
「なんだそれ?」
俺は思わずため口で聞いてしまった。
しかし,2人はそんなことは気にせずに答えてくれた。
「これは北海道で見つかった碑石から読み取った古代文字です。」
「しかも,この碑文は予言みたいなんですよ。」
猛はそう言って俺に紙を渡した。
紙には見たことのない文字と日本語,さらにご丁寧に英訳まで書いてる。
紙にはこう書いてあった。「悪しき力,異国の地に眠る」と書いてあった。
異国とは恐らくアメリカのことで,悪しき力というのはよく分からないが,このアメリカに悪しき力とやらが眠っていると俺は解釈した。
そこで俺は2人にこのことを問いかけた。
「この力ってのが鉱山に眠ってるのか?」
「その可能性はあるでしょう。まずは碑石を解析することが最優先です。」
俺が2人と会話している最中,ヘリのパイロットが話しかけてきた。
「まもなく目的地に到着します!」
外を見てみると,鉱山が見えた。そこには小さいが採掘車と多くの人が見えた。
ヘリは目的地に着陸し,俺は先にヘリから降りた。次いで2人を降ろした。
大崎教授はヘリから降りるなり,採掘場のリーダーと思われる人物に話しかけた。
「あなたがこの採掘場の責任者ですか?」
「ああ。」
「私は日本から来た考古学者です。碑石まで案内してもらえませんか?」
「ああ,いいぞ。」
責任者の男は俺達を碑石の場所まで案内した。
鉱山の中は薄暗い洞窟のようで,木の柱で天井を抑え,道には線路が引かれている。
碑石はその道の奥にあり,壁の中に埋もれた状態で置かれていた。
教授は表面についていた砂埃を払い,ライトを照らした。碑石には先ほどの紙に書かれていた文字と同じ文字が彫られていた。
「教授,これって・・・・」
「ああ。恐らくノアや怪獣に関するものだ。真銅君,ノートを。」
「はい!」
猛は鞄からノートとボールペンを取り出し,教授の持っていたライトと交換した。
その後,猛は碑石の文字が見えるようにライトを照らし,教授は碑石の文字をノートに書き記した。
碑石は俺の身長,170cmを超えるほどの大きさがある。しかし,書いてある文字数はそこまで多くはなかったため,作業に時間はかからなかった。
その時,外にいた鉱山夫の声が聞こえた。
『おい!こっちに変なモンがあるぞ!』
『なんだこりゃ!?まるで爬虫類が脱皮した後みたいだな。』
「爬虫類・・・?行ってみよう。」
「はい!」
その声を聞いた俺達はすぐに外を出た。
外に出てみると,俺達の目に巨大な皮のような物体が飛び込んできた。
それは表面上は半透明で,凍ったように固まっていた。周りには虫のように足が多くあった。さらには目や角のようなものもある。反面,内部はスライムのような粘着部が張り付いていた。
俺はこれを見た時,直感した。これが・・・・いや,この中にいた奴が,碑文に書いてあった「悪しき力」だと。
「これは怪獣の体液か?真銅君。」
猛は鞄から透明のガラス製のビンとピンセット,匙を取り出し,教授に渡した。
教授はそれを受け取り,付着していた液体をビンの中に入れた。
「よし・・・・ジャックさん,軍の研究室をお借りできませんか?この液体を調べたいのです。」
教授はいきなりとんでもないことを俺に頼んだ。俺自身は別に構わないが,研究員はなんと言うかわかったもんじゃない。実を言うと,研究所の奴らは厳格な奴らが多く,簡単に了解してくれるとは思えない。
しかし,客人の頼みを断るわけにもいかない。
「やってみます。了解してくれるかわかりませんが・・・・」
俺は引き受けることにした。
教授は返事を受けるなり,俺に礼を言った。
「ありがとう。では,早速戻ろう。」
俺達はヘリに戻ろうとした。
しかしその時,「ヴヴヴヴヴ・・・・・」という羽が動くような音が聞こえた。
変に思った俺は空を見上げた。するとそこには,巨大な何かが俺の頭上を通り過ぎていった。
一瞬だったが,"奴"には虫のような羽,8本近くある足,巨大な目に角があった。それを見たとき,俺は確信した。あの皮はあの虫が脱皮した後のものだったと。
あの虫を見て,周りにいた人間は当然困惑していた。
しかし,教授と猛はなんとか平静さを保っていた。
「今の奴・・・・街に向かってた!!」
「行ってみよう!」
俺達は虫を追うため,ヘリに乗り込んだ。
パイロットは俺達が乗り込んだのを確認し,ヘリを飛ばす。
街に向かってみると,先ほど見た虫はもう街にたどり着いていた。
虫は逃げ惑う人々を喰らい,周りの建物を破壊していた。
その光景を見た猛は,首に下げていたペンダントを握りしめ,小さく呟いた。
「ひどい・・・・」
対し,教授はカメラを取り出し,ヘリのパイロットに告げた。
「もっと近づいてください!」
教授は近くで怪獣の写真を撮りたいようだ。しかし,それは無謀とも言える行為だ。
当然,パイロットは断る。
「無理です!危険すぎます!」
俺は念のために持ってきた機関銃,M240と呼ばれる機関銃を装備し,パイロットにこう告げた。
「奴が近づいて来たら,俺がなんとかする!だから近づけ!」
俺自身は危険だとわかっていた。しかし,このまま怪獣を放っておくわけにもいかないし,客人を守らなければならない。相手は怪獣とは言え,少しは銃の効果があるはず。
「・・・・わかりました!その代わり,帰ったらただじゃおきませんよ!!」
そう言ってパイロットはヘリを怪獣の元に少し近づけた。
怪獣は俺達に気づかず,破壊行動を続けていた。
教授は怪獣の写真を次々に撮っていく。
俺は怪獣がいつ来てもいいように銃を構える。
すると,パイロットが叫んだ。
「これ以上は無理です!移動します!」
「待ってくれ!もう少し・・・・」
その時,怪獣が俺達の存在に気づき,俺達の方に顔を向けた。
そして,羽を広げて舞い上がった。
「浮上しろ!」
「ダメです!間に合いません!」
ヘリは上空に浮上するも,怪獣の方がスピードが早く,俺達の目の前まで迫ってきた。
「クソ!こいつめ!!」
俺は怪獣に対して機関銃を乱射した。しかし,怪獣に効いている様子がない。
怪獣は俺の攻撃を嘲笑うかのように,自身の牙を俺達に向け始めた。
「ク,クソ・・・・!!ここまでか・・・・!!」
俺はもうダメかと諦め,銃を下ろした。
しかし,その時奇跡が起きた。
巨大な腕が怪獣を殴り飛ばした。そして,その腕の主は俺達を通り過ぎていった。
そいつの両肩は巨大でボールのように丸く,両腕と両脚はドラム缶を何倍にも大きくしたかのように巨大で,中世時代の兜を思わせるモヒカン頭にマスク・・・・俺はテレビでそいつを見たことがある。奴は東京でガルタークを倒した英雄的存在の巨人・・・・その名は・・・・・
「ノア!!」
猛はノアの登場に歓喜の声を上げた。
対し,ノアは怪獣を威嚇するように叫び声を上げた。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
逆に,怪獣も叫び声を上げる。
『キュルルルルルルルルルルルルル!!』
ノアと怪獣,お互いににらみ合い,戦いが静かに開かれていった。
これが,俺とノアの出会いだった。




