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【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
第四章:平和と反乱

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057 初めての休日

 夕食後の雑談が終わると、俺は一人で自室に籠もった。

 風呂の順番待ちだ。

 早いもので平和ウィークの三日目が終わろうとしていた。


「やっぱり平和が一番だなぁ」


 ベッドの上で横になってスマホを弄る。

 一通りネットサーフィンを済ませたらグループチャットへ。


 チャットの雰囲気はわりと穏やかだ。

 話題の大半をどうでもいい恋愛トークが占めていた。

 転移後に誰々が交際を始めたやら、逆に破局したやら。


 そんな中、「おっ」と目を引く話題があった。


 この島の天気についてだ。

 転移してから今日に至るまで一度も雨が降っていない。

 10日連続で絶好の洗濯日和が続いていた。


 これは不思議なことだ。

 日本では1年間に雨の降る割合が約12%ある。

 つまり1年の内45日前後は雨ということ。

 そろそろ雨が降って然るべきなのだ。


 ただ、それは雨の日が均等に訪れる場合の話。

 実際には梅雨の時期みたいに雨天が続くこともある。

 故に10日連続で晴れが続いても異常ではない。

 不思議には思うが、本来であればただそれだけのこと。


 しかし、今回は事情が異なっていた。


 現在、日本全土が大雨に見舞われているのだ。

 北海道から沖縄まで漏れなく大雨で、一部では警報も出ている。


 どうしてこの島は晴れているのか。

 仮説という名の妄想が飛び交い、大いに盛り上がった。

 ――が、答えを知る術がないので盛り下がるのも早かった。


『パラレルワールドの駿河湾は晴れているのさ』


 誰かがこう言って話を締めくくった。


 全ての話題が終了すると束の間の静寂が訪れた。

 おそらく今、数十・数百人が次の話題を待っている。


 その静寂を破ったのは俺――ではなく教師の増田だ。

 学校で物理を教えている理科教師の男である。


『今後も雨が降らない可能性は大いに考えられるが、一方で突如として暴風雨に見舞われて何日も外で活動できない日が続く可能性もある。そういった事態に備えて行動しよう』


 もっともな意見だ。

 多くの生徒が「了解」などのスタンプで反応する。

 俺も真似してスタンプを送った。


「増田か……」


 俺と同じく増田も転移前まで目立たないタイプだった。

 チャットのプロフィールアイコンも初期状態のままだ。

 今までチャットとは縁が無かったのだろう。


 それが今では屈指の発言力を誇っている。

 検証班の集うギルド〈サイエンス〉のマスターだからだ。


 転移して間もない頃、検証班と呼ばれる集団はいくつかあった。

 しかし徘徊者戦などを理由に統廃合が繰り返され、今は〈サイエンス〉のみ。

 ギルドマスターの増田は有益な情報の発信源として信頼されていた。


 ただ、最近は検証班に関係なく増田の存在感が増している。

 〈サイエンス〉のメンバー数が他の追随を許さぬ多さに膨らんだからだ。

 現時点で150人以上が在籍しており、さらに増加の一途を辿っている。


 検証班の集合体だったのは過去の話。

 今では検証班も所属しているマンモスギルドだ。


「これだけ規模を急拡大しても平気なのは教師の強みか」


 人が人を呼ぶ状態の〈サイエンス〉。

 人気の理由は教師が統治することの安心感にあった。


 増田の他にも10人以上の教師が在籍しているのだ。

 それらの教師が生徒を束ねており、ルールを設けて秩序を維持している。

 在籍している生徒からは概ね好評だ。


 平和ウィークを機に〈サイエンス〉の在籍人数は急激に増えた。

 そう遠くない内に200人を突破すると見られている。

 距離の都合で合流できなかった連中が動いているからだ。

 その中には合同作戦で共に戦ったギルドも含まれている。


 第三グループのことだ。

 今のままだと五十嵐率いる〈スポ軍〉とのトラブルが尽きない。

 それを避けるため、今朝から〈サイエンス〉の拠点に向かっていた。


 思い切った判断だ。

 第三と〈サイエンス〉の拠点は直線距離ですら200km以上も離れている。

 彼らの拠点は島の東側にあるが、〈サイエンス〉は西側にあるのだ。


 連中は合流までに二度の野宿を挟むらしい。

 徘徊者や魔物が出ない平和ウィーク期間だからこその(あら)(わざ)だ。


「どこもかしこも規模を大きくしようと躍起になっているな」


 〈サイエンス〉以外にもギルドを合体する動きがあった。

 むしろそういう動きを見せているギルドのほうが多い。

 少人数なのに平然と過ごしているのは俺達くらいだ。


 平和ウィーク前にあったギルドの数は約20個。

 平和ウィーク後は半分の10個前後にまで減っていそうだ。


 ◇


 次の日。

 朝食後、麻衣が席に着いたまま「よーし!」と両手を上げた。


「今日も海で稼ぐぞー! がんがん稼ぐぞー! 目指せ大富豪!」


 燈花が「おー!」と続く。

 美咲と由香里もやる気に満ちている。

 だが、俺は「いや」と首を振った。


「今日は休みにしよう」


「休み!? 風斗、疲れているの? 薬でも飲む?」


「大丈夫だ」


「ならどうしてさ?」


「土曜日だからだ」


 今日までずっと働き詰めだった。

 度重なる強敵との戦い、脱出計画、海の漁……。

 平和ウィークの土日くらいは休んでもいいだろう。


「じゃあ今日は初の休日ってわけだ!?」


「念の為に言っておくと明日も休みだぞ」


「マジ!? 二日も休んで大丈夫!? 底引き網漁の同業者が増える前に稼ぎまくろうって話だったのに!」


「そうだけど休める間に休んでおきたい」


「まぁ風斗はちょっと働き過ぎだしねぇ。一人だけ休むってタイプでもないし、こういうタイミングじゃないと休まないかぁ」


「よく分かっているじゃないか、俺のこと」


「まぁねー! じゃ、今日は部屋に籠もってゲームするぞー!」


「いっすねー! 私も付き合うっす!」


「ならエーベックスやろうよ! 知ってる? 敵をバンバン撃つやつ!」


「いっすけど、それってネトゲなんじゃ? できるんすか?」


「遊ぶだけなら大丈夫! 通話(ボイチヤ)やチャットは使えないけどねん」


「おー! そうだったんすかー! 知らなかったっす!」


「ふっふっふ」


 麻衣と燈花は早くも今日の予定を決めていた。


「風斗君、私も今日はお料理を作らなくて大丈夫でしょうか?」


「もちろん。むしろ朝ご飯を作らせてすまなかった」


「いえいえ。では、私はジョーイとお散歩に行ってきます」


「ついでにタロウとコロクもお願いっすー!」


「お任せください」


 美咲はペットを連れて洞窟の外へ。

 麻衣と燈花は意気揚々と奥に消えていく。

 残ったのは俺と由香里、あとハヤブサのルーシーだけだ。


(俺も部屋に籠もって惰眠を貪るとするか)


 と思った時だ。

 由香里が俺の服を掴んできた。


「風斗は何する予定?」


「特に何も考えていないが」


「じゃ、じゃあ、その、い、一緒、一緒に……」


 由香里が何か言おうとしている。

 いつもより顔が赤い。


「一緒に何かしたいのか?」


 由香里は恥ずかしそうにコクコクと頷いた。

 人を誘うことに慣れていないのだろう。

 俺も同類だから気持ちは分かる。


「かまわないが何をしたいんだ?」


「…………」


 由香里はしばらく黙考し、それから言った。


「…………分からない」


 ズコーッと転けてしまう。


「一緒に何かしたいけど、何がしたいかは分からないのか!?」


「ごめん」


「謝る必要はないよ。じゃあ、何をするか一緒に考えようか」


「うん!」


 由香里の口角が上がった。

 ――が、沈黙が続くと再び下がり始めた。


(何も閃かねぇ)


 必死に考えるが、何をするべきか分からない。

 結局、俺は当たり障りのない無難な案を口にした。


「チャリでぶらっとするか?」


 言った後で「ろくろ回しのほうがマシだったか」と後悔。

 しかし、そんなことはなかった。


「する!」


 由香里が良い反応を示したのだ。

 眉間に皺を寄せられると思ったので驚いた。


「なら決定だ」


「うん!」


 俺達はマウンテンバイクをレンタルした。


「よし、ヘルメットは被ったな?」


「被っていない」


「じゃあヘルメットは被らなくてもいい! 出発だ!」

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