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【書籍化・コミカライズ】成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~  作者: 絢乃
最終章:英雄

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160/201

160 最終イベントのお知らせ

 12時の仕様変更に備えて、俺たちは城内の食堂で過ごしていた。

 早めの昼食を終え、美咲の作ったおつまみを頬張りながら。

 しかし、12時00分になった瞬間――。


「うお!?」


「なんすか急に!?」


 ――突然、俺たちは城の外に瞬間移動した。

 椅子やソファに座っていた時の姿勢で。

 そのせいで派手に尻餅をつき、女性陣のパンティーが見えてしまう。

 ゴリラのジロウが「ウホホ」と喜んでいた。

 俺も「フフ」と笑った。


 ピロロン♪


 驚いている間に通知が入った。

 全員でスマホを確認する。


 タイトルは『システム変更のお知らせ』と書いてあった。

 いつになく「です・ます調」と「だ・である調」が混在する文章だ。

 一言でまとめると「大半の仕様は廃止した」ということ。


 クラス武器、クラススキル、普通のスキルは容赦なく廃止された。

 毎朝のアンケートや選挙システムも廃止され、ギルドも解散した。


 所有物も大半が消えている。

 武器は自作・市販品に関係なく消滅し、船も消えた。

 拠点の所有権もなくなったため、目の前の城にはもう入れない。


 所有物で残っているのはペットと衣料品だけだ。

 ただ、衣料品に付与されていたオプションは消えている。

 なので――。


「暑いですかな!? 暑いですとも! 着ていられないですよ!」


 ――琴子のウインドブレーカーは季節違いのクソアウターと化した。


「何が消えたか確認するより、何が残っているか調べるほうが早いな」


「ですね……」と眉をひそめる美咲。


 ジョーイが悲しそうに「クゥン」と鳴いた。


「通知の文章を読む限りだと、残っているのは〈ショップ〉と〈ログ〉と〈地図〉だけっすかね?」


 燈花がスマホを見ながら言う。


「そうだと思うが……何故かコクーンが開けないぞ」


「私もっす!」


「お姉さんもだ!」


 システムの変更以降、コクーンが使えなくなっていた。

 厳密にはアイコンをタップすると立ち上がるのだが、一瞬で自動終了する。


「新しい仕様って〈地図〉に他の生存者の位置が表示されるだけ?」


 由香里が尋ねてくる。


「分かるのは位置だけで、名前は不明らしいですとも!」


 琴子が答えた。


「おおむね事前の予告通りだけど、それにしてもこの廃止ラッシュは……」


 何が何やら分からずに困惑する俺たち。

 グループチャットを確認すると、他所でも同様の混乱が広がっていた。


 ピロロン♪


 再び通知が入る。

 今度はイベントのお知らせだった。

 ただし、その内容は明らかにこれまでと違っていた。


 詳細を読むまでもなくタイトルで分かる。

 何せタイトルが『最終イベントのお知らせ』だったのだ。

 ルールも非常に分かりやすい。


『31日間、生き延びること』


 それだけだ。

 クリア=生存すると日本に帰還できる。

 ご丁寧に括弧書きで「生存者全員」と書いてあった。


「Xの謎実験が最終段階に入ろうとしているんだな」


 俺はイベントの詳細を確認した。


==============================

・13時00分になると、日本を模したフィールドに転移します。

・翌日の12時00分までは準備期間であり、平和にお過ごしいただけます。

・準備期間が終わると、徘徊者や魔物が出現します。

・これまでと違い、徘徊者や魔物は一定時間が経過しても消えません。

・今日を含めて31日間を生き延びればイベントクリアとなります。

==============================


 要するに時間無制限の徘徊者戦を31日間しろ、ということ。

 最初の1日が準備期間なので、実質的には30日間のサバイバル戦争だ。

 お知らせをスクロールしていくと、いくつかの補足説明があった。


==============================

・ペットは1人1匹のみとなります。

(複数の動物を所持している場合、最初に買った動物以外は消滅します)

・ペットのエサ代は最初の三日間のみ無料となっています。

・〈ショップ〉では地球に存在する物しか売っていません。

==============================


 ペットの所有数に制限があるとのこと。

 ウチの場合、タロウ、コロク、ジロウを所有する燈花が引っかかる。


「まずいっすよ! コロクとジロウが!」


 案の定、燈花は慌てふためいた。

 目に涙を浮かべて取り乱している。


「安心しろ、所有権を移せば問題ない」


「そうですとも! 私と涼子さんにお任せください!」


 琴子の言葉に、涼子が「うむ!」と頷く。


「そっか、そういう抜け道があったっすね!」


 燈花はすぐさま所有権を二人に移した。

 コロクは琴子の、ジロウは涼子のペットになる。

 とはいえ、どちらも燈花になついたままだ。

 所有者が変わってもペットの性格は変わらない。

 ウシ君もそうだった。


「あとは13時の転移まで待機するだけか」


 時刻は既に12時45分。

 15分もすれば日本を模したフィールドとやらに転移する。


「なんだかんだで帰還できそうっすよねー!」


 ペットの問題が解決してすっかり元気な燈花。


「TYPプロジェクトに失敗した時はどうなるかと思ったが、人生とは分からぬものだなぁ!」


 愉快げに言う涼子。

 由香里が「だね」と小さく笑った。


(果たしてそう上手くいくかな……)


 俺は楽観できずにいた。


「風斗君、どうかしましたか?」


 美咲が俺の様子に気づいた。

 顔を覗き込んでくる。


「いや、この最終イベント、かなり過酷だと思ってな」


「そうですか?」


「今まで2時間だった徘徊者戦が30日間続くんだぜ? しかも防壁がない」


「たしかに……」


「大丈夫っすよ! 敵なんてタロウが蹴散らすっす!」


 タロウが任せろとばかりに「ブゥ!」と鳴く。

 負けじとジロウが「ウホーッ!」と胸を叩いた。


「たしかにペットは強いが、休みなしで戦い続けるのは無理じゃないか」


「そこは隠れるとかなんとかするしかないっすよ!」


「まぁな」


 実際のところは始まってみないと分からない。

 だが、現状ではとてもクリアできる気がしなかった。


 そもそも、Xは今まで俺たちの帰還を妨げてきた。

 帰還の権利を報酬にした時だってそうだ。

 さもクリアすると全員が帰れるかのように見せかけてきた。

 帰還させたくないのは明らかだ。


 それが今になって急に心変わりなどするものだろうか。

 このイベントのために渋っていた、と考えることはできる。

 だが、俺にはそんな風に思えなかった。


 なによりも……。


(昨日、女ゼネラルが接触してきたのはどうしてだ?)


 あのゼネラルは、明らかにXの計画を阻止したがっている。

 次のイベントで帰還できるなら、謎スマホなど不要のはず。

 もっと別の……例えばイベントを快適に進められるチート武器のような物を渡したほうが確実だろう。


(次のイベントはクリアできない前提なんじゃないか?)


 そう考えると納得できた。


「おーい、風斗、大丈夫っすかー?」


 燈花の言葉でハッとする。


「大丈夫か漆田少年。眉間にすごいシワができていたぞ!」


「失礼、考え事をしていた」


「大丈夫、何があっても風斗は私が守るから」


「由香里ー、お姉さんも守ってくれぇ!」


「やだ」


「えええええええええ!」


 大袈裟に仰け反る涼子と、それを見てクスリと笑う由香里。


「さて、そろそろだな」


 時刻は12時59分。

 秒針が一定のリズムで進んでいき、一周を終える。


 俺たちの視界ががらりと変わった。

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