VSズルドーガ⑨
ズルドーガを逃がすためにと湧き上がって来た泥のゾンビたちは、ユキと佐々木を除いたすべての探索者たちの足止めを成し遂げていた。
倒した傍から新たに湧き上がり、倒すと今度は地面に不安定な泥の足場を生成する。ここに引きずり込まれたころに見た光景だ。
その甲斐あって、ズルドーガは空中へと浮かび始めていた。
このまま飛び立たれれば、奴は闇の中へと消えていく。
これがゲームなら強制終了イベントなのだろうが、そんなものはない。ゲームでありゲームでないのがこの世界だ。
作戦を練っている暇はない。
もう一分一秒が惜しい。既にズルドーガは明かりの灯った範囲から間もなく出ようとしていた。そこを出れば、もう俺達に奴を追う術はない。
瞬間、佐々木は何もない空間に突如として黒い切れ目を生成すると、その中から禍々しい一太刀の刀を取り出す。
「――妖刀【星撃ち】」
「に、二本目の妖刀!? そんな、見つかってたんですか!?」
衝撃から思わず大声を発するユキを尻目に、佐々木は俺を見て言う。
「テンリミ。私を信じて、ただ真っすぐ奴へと向かえ。ムカつくが、トドメはお前にくれてやる」
その目には悔しさが満ちていたが、己の役割を正確に判断した結果なのだろう。
それが、アイアンナイツの副団長としての意地なのかもしれない。
「……わかった。ドロップは山分けだ」
「ふっそれはありがたい。……ユキ、私の周りに氷で防壁を張れ! 奴らに邪魔させるな!」
そう言って、佐々木はユキの返事を待たずに腰に妖刀を構え、ゆっくりと目を瞑る。
「え……あ、はい!」
「行け、テンリミ!」
俺はその言葉に、振り返らず一気に地面を蹴る。
佐々木が何を狙っているかはわからないが、この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。必ず倒す。
頭上では、既にズルドーガは約十メートル程の所を飛び始めていた。
もう羽根の動きも安定し始めており、そろそろ自由自在に空を飛び始めてもおかしくない。
改めてスキルの整理だ。<影渡り>は不意打ちにはもう使えない。
今使えるスキルは<闇火球>と<分裂>のみ。<突撃>と<硬質化>は若干リキャストが間に合わない。
闇火球で頭上のズルドーガを狙っても、恐らくノーダメージだろう。
使いどころとしては下の下……。もうスキルは頼れない……だったら、もう一度あの心臓の位置に、この剣を叩き込む。それしか方法はない。
そのためにはあいつを地面に引き摺り下ろすしかないけど……さあ、佐々木……何をする!?
「――このダンジョンには昔、星を撃ち落とした者が居たという。ダンジョン二十層、星見の塔の神殿で手に入れたこの刀は、彼の逸話を具現化している。使うと二分間の硬直とHPが強制的に1になる超絶デバフ付きの武具スキル……! お前に賭けるぞ、テンリミ!」
そう言って、佐々木は刀を腰の鞘から一気に引き抜く。
「――<流星塵>」




