第1話「邂逅する2人」
この世にヒーローはいない・・・・それが俺の人生の中で一番覚えている教訓だ。
俺はジャック・アダン。カナダ生まれの黒人だ。俺は子どもの頃,ヒーローが登場するコミックを読んでヒーローに憧れた。それから俺はヒーローの真似事で,子どもながらに人助けをした。
しかし,ある日のことだ。俺はいじめられていた子を助けようとしたが,逆にボコボコにされた。俺は泣いて助けを求めて叫んだが・・・・誰も助けてくれなかった。その日から実感した。この世にヒーローはいない。自分を助けられるのは自分だけ・・・・それを学んだのは,俺が10歳の頃だった。
俺はそれから強くなりたいと心に決めた。だから俺は軍人になった。でも,30近くになって未だに出世できていない。階級は上等兵止まりだ。
それから俺はパッとしない人生を過ごしていた。あの日までは・・・・
「アニー,ビール一杯。」
俺は行きつけのバーでいつものように飲んでいた。ここの酒はいつも美味い。たかがビールでも,他の店とはひと味違っていた。それに,ここのバーは美味いだけじゃない。
「お待ちどおさま。」
女の声と一緒に,俺の目の前にジョッキに入ったビールが現れた。
上を見上げると,そこにはさらさらの金髪を束ねた美人の女がいた。
女は俺を見て笑顔を浮かべ,挨拶をした。
「いらっしゃい,ジャック。」
こいつはアニー・アーネット。このバーの店員で,俺の彼女だ。といっても,まだ結婚はしていない。まだ同姓の身分だ。結婚したいと思ってはいるが,まだ告白できない・・・・その勇気がない。
だから,今回こそは言ってみせる。
「なぁ,アニー。仕事終わったら,俺の家に来てくれないか?話したいことがある。」
俺はアニーにそう言った。
それに対し,アニーは笑いながら言った。
「あら何?あなたがそんなこと言うなんて珍しいわね・・・・わかった。家で待ってて。」
ここまでは順調。後はこの後だ・・・・この後に何もなければ,俺は告白できる。
そして,俺は自分の家に戻り,アニーを待った。家と言っても家賃の安いマンションだが。
時間はとっくに店の終了時間を過ぎていた。
俺はアニーの到着が待ちきれなく,思わずソワソワしていた。
その時,家のインターホンが鳴り響いた。
玄関のドアののぞき穴を確認してみると,そこにはアニーがいた。
俺はドアを開け,笑顔で出迎えた。
「やあ,アニー。」
「ごめんね,待たせちゃって。」
アニーは俺を待たせたお詫びに,俺の口にキスをした。
「まあ,上がってくれ。汚いけど。」
アニーは家に上がり,リビングのソファーに座った。
俺はキッチンでコーヒーを作った。
その最中,俺はズボンのポケットから小さい箱を取り出した。その中には指輪が入ってる。これは俺の一ヶ月分の給料を貯めて買った結婚指輪だ。今夜こそ渡してみせる。
俺はコーヒーをアニーに出した。
アニーは俺に礼を言い,コーヒーを飲んだ。
「ありがとね。それで?話したいことって?」
アニーが俺に聞いてきた。
俺はそれに答えるように本題に入った。
「・・・・アニー,俺はお前を愛してる。心から。お前も,俺のことを愛してるか?」
アニーは俺の話を聞いて突然笑い出した。
「ははっ,何言ってるのよ。当たり前じゃない。」
「よかった・・・・で,はっきり言うんだけど・・・・その・・・・・俺と・・・・」
「結婚してくれ。」・・・後はその一言だけだったが,どうしても言い出せなかった。
しかし,今回ばかりはこれを言わないと始まらない。
「俺と・・・けっ・・・」
「結婚」と言う途中で運の悪いことに家の電話が鳴り始めた。
「・・・・ちょっとごめん。」
俺は席を離れ,電話に出た。
「もしもし。」
俺は不機嫌そうな声で対応した。
それも当然だ。こっちは自分の中での一大イベントの最中だったのに,それを邪魔された。
例えて言うなら,誕生日の日に交通事故起こして免停くらうのと同じだ。
しかし,俺の怒りはその電話をしてきた相手の声によって消えた。
電話から野太い男の声が聞こえた。
それは聞き覚えのある声だった。
「ジャック・アダン上等兵だな?」
「マーカス少尉!?」
その電話の主は俺の上司,マーカス・ブライアン少尉だった。
俺は突然の電話に驚きながら,少尉に何故電話をしたのか尋ねた。
「少尉,なぜ電話を・・・・」
「アダン上等兵,明日,君に特別任務を与える。明日の朝,9時までに上官室に来たまえ。内容を話す。」
「わ,わかりました。」
俺の返事と同時に,電話が切れた。
俺のことを心配したのか,アニーが声をかけてきた。
「ジャック?どうしたの?」
「・・・・すまん。明日仕事が入ったんだ・・・・今日は早く寝ないと。」
「そっか・・・・じゃあ,あたし帰るね。」
アニーは荷物をまとめ,俺の家を出た。
告白のタイミングを逃した俺は,せめて一言だけ,アニーに伝えた。
「アニー!今日は言えなかったけど・・・・今度は必ず言うから。だから,待っててくれ。」
俺がそう言うと,彼女は笑顔を見せた。
「うん。待ってるね。」
アニーはそう言って俺の家を後にした。
俺はアニーが帰った後,1人ため息をついた。
「はあ・・・・今日も言えなかった・・・・」
実は先日,一週間に及ぶ長期訓練を終えて帰って来たところだった。それから俺は3日ぐらいの休みをもらい,それを利用して告白する予定だったが・・・・今の電話で告白するタイミングを逃した。
しかし,後悔しても仕方ない。告白は次の機会に回すことにした。
翌日,俺は少尉の言いつけ通り,上官室を訪れた。
上官室にはマーカス少尉と,日本人らしき2人の男がいた。
「ジャック・アダン上等兵,ただいま到着致しました。」
俺は少尉に敬礼した。
敬礼が終わると同時に,少尉はその場にいた2人の日本人を紹介した。
俺は日本と聞いて,5年前に起きた怪獣騒動のことを思い出した。確か,東京にガルタークという怪獣が現れ,それをノアという巨人が倒したとか・・・・怪獣が現れたとは信じられないが,実際に起きたことだ。
「アダン上等兵,この2人は日本からきた考古学者だ。」
日本人の2人は俺に対して自己紹介を始めた。
「私は考古学教授の大崎祥悟と申します。」
「俺・・・・いや,私は教授の助手の真銅猛といいます。どうぞよろしく。」
大崎という男は中年で眼鏡を掛けており,まさしく教授らしい風貌だったが,猛という男は助手というには若く,俺よりも年下に見えた。
「ジャック・アダンと申します。階級は上等兵です。以後よろしく。」
俺は2人に敬礼し,握手を交わした。
この2人・・・・特に,猛との出会いが俺の人生を変えた。
猛だけじゃない。俺の人生を変えたものは・・・・まだあった。




