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【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
第五章:団結力

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079 最後の試用期間

 深夜――。


 グループチャットに不穏な空気が漂っていた。

 日中にあれだけ批判合戦を繰り広げていたのに今は大人しいのだ。


 別に何かがあったわけではない。

 外野の連中からは相変わらず醜い煽りが飛び交っている。

 だが、〈サイエンス〉や須藤ギルドの連中は静かだ。


 おそらく焦っているのだろう。

 今頃はどうにかクリアしようと取り組んでいる。

 いがみ合って失敗に終わるのが最もいけないことだ。


 では、どうやって帰還者を決めるのか。

 じゃんけんでも、あみだくじでも、必ず問題が起きる。


 それに、今から徘徊者戦だ。

 少なくとも終わるまでは話を進められないだろう。

 俺達以外のギルドがミッションを攻略するのは難しそうだ。


「風斗、何をしているの?」


 スマホを凝視していると麻衣が話しかけてきた。

 俺達は今回も城の外で迎え撃つ構えだ。


「アサルトライフルの説明を読み直していたんだ」


「説明? なんで?」


「クエストをクリアしても帰還できないからな。そうなると今後はクラス武器が重要になってくる」


 いくつかの武器の説明を見た後、改めてアサルトライフルの説明を表示した。


=======================================

【名前】アサルトライフル

【説明】

両手で扱う自動小銃。

攻撃力は低いが、連射性能が高くて扱いやすい。

装弾数:30発 / 再装填:3秒

=======================================


 短い説明文だが、やはり引っかかる。


「攻撃力って何だろうな」


「何その哲学的なセリフ」と笑う麻衣。


「だってさ、徘徊者に防御力なんてないだろ。ノーマルとエリート、どっちも攻撃が命中すれば即死だ。人間ならかすり傷で済むようなダメージでも死ぬ」


「でもボスは即死じゃないじゃん? そのことじゃない?」


「かもしれないが……」


「釈然としない?」


「うむ」


「まぁゼネラルタイプがもういないもんねー」


「それもあるけど、仮にゼネラルがいても気になっていると思う」


 とはいえ、何が引っかかるのか自分でも分からなかった。

 得も言えぬ違和感だけが燻っている。


「深く考えないほうがいっすよー!」


 燈花が背中を叩いてきた。


 俺は「そうだな」と答え、手首や足首を軽くストレッチ。

 それからクラス武器の設定を行い、草原の向こうにある暗闇を睨む。


 空気が変わった。

 時計を確認しなくても2時00分になったと分かる。


「グォオオオオオオオオオオオオ!」


 聞き飽きた咆哮とともに徘徊者の群れが迫ってきた。

 麻衣は「やるよー!」と、城壁に取り付けたライトの明るさを上げる。

 背後から照らされているので、目の前に自分達の大きな影が映っていた。


「パーティータームっすよー!」


 ガトリングガンを構える燈花。


「装弾数6発の爆風地獄をお見舞いしちゃうよん!」


 麻衣の武器はグレネードランチャー。


「美咲さん、何だか様になってますよ」


「そうですか?」


 美咲は両手でショットガンを持っている。


「よーし、風斗、撃ちまく……って、その武器何!?」


 麻衣が俺の武器に気づいて驚く。

 他のメンバーもこちらに目を向けた。


「やっぱり攻撃力の表記が気になるからコレにしてみた」


「だからって刀はないでしょ、刀は!」


 俺が選んだのは刀。

 ただの刀のはずだったが、刀身に炎を纏っていた。


=======================================

【名前】刀

【説明】

近接戦闘に使う一般的な武器。

攻撃力が非常に高く、リロードの必要がない。

=======================================


 刀の説明は簡素だ。

 見たままのことが書かれている。


「パワードスーツみたいな変わり種なら分かるけど、普通の近接武器を選ぶのなんて風斗くらいじゃないの」


「俺もそう思う」


 グループチャットを見る限り、クラス武器は銃火器の人気が高い。

 当然と言えば当然だ。


 刀が欲しけりゃ〈ショップ〉に数万で売っている。

 一方、銃を買うにはその10倍以上のポイントが必要だ。

 弾代だって馬鹿にならない。


 安く買った近接武器とクラス武器の銃を組み合わせて戦う。

 それが一般的な認識であり、俺もそれが正解だと思っていた。


 だが、試す。

 気になったまま別の武器を使って後悔したくないから。

 試用期間は今回がラストだ。


「俺は突っ込むから援護を頼むぜ」


「風斗に向かってぶっ放せばいいわけね? 了解!」


「おい」


「大丈夫っすよー! 私もガンガン風斗を撃つっすから!」


「何が大丈夫なんだ……」


「私の武器はショットガンなので近くまで一緒に行きます」


「サンキュー美咲」


「大丈夫、風斗は一人じゃない」


 由香里が自らのクラス武器に目を向ける。

 それは近接武器でもなければ銃火器でもなかった。

 かといってタブレットやノートパソコンでもない。


 ロボットだ。

 全長約2メートルの人型ロボ。

 正式名称は「自動戦闘ロボット」である。


「風斗を守って」


 由香里が命じると、ロボは無言で動き始めた。

 足の裏にローラーでも付いているのか滑るように進んでいる。

 スピードはマウンテンバイクを軽く漕いでいる時と同程度。


「頼もしいな、行くぜ! うおおおおおおおおおお!」


 俺はクラス武器の刀を左手で持って敵に突っ込む。

 走りながら腰に差している普通の刀も抜いた。

 左右の刀を持ち替え、クラス武器を右手で持つ。


「おらぁ!」


 デタラメな二刀流で敵を切り裂いていく。

 近くではロボもボクシングスタイルで暴れていた。


 クラス武器で斬った敵は炎上することなく即死する。

 どうやら刀身の炎はただの演出だったようだ。


 ドガァン! ドガァン!


 周囲に爆音が轟く。

 麻衣のグレネードが炸裂していた。


「ロボがいるとはいえ単機で突っ込むのは厳しいか」


「風斗君!」


 ショットガンの銃声が響く。

 俺の死角を突いた小賢しい徘徊者に、美咲が散弾をお見舞いした。


「助かったぜ美咲」


「いえいえ。仲間に命中しても大丈夫なので遠慮せず撃てますね」


「その仕様は大きいよな」


 話していると由香里の放った矢がすぐ近くの敵を射抜いた。

 この矢はクラス武器ではないため当たると普通に怪我をする。

 由香里の腕前がなければ普通の弓は扱えないだろう。


「前衛をロボに任せて後ろから弓で戦うとは賢いな」


 由香里は可能な限り愛用の弓で戦いたがっていた。

 クラス武器にロボを選んだのもそのためだ。

 現在の状況を見る限り、彼女の目論み通りになっている。


「――武器の使用感は分かったしこのくらいでいいだろう」


 今回も1時間ほど戦ったところで撤退準備に入る。

 俺の合図で美咲が下がり、代わりにタロウが前に出た。


「美咲は……無事に麻衣たちの場所まで下がれたな」


 あとは俺の撤退だけだ。


「タロウ、戻るぞ」


「ブゥ!」


 目の前で止まったタロウに跨がる。

 タロウはくるりと反転して城門に向かった。


 先に仲間たちが門をくぐり、少し遅れて俺とタロウも続く。

 門を閉めたら撤退完了だ。

 あとはロボと機械弓兵に任せておけばいい。


「これでクラス武器の試用期間は終わったわけだが――」


 俺はタロウから下りて皆と話す。


「――やっぱり使い勝手がいいのは銃だな」


「だねー」と頷く麻衣。


「ま、私は指揮棒(タクト)に決めてるっすけどねー」


「私はロボットがいい」


 燈花と由香里は本決定の意志を固めている。


「美咲はロッドか?」


「そうですね。悩みましたが、やはりいざという時に殴打できるので」


 銃が扱いやすいのは満場一致なのに誰も銃を選ばない。

 なんとも不思議な光景だった。


「あとは俺と麻衣か」


「風斗は何の武器にするか決めた?」


「刀だな。一人くらい近接用の武器を持った人間がほしい。保険みたいなものだ」


「それならロボでよくない? 試用期間が過ぎたら武器被りとかどうでもいいわけだし」


「ロボはいいよ、風斗」


「たしかにロボもそそられるが……やっぱり刀だな」


「気に入ってるねぇ! メラメラの刀身にそそられた?」


「ぶっちゃけそれもある」


 麻衣は笑い、それから言った。


「じゃあ私はアサルトライフルにしようかなぁ」


「ライフルか」


「ガトリングガンと迷ったんだけど、動き回れて隙がないから」


「なるほどな」


 ガトリングガンは装弾数がライフルの10倍以上ある。

 攻撃力も説明文を見る限りライフルよりも高い。

 一方で、リロードが遅くて重いのは大きな欠点だった。


「使う武器が決まったことだし、今日はもうお風呂に入ろー!」


「なら敵の監視はペットに委ねるか」


「了解!」


 ウシ君以外のペットを総動員して監視させる。

 これで城門を破られても問題ない。

 まだ徘徊者戦の途中だというのに、俺達は城に戻った。


「私達の裸が覗きたかったらいつでも来ていいからねー」


「待っているっすよ、風斗!」


「みんなでお風呂に入るの、楽しいよ」


「それでは風斗君、お先に失礼します」


 女性陣は大浴場に向かい、俺は自室でくつろぐ。

 この後は入浴を済ませて寝るだけだ。

 起きたらクラス武器の本決定と最終ミッションの投票がある。


 どちらも予定調和。

 クエストをクリアするのは俺達だけで、他のギルドは失敗する。

 帰還者に選ばれた麻衣は権利を行使せず俺達と過ごす。

 グループチャットでは俺達に文句を言う者が続出するだろう。

 日本に戻って家族に無事を伝えろ、と。

 しかし俺達は静観を貫く。

 2日もすれば落ち着いているだろう。

 深夜になれば徘徊者戦だ。

 初日は全員で参加して門の上で待機するだろう。

 そこで問題ないと判断したら、次の日からは2~3人で回す。


 そんな未来が待っている――そう、思っていた。

絢乃です。

大変お待たせいたしました。

書籍版の続報についてお知らせいたします!


■発売日

まず発売日ですが、【23年7月7日】に決定しました!

レーベルは以前にもお知らせした通り【PASH!文庫】からで、

担当イラストレーターは【天由】先生になります。


■書影

挿絵(By みてみん)

天由先生にとてもかっこよく仕上げていただきました!

武器のデザインも非常に細かくてすごく雰囲気がいいです!

これは購入してからのお楽しみになってしまいますが、

口絵や挿絵も素晴らしいクオリティになっています!


■特典SS

特典SSは三つ用意しています。

メロンブックス様、協力書店様、電子書籍特典となっています。

協力書店様の詳細については、後ほどPASHの公式サイトにて掲載される予定です。


ガラパゴ以来の書籍化であり、ガラパゴと同じ世界線で送る本作品。

書籍化に際してしっかり改稿しており、書き下ろしエピソードもあって、最高の出来に仕上がっています。

すごく丁寧に時間を掛けて取り組んでまいりましたので、もしお財布に余裕がございましたら買ってやっていただけると幸いです。


何卒よろしくお願いいたします。


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