平原
目の前が一瞬にして白に包まれる。
まばゆい光が体中を貫いているような感覚。
「なんだ……?」
さっきまであの真っ暗な空間にいたはずなのに、俺の頬を風がなでる。
その風に乗って、草の匂いが漂ってくる。
俺はまぶしさに耐えながら、ゆっくりと目を開く。
「ん……何が……――!?」
瞬間。
目に飛び込んできたのは、さっきとは真逆の光景だった。
地面に生い茂る緑。
遠くまで続く草原。
透き通るような青い空と、そこに浮かぶ白い雲。
完全に頭がバグるような光景がそこにはあった。
「……どこだよ!?」
思わず叫ぶ俺に、突っ込みを入れる声は聞こえてこない。
不思議に思い周囲を見回すが、ここには俺一人しかいなかった。
俺だけ……?
おかしいな、ユキやアイアンナイツの連中はどこに行った……?
確か、ズルドーガを倒して、空が割れて光に包まれて……。
そのわずかな瞬間に、ほかのやつらはどこかに飛ばされたのか?
いや、この場合俺か。
ここがどこかもわからない。――が、こんな気分の良い場所に来たんだ、やることは一つしかない。
「探検だ!!」
俺は一歩を踏み出すと、気の向くままに歩き出す。
これこれ、こういう始まりの町から出たすぐあとみたいなエリア結構好きなんだよなあ!
風も気持ちが良いし、さっきまでの疲れもどこかへ飛んでいくぜ。
俺はただ気の向くままにしばらくその平原を歩いていく。
ここもダンジョンなら、きっと出口みたいなのがどこかにあるはずだし。
「そうだ、いったんステータスを見ておくか」
[ステータス]
Name:テンリミット
Honor:<闇を縫う者>
Job:闇魔剣士
Level:31
HP :2550/2550
[スキル]
<突撃>Lv5
<闇火球>Lv3
<分裂>Lv1
<硬質化>Lv2
<泥人形>Lv1
<断罪>Lv1
[Exスキル]
<影渡り>Lv1
「おお、称号……Honorって項目が増えてるな。それに<影渡り>と……<泥人形>と<断罪>! これがズルドーガから手に入れたスキルか!」
早速試したいのがたくさん……! レベルも一気に二十近く上がってるし、やっぱ凄い魔素を得られたみたいだな!
八王というくらいだし、相当ため込んでたんだろう。
「さて、何かスキルのお試しでも――」
瞬間、後方から突き上げるような風が吹き荒れる。
「!?」
遅れて、一瞬にしてあたりが暗くなる。
まるで嵐の前のようだ。
「なんだ急に……雨でも降るのか?」
俺は立ち止まり、後ろを振り返る。
すると、その光景に俺は目を見開く。
後方は晴れていたのだ。
暗いのは自分が立っているところだけ。つまり、ここは何かの影になっているということだ。
つまり――俺の上を何か通ったのだ。
「まさか……!」
俺は跳ね上がるテンションを抑え、上空を見上げる。
『グオオオオオオオァァァァ!!!』
瞬間、轟く咆哮。
左右に大きく広げられた翼。
後方に延びる長い尾。
その姿は、幾度となく液晶画面越しに見てきた。それが今、目の前に。
まさにファンタジーを体現するモンスター。
「ドラゴン……!!! 本物!」
赤い鱗を持ったドラゴンがそこにはいた。
かっけええええ!!
まじか、ドラゴンいるのか、このダンジョンに!
ドラゴンは羽を一度折りたたむとグンと力をため、そして次の一瞬で一気に加速し、前方へと飛び去って行く。
加速の勢いで発生した嵐のような風圧を耐え、俺は上がりっぱなしの口角を隠そうともせずにその姿を見送る。
「すげええええ!!」
速すぎる! あれも倒せるのか? 絶対戦いてえ!
八王の一体だったりするのか? それともただのボス系モンスターか!?
それに、あのドラゴンなら相当強い装備も作れるぞあれは……!
どんどん豆粒のように小さくなっていくドラゴンを見送っていると、その近くに建物が建っているのに気が付く。
その姿は、小さな城のようだった。
平原に城とは、何とも珍しい。
行かない手はない。
俺は、とりあえずその城を目指すことにした。




