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【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
最終章:英雄

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198 一人の犠牲

 風斗たちは力の限り奮闘し、想定したよりも粘った。

 それでも、第一計画を成功させるには至らなかった。


「涼子、行くよ!」


「おうとも!」


 彩音が〈聖域Lv.3〉を発動。

 これにより、彩音、涼子、ジロウだけダメージが無効化される。

 同時に、彼女たちからクロードにダメージを与えることもできなくなった。


「栗原の仇だ! アチョー!」


 涼子が突っ込み、彩音とジロウが続く。


 彼女らの任務はクロードの足止めだ。

 ダメージを無効化できない手島たちが逃げ切るまでの時間稼ぎ。


「真、重村、今のうちに逃げるぞ!」


 手島、武藤、重村の三人がポータルに向かう。


「こしゃくな! 逃がすか!」


 クロードは涼子たちを掴み、思い切り投げ飛ばした。

 ダメージを与えずとも触れることはできる。

 その仕様を利用しての攻撃だ。


「チクショー!」


 投げられた涼子は愛理の作ったポータルに消えていく。

 彼女は自分の意志に反する形で船に戻された。

 それは彩音とジロウも同様だ。


 しかし、足止めとしての役目は十分に果たせていた。

 手島たち三名と愛理のポータルまでの距離は10メートルもない。

 クロードが動き出しても逃げ切れる。


「先に行くぞ!」


 まずは手島がポータルをくぐる。

 それに武藤と重村が続く――はずだった。


「あっ」


 ゴール寸前で重村が転倒。

 目元を覆う前髪のせいで、ちょっとした段差を見逃した。


「重村!」


 振り返る武藤。

 だが、彼は救いの手を差し伸べられなかった。

 すぐ傍までクロードが迫っていたからだ。


(ここで重村を助けると俺までやられる)


 瞬時に判断した武藤は、申し訳なさそうに言った。


「……すまん」


 重村は何も言わず、武藤の目を見てコクリと頷く。

 それを確認した武藤はポータルの向こうへ消えていった。


「うぐぁ……!」


 重村の顔が激痛で歪む。

 背中から刺された槍が腹を貫通している。


「お前は……前回の計画で手島祐治の駒として性欲の限りを尽くしていた男か」


 クロードは重村の髪を掴み、強引に持ち上げた。


「ガハッ!」


 重村がクロードの顔に向かって血を吐く。

 彼なりに少しでも時間を稼ごうとしていた。

 生き残ることはもう考えていない。


「満足か?」


 重村の血を顔に浴びたクロードがニヤリと笑う。

 対する重村は何も答えなかった。


「日本には『因果応報』という言葉がある。お前の哀れな末路は、まさにその言葉を体現していると言えるな」


 重村の脳裏に鳴動高校集団失踪事件の記憶が蘇る。

 彼は多くの生徒を支配し、女子に性的な奉仕を強制させていた。


「因果応報……だと……?」


「何か言ったか?」


 重村はニィと笑った。


「時効だろ……普通……」


 それが今際(いまわ)の言葉となった。

 重村の全身から力が抜け、ガクッと垂れ下がる。


「ん? 消えないぞ。……そうか、こいつには〈マーカー〉がついていないのだったな」


 クロードは目の前のポータルに重村を投げ込もうとした。

 だが、寸前のところで思いとどまり、その場に死体を捨てる。


「我らの糧になることもなければ、仲間のもとに帰ることもなく、人知れず隔絶された場所で終える人生か……実に虚しいものだ」


 愛理のポータルに向かって進むクロード。


「さて、終わらせるとしよう」


 そしてポータルを抜けて船内に行くはずだったが――。


「むっ」


 ――彼の体はポータルに拒まれた。

 船内に瞬間移動することはなく、そのままポータルの裏側に抜けてしまう。

 愛理がポータルに出入りできる対象からクロードを外していたのだ。


「ふん、猪口才な」


 クロードは「まぁいい」と呟き、自分のポータルで港に戻った。


 ★★★★★


 第一計画が失敗に終わったものの、俺たちの作戦は続いている。

 ――が、まずは予想外の状況について情報を共有する。

 重村の死だ。


「そうか、重村はダメだったか」


 武藤の報告を聞き、手島は残念そうにしていた。

 俺も申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「すまない手島さん、俺の作戦が悪かった」


「そんなことはない。重村の死はこちらの落ち度だ。奴の運動神経が悪いことは承知していたのだから、最初からポータルの傍で待機させておくべきだった。それより作戦を進めよう。彼の死を無駄にしないためにも」


 俺は「分かった」と頷いた。


「愛理、そっちは上手くいったか?」


「うん。でも気づかれるのは時間の問題」


「なら早く始めないとな」


「〈マーカー〉のない我々は離脱の準備を始めるか」と手島。


 ここから先は〈マーカー〉のついている俺たちの戦いだ。

 手島と武藤、麻衣と里奈には撤退の準備を進めてもらう。

 ……はずだった。


「祐治、すまないが俺も残っていいか?」


「「なんだと?」」


 俺と手島の声が被る。


「このまま逃げたら重村に合わせる顔がない」


「風斗、私も残るから!」


 今度は麻衣が言い出した。


「おいおい、それは話が違うだろ」


「でも残る! 私も皆と戦う! そう決めたから!」


「あのなぁ、〈マーカー〉がないってことはスキルが適用されないんだぞ? 俺たちが〈無敵〉や〈聖域〉を発動しても……」


「分かってるって! だから前には出ないで船から撃つよ! さっきみたいに!」


「漆田君、すまないが俺も残らせてもらうことにした」


 いよいよ手島まで心変わりをした。

 続けて、彼は理由を説明する。


「真の言う通り、ここで逃げたら重村に合わせる顔がない。それに――」


 手島は武藤を見て小さく笑った。


「――真が俺に意見をしたのは初めてだからな」


「……知らないぞ、どうなっても」


 俺にはそれしか言えなかった。

 他に何を言っても意味がないし、猶予も残されていない。


「分かっているさ。何があっても自己責任。死ぬとしても文句は言わん」


「え、じゃあ、離脱予定は私だけってこと!?」


 目をギョッとさせる里奈。


「おいおい里奈、お姉さんがいるのに見捨てるのかい?」


「そう言われちゃ戦うしかないよねー! まーくんも残るって言っているし!」


「いい心意気だ! よし里奈、この戦いが終わったらまーくんと結婚するのだ!」


「そーする!」


「露骨に死亡フラグを立てにいくでない!」


 ツッコミを入れる麻衣。

 涼子と里奈は声を上げて笑った。


「本当に状況が分かっているのか……」


 俺は苦笑いでため息をつく。


「漆田風斗、そろそろ始めよう」


 愛理の発言で全員の顔が引き締まる。


「彩音はスキルを使ったんだっけ?」


「うん、さっき〈聖域〉を発動した。この場合、誰かが〈無敵〉を使ったらどうなるの?」


「〈聖域〉が消えて、〈無敵〉が上書きされる」と愛理。


「なら私と涼子も戦闘に参加できるわね」


 俺は由香里に〈地図〉を見せてもらい、敵の数を確認する。

 案の定、クロードは港の周囲に徘徊者を固めていた。


 クロード本人も港に戻ってきている。

 それは窓から見えていた。


 奴は仁王立ちしていて動こうとしない。

 俺たちがどのような行動に打って出るのか確かめたいのだろう。

 勝利を確信しているからこその余裕であり、慢心であり、弱点である。


「彩音がスキルを使った以上、残すは美咲だけか」


 チラリと美咲を見る。

 酔い潰れて戦力にはならないが意識はある。


「美咲、〈無敵Lv.3〉を頼む」


「あいよー、〈無敵〉のレベル3を……ポチィっとぉ!」


 誰もが不安になる中、美咲はスキルの発動に成功。

 指示通り〈無敵Lv.3〉だ。


「無敵の効果時間……つまりこれからの3分が、正真正銘、最後のチャンスだ」


 俺は刀を掲げた。


「この戦いに終止符を打ちに行くぞ!」


「「「おおおー!」」」


 手島、麻衣、里奈、琴子が甲板に向かう。

 四人が銃撃を開始すると同時に、俺たちはスロープを下ろした。


「突撃だ!」


 酔い潰れた美咲を船内に残し、残りのメンバーでクロードに突っ込む。

 最後の戦いが始まった。

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