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影渡り

 行方不明者が出ている場所、八王、謎の空間――。


 不確定な要素が多すぎて、予測を立てるのが困難だ。


 消えた探索者。

 仮にズルドーガの仕業だとすると、それは果たしてどの攻撃なのか。

 

 それとも、全ての攻撃が? この空間に意味があるのか? あまりに未知数だ。


 本当はデッドラインが1つ消えて外で目覚め、他のところに行っているだけ? 


 なんらかの攻撃によりデッドラインが丸ごと消費され死んだ? 


 ピリオドのように強制リスポーンさせられ、リスキルされ続けたのだろうか。


 それとも、デッドラインを貫通する致命の攻撃があるのか……。


 どれも憶測に過ぎない。


 試しに戦えない来栖で攻撃を受けさせてもいいが、ゲームと違って死ぬとなれば、そんなこと出来るわけがない。


 全てが一発勝負。


 ただ、確定してることは一つだけある。


 それは、攻撃を受けないで勝てば良いということだ。可能かどうかは別として。


 死なない戦い。これが、ダンジョン。

 求めていた戦い――。


 そんなことを考えながらの、ぎりぎりの戦い。


 しかし、そんなことを思考する余裕もないほどの危機。


 迫りくる大剣。そこから放たれる紫炎の斬撃は、まさに今俺を裁こうと迫る。


 集中は最高潮に達し、死の帯は眼前を覆い尽くし、目の前を染め上げる。


 そんな中わずかに見えた希望――突如獲得したスキル。

 

 このスキルに望みを掛けるほかない。


「<影渡り>――――ッ!?」


 瞬間、俺の体が後方へと落ちる。

 それは、そう形容するほかない感覚だった。


 遅れて、ドプンと何かに沈む感覚。

 背中、肩、後頭部、そして顔。


 目の前が真っ暗になる。


 無音――。


 なんだ……ここはどこだ……?

 まさか、デッドラインを一気に破壊された……?


 そんな結末が脳裏を過ぎるが、それは違うと直感的にわかる。


 まるで夜の海に沈んでいるような、宙に浮いているような感覚。


 海の中……あるいは夜空。


 そして次の瞬間。

 俺の体は自分の意思に反して、急浮上する。


 一気に加速し、そして体が現実に飛び出す。


「――!!」


 目の前に広がる光景に、俺は息を呑む。

 薄暗い世界に等間隔で円形に並ぶ光。


 その中央には、大剣を振り下ろしたズルドーガの姿。


「――は?」


 あまりに衝撃的な光景に俺は言葉を漏らす。


 この状況を言葉で表すとしたら。


 俺は、突如ズルドーガの遥か頭上から()()()


 どう言うスキルだ……瞬間移動!? いや、それにしては何かおかしい……。


 だが、考えている暇はない。

 この隙を生かす……!


 ズルドーガは自分の放った紫炎で俺の居場所が見えていない。


 つまり、あそこからおれが消えたこともわかっていない。


 今なら――完全な不意打ちが可能だ。


 俺はすぐさま剣を構えると、それを真っすぐに下に向ける。


 重力での自由落下に、さらに<突撃>を加え、<硬質化>で力を逃さないように固定した全力の一撃。


 完全な集中状態。

 死の帯は見えない。ただ、重力に任せて奴を狙うだけだ。


 俺は静かに落下し、そしてその剣をズルドーガの背中に目掛けて叩きつける。


『ぐおおおおおおああああああぁぁぁぁぁ!!!』

「やっと聞けたぜ、その声がよ!!」

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