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【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
最終章:英雄

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163 因果応報

 ざっくり周辺を探索した結果、いくつかのことが分かった。


 まず、このフィールドは想像以上に日本を再現している。

 再現というよりコピーしたと言ったほうが正確なレベルだ。


 ただ、細かい点では違いがある。

 車のエンジンボタンもそうだが、他にも色々と発見した。

 例えば自販機は全て無料だし、ガソリンスタンドも無料で利用できる。


 あと、PCやスマホは漏れなくネットに接続されている。

 家電量販店の展示用ノートパソコンでもネットの閲覧が可能だ。

 ロックもされていない。


 その他は……食糧品全般の期限がない点も違っている。

 賞味期限や消費期限の記載がなかった。

 俺たちは「腐らない」と捉えたが、実際のところは不明だ。

 時間が経過すれば分かるだろう。


 ちなみに、コンビニやスーパーには食糧が山ほどあった。

 それらは開封して食べることが可能で、味は日本の物と遜色ない。

 ポイントがなくても餓死せずに済みそうだ。


「このバスってコンセントがいっぱいあって助かるっすね!」


「同感だ」


 探索を終えて、俺たちは学校に向かっていた。

 バスの車内では全員がスマホを充電器に繋げている。

 島の時と違ってバッテリーが減るようになったのだ。


 これは他のエネルギーも同じだ。

 車のガソリンも必要に応じて給油しなくてはならない。


「今はポイントの稼ぎ方が知りたいところですかな!?」


「グルチャを見る限り他も分かっていないみたいだな」


 現在、俺たちの所持ポイントは全員仲良く0ptだ。

 これでは〈ショップ〉で物を買うことができない。


 島であれば、色々な方法でポイントを稼げた。

 料理を作ったり、魚を釣ったり、搾乳したり。

 しかし、ここだとそういった行為では稼げなかった。


「敵を倒す以外にないんじゃねぇか、この様子だと」


 栗原が言った。

 一人だけポツンと最後部の隅に座っている。

 最も近い位置の涼子とすら縦に二席分の間隔があった。


「そうだろうな。思いつく限りの手段を試してダメだった以上、残っているのは討伐報酬くらいだ」


 現状だと、ポイントは以前ほど必要ではない。

 万能薬などの超常アイテムが売っていないし、必要な物は現地調達で済む。


 使うとすればペットのエサ代くらいだろう。

 それすらも最初の三日間は無料なので、今はまだ焦らなくていい。


(焦るとすれば、敵を倒してもポイントを稼げない時だな)


 できれば余裕でいたいので、金策の可能性を模索したいところだ。


 ◇


 18時00分。

 俺たちは学校の体育館に戻っていた。

 全員が武器を装備している。


 俺は木刀、美咲はフライパン、燈花と琴子は包丁だ。

 由香里は弓道部の部室にあった自身の弓がある。

 涼子はホームセンターで自作した槍だ。

 包丁の刃を柄から外し、長い木の棒とくっつけた代物。

 今のところ大人しい栗原はゴルフクラブの二刀流だ。


「集まってくれてありがとう」


 増田が壇上で話す。

 数時間前に比べて凜々しさが増していた。


「今後の作戦だが、校舎に籠城しようと思う」


 場がざわついた。

 だが、大半の人間は予想できていたようだ。

 校舎のすぐ外に机やテーブルが出されていたからだろう。

 それらをバリケードにするつもりなのは誰の目にも明らかだった。


「校舎には必要な設備が揃っている。非常用電源だってある」


 場が落ち着くと、増田が静かな口調で話し始めた。


「既に一ヶ月を優に凌げるだけの食糧は確保しておいた」


 多くの生徒が「すげー!」と声を上げる。


「皆が賛成してくれるなら、すぐにでも籠城に向けての本格的な準備を始めたいがどうだろう」


 本格的な準備とは、窓の補強やバリケードの設置などを指している。


「賛成でええええええええす!」


 大声で叫んだのは五十嵐だ。

 体育会系と思しき連中が「賛成! 賛成!」と声を合わせる。


「風斗はどう思うっすか?」


 燈花が小さな声で尋ねてきた。


「まぁ食糧が確保できているならいいんじゃないか」


 今回の戦いは二時間では終わらない。

 そう考えると、籠城は間違っていないように思える。


 籠城する拠点に校舎を選んだことも異論はない。

 ショッピングモールやホームセンターより優れているだろう。

 仮にバリケードを破られたとしても階段がボトルネックになる。

 そこで押し寄せる敵を仕留められるはずだ。


「では決まりということで。皆で協力して防衛力を高めていこう。指示は私や他の教員が行うので、それに従ってほしい」


 皆が一斉に「了解!」と元気よく答える。

 ちなみに、増田の言う「他の教員」に美咲は含まれていなかった。

 俺たちとずっと一緒にいるせいで忘れられていたようだ。


 ◇


 作業が終わり、晩ご飯の時間になった。


 今日の晩ご飯はカレーだ。

 美咲が複数の生徒と協力して作ったもの。


 食堂だけでは収まりきらないため、その周辺でも飲食が行われている。

 おかげで食堂付近は美味しそうなカレーの匂いで充満していた。


「やっぱり美咲の料理は最高だな!」


 食堂にあるテーブルの一つを囲う俺たち。


「今日は指示を出すばかりで殆ど参加できていませんが」


 謙遜しつつ、美咲はカレーを一口食べて満足気に頷いた。


「これが美咲ちゃんの料理……!」


 同じ卓を囲んでいる栗原は感動のあまり泣いていた。

 彼の美咲に対する想いは今でも変わらないようだ。


(コイツ……本当に改心したのか)


 今の栗原は中身が変わったかの如き穏やかさだ。

 それは俺たちに対する態度だけではない。


 例えば少し前、窓の補強をしている栗原に男子がぶつかってしまった。

 完全な相手側の前方不注意だ。

 これによって、栗原は金槌の狙いがずれて自分の指を叩いてしまった。


 以前の栗原なら反射的に男子の胸ぐらを掴んでいただろう。

 高確率で殴っていたと思うが、そうでなくても怒鳴っていたはず。

 ところが今回は「気をつけろよ」と優しく言うだけで終わった。


 しかも、この出来事は俺たちがいない時に起きたもの。

 俺が知ったのは他の生徒が会話しているのをたまたま耳にしたからだ。


(ずっと今のままでいてくれるなら、これほど頼もしい味方はいないが……)


 栗原をチラ見しつつカレーを食べていく。

 そんな時だ。


「学校から出て行け! この強姦魔!」


「なんであんたたちがいるの! 恥知らず!」


 複数の女子が何やら叫び出した。

 俺たちをはじめ、食堂にいる皆の視線がそこに集まる。


 女子に批難されていたのは複数の男子だ。

 〈アローテール〉や〈ハッカーズ〉のメンバーである。

 その中には吉岡も含まれていた。


「〈ハッカーズ〉はともかく〈アローテール〉の問題も知れ渡っているのか」


「そうみたいっすねー」


 アロテの問題は内密に処理された、と麻衣から聞いていた。

 実際、今に至るまでグループチャットで話題に上がったことはない。


「漆田、〈ハッカーズ〉や〈アローテール〉の問題って何だ?」


 栗原が尋ねてくる。

 何も知らないようで首を傾げていた。


「〈ハッカーズ〉の件も知らないのか?」


「あのあとからグループチャットは一度も見ていなかったからな」


「食事の場でしたい話でもないので細かい点を端折って言うと、〈ハッカーズ〉や〈アローテール〉の男子連中は女子を強姦していたんだ」


「なんだと!?」


「で、〈ハッカーズ〉の件は表沙汰になったんだけど、〈アローテール〉のほうは増田先生が水面下で解決した……はずだったんだが」


 理由は不明だが、今では知れ渡っているようだ。

 人の口に戸は立てられないということだろう。


「レイプ魔は出て行けー!」


 男子の誰かが叫んだ。

 それによって、場が「出て行け」コールに包まれる。


「メシだけもらったら出て行くって」


 吉岡たちはカレーを手にすると、逃げるように食堂をあとにした。


「あいつらも反省して変われるといいな」


 栗原はボソッと呟き、食事を再開した。


「あいつらが反省して変わっても、被害者の傷は癒えないけどな」


 俺は目の前のカレーを見ながら言った。

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