第三フェーズ
空から落ちてくる探索者たちが、次々とこの世界へと着地していく。
その中に、良く聞きなれた声を聴く。
「ユキ……!」
ユキは地面に降りる直前、氷のスキルで滑り台のようなものを作り上げると、その斜面を滑り降りてくる。
「テンリミ、無事だったのね!」
ユキはそのまま俺の元へ駆け寄ってくると、おもむろに抱き着いてくる。
「!?」
「良かった……!」
絞り出すような声を出したユキは軽く背中をポンポンと叩く。
俺は慌ててすぐさまユキを引きはがす。
「そ、それより……この状況は?」
「これは……」
「私が説明しよう」
そういって前に出てきたのは、二本の刀を持つ金髪の女性だった。
「あんたは?」
「私は佐々木。そこの来栖の上司だ」
「来栖の……」
なるほど、確かに同じタイプの黒い鎧……。
「……アイアンナイツってことですか」
「正解」
来栖の救助、というところかな。
「来栖のこれは一体なんだ? 気絶しているのか?」
「これは、ズルドーガのスキルだよ。身体の感覚が奪われてる。俺の左腕も今は殆ど動かない」
俺の左腕も見て、佐々木はふむと興味深そうに納得する。
「初めて見るスキルだ、さすが八王。……私たちも上であれと戦っていてね」
佐々木が指をさす方を見ると、そこには白い羽毛に覆われた女型の魔物が立っていた。
まるでハーピィみたいだな。
空が開いてユキたちが降ってきてから、ズルドーガとその羽毛の生えた魔物の動きが沈静化していた。嵐の前の静けさだ。
「あれも八王……?」
「いや、片割れらしい。だが、あのマレザードに私が連れてきた探索者の半分がやられたよ」
「! それじゃあ、その人たちは……?」
「大丈夫だ。彼らはがゲートの外の神殿で目覚めたのを確認している。この一連の騒動の最初にあった、デッドラインを超えて死ぬというものは、どうやらズルドーガ側のものらしい」
一応は朗報か……。
だが、以前その真相は謎のままだ。早めに理解しなくては、後手に回ってしまう。
「それで、君の方はここでズルドーガと?」
「あぁ。なかなか厄介な相手だけど、何とか一撃を加えたんだ。そしたら急に空が開いて」
すると、佐々木は目を見開く。
「ズルドーガ相手に一撃を……? しかも、初心者たった一人で?」
「まあ……来栖も早々にダウンしちまったし……」
一応黒魔剣士ってジョブはついたけど……期間的にはまだ初心者か。
すると、佐々木はガシっと俺の手をつかむ。
「ようこそアイアンナイツへ! 君のような人材を求めていたのだよ、私たちは!」
「佐々木さん!?」
後ろの男は目を見開いて叫ぶ。
「八王相手に私たちが合流するまで戦い、見たところそれほど体力も削られていない……デュラルハンを退けたと聞いたときはどんな裏技を使ったのかと思ったが……どうやら君は天才というやつらしい! 実に良い! 共に戦おう!」
佐々木はわくわくとした目で俺を見る。
またこの流れか……! そういや来栖も俺に探索部隊に入れとか言ってたっけ。
これも情報のためか? いや、でもこの女の人の目は真剣……そういう裏があるようには見えないな。
それよりも、後ろのこの男の方が……。
「どうかな!?」
「普通に嫌ですけど」
「普通にときたか! あはは、面白い!」
「佐々木さん、今はそれどころじゃないですから!」
後ろに控える男性が困惑した顔で言う。
「わかっているさ馬場。まずは情報交換をしないと話が始まらないだろ」
佐々木の言うことももっともだが、確かに今こんなことをしている状況ではない。
こっちの戦力はユキとアイアンナイツ約十名……悪くはないが、ズルドーガがこれまでの戦い方どおりに戦ってくるとは思えない。
ここからが本番……だろうな。
すると、馬場は目を見開き、大声で叫ぶ。
「ふ、副団長……!! ズルドーガとマレドーザが接触します!!」
「動いたか。ズルドーガ……八王と私もとうとう戦えるのだな」
佐々木は頬を赤らめ、興奮で体を震わせる。
「とどめを刺すのは俺だけどな」
「君もその口か。望むところだ!」
瞬間、ドシン! と世界が揺れる。
ざわついていた空間は、一気に鎮まり変える。
「くるぞ……」
「第三フェーズ……!」
ズルドーガと羽毛の魔物はゆっくりと近づくと、ズルドーガの触手が発生していた胸の中へと吸い込まれていく。
そして、まばゆい光が世界を包む。
その圧に、俺は息をのむ。
何かとてつもないものが誕生しようとしていた。




