40話 正義の行軍
戦争回です。
民間人に対する略奪や、女性が乱暴されるなどの表現があります。
俺たちはベルジェ伯爵討伐のために、軍を南西に向けて歩みを進める。
その行軍速度は遅く、食料はあっという間に尽きた。
出発前に山ほど積んだ食料は10日ももたず、空の荷車ばかりとなる。
……そりゃそうだな。荷車の食料で遠征が賄えるはずがない……
俺は軍を維持する難しさを学んだ。
軍隊は食べなければ維持が出来ない。
当たり前だが食料の補給をする必要があるが、この補給と言うのが難しい。
軍隊の補給にはいくつか方法がある。
最も簡単なのは、軍の後ろにくっついてくる商人から購入することだ。
彼らはキャラバンを率いており、行軍中に仕入れも行っている。
割高ではあるが、それなりに補給が可能だ。
しかし、彼らにも限界はあり、これだけで賄うのは難しいだろう。
次は狩りだ。
行軍中に狩りを行う部隊を用意し、食料の補給を行う。
当然、森には所有者がおり良い顔はしないが、軍隊と事を構えたくないので不問にされることが多い。
狩りで補給は可能だが、やはり猟果は運任せの部分もあり不安定だ。
地元勢力に補給を頼むこともある。
これは軍隊の圧力で無理矢理に行うのだ。
当然、良い顔はされないが「軍隊に荒らされるよりはマシ」として応じる村や貴族は多い。
そして、何と言っても略奪。こいつが1番だ。
物資はたんまり、金目のものは商人に売り払い、女を犯し部隊の士気も上がる。
ただ、敵地以外で行うと煩いことも多いので注意は必要だ。
軍隊とは移動するだけで数が減る。
怪我や病気、士気の低下による脱走。
兵士が減る理由はいくらでもある。
そこで、士気を維持するために略奪は必要だ。
士気さえあれば、多少の怪我でも兵はついてくるのだ。
当然ルールは必要で、この軍では「俺の許可」が絶対に必要になっている。
この前は勝手に略奪したバカども3人を特大メイスで順番に公開処刑した。
それ以来、勝手な略奪を行うものはいなくなった……少なくとも表立っては。
軍隊は人間の集団だ。
多少の目こぼしはあってもいいし、役得だって必要だ。
だが、表立って命令を守らなければ処罰する。
これが出来なければ兵士にナメられる。
………………
「アルベール、物資と行程はどうだ?」
軍議の席で、俺は補佐役のアルベールに軍の状況を確認した。
「うむ、物資に余裕はあるが……この先の村が補給を断ってきたぞ。アンドレの報告だ」
アルベールがニタリと邪悪な笑みを浮かべる。
「それは……けしからん! 我らは王命で賊を討伐に向かう正義の軍だ、協力を拒むとは謀叛に等しい!」
年嵩の騎士が憤懣やる方なしといった風情で声を荒げた。
「そうだ! 賊に協力をしているに違いない!」
「うむ! 断固として許せぬ!」
次々と配下の騎士たちが同調し、軍議の雰囲気が決まる。
茶番である。戦争は金がかかるので騎士たちは略奪がしたい。
大義名分があれば堂々と略奪が出来るのだ。
この機を逃す筈がない。
「良し、諸君らの忠義は分かった。明日は諸君の兵で賊を討て」
「うむ、貴卿らの兵を損じるのは心苦しいが、ここは任せたぞ」
俺とアルベールが茶番に乗っかる。
村を略奪できるのだ。
兵の疲れなどは吹っ飛ぶし士気も上がる。
騎士たちの兵だけで略奪をする……つまり分け前が増えると言うことだ。
彼らは喜びを隠そうとせず、嬉し気に笑った。
「良し、村との交渉は不要! 賊を蹴散らしてこい!」
アルベールが騎士たちを焚き付け、彼らはあっという間に兵を率いて村を攻めた。
ここはナントカ男爵の領地だが、サッと奪って知らん顔すれば良いのだ。
他所の懐事情より、俺たちの軍の士気が大事さ。
………………
結論を言えば、村には大した備蓄は無かったそうだ。
単純に余裕が無かったから俺たちの補給を断らざるを得なかったらしい。
何か災害でもあったのだろう。
しかし、それでも騎士たちが何も獲らないはずが無い。
女を拐ってきて荷車に積んで順番に兵の相手をさせている。
金目のモノも無いなりに鉄の鍋や農具などを略奪し、商人に売っているようだ……二束三文で買い叩かれるのがオチだが、無いよりは断然にマシだ。
彼らは略奪のプロであり、手際のよさは俺も学ぶ点が多い。
部下の士気も十分に上がり、俺たちは意気揚々と軍を進めた。
「見事なものだ」
不意にアルベールが俺に話し掛けてきた。
アルベールは年季の入った鎖帷子と水滴型の兜を装備し、60近い年齢を全く感じさせない。
「遠征軍の維持は難しいものだが、見事に統率しておる……恐怖で縛り、利で操り、情で手懐ける。まるで老獪な将軍だな」
俺はドキリとした。
アルベールに年齢の事を言われたのかと思ったのだ。
俺は生きた年数を加算すれば50才になる。
「アルベールに褒められるなんて、雪が降るんじゃないか? はは」
俺はつい冗談で誤魔化した。
「ふん、お前は戦の申し子よ。幼い頃より不思議な技を使い、屈強な体を持ち、初陣で倍する敵を打ち破る……バリアンよ、良く聞け」
アルベールは声を低く落とした。
周りに聞かれたく無い話らしい。
「この軍でルドルフとロベールを討つか? お前がその気ならば手引きしてやるぞ」
アルベールはとんでもない事を口にした。
謀反である……次男である俺に謀反を起こせと囁いているのだ。
俺はアルベールをジッと見つめた。
……分からない、アルベールの真意は何だ?
アルベールの傷だらけの顔を穴が開くほど見つめた。
しかし、表情は読み取れない。
「ふん、冗談だ」
アルベールはプイとそっぽを向いた。
「あの丘を越えればベルジェ伯爵領となる……ベルジェ伯爵は大した武功は無いが、居城は堅城として名高く、ベルジェ伯に仕える騎士ギャレオは強敵だ」
「……うん、油断はできないな」
俺は蟠りを残したまま、アルベールの言葉に頷く。
「アルベール、先ずは騎士の小城を狙うぞ。ジャンとロロを呼ぼう」
俺たちは東からベルジェ伯爵領に侵入する。
本隊の合流地点は北だ。
基本的には南に向かって進めば良いだろう。
………………
俺たちの前には小城がある。
平地に造られた土塁と木柵の小城だ。
平地にぽつんと立つそれは、戦に備えた造りとは言い難い。
城を攻める前には名乗りを上げたり、攻める理由を言い交わしたりするそうだが、俺にそんな儀礼は不要だ。
喧嘩は先に殴り付けた方が有利に決まってる。
「良し、進め!」
俺は兵を率いて城門の前に歩を進める。
敵が疎らに矢や石を飛ばしてくるが数が足りていない。
兵を集めきれていないのだろう……俺たちの発見が遅れたようだ。
空堀は有るが跳ね橋などは無く、門の前には細い道が繋がっている。
ちなみに西洋の城のイメージで「落とし格子」があるが、あれは十字軍以後の話だ。
この時代のアモロス王国には無いらしい。
味方が門に取りつくが敵も必死だ。
内側から門を支えているのだろう。なかなか破ることが出来ない。
城攻めのための装備を用意していないので、城門に手間取るのは当たり前である。
こちらは精々が斧で門を殴りつける程度だ。
本来ならば破城槌……まあ、ただの丸太なんだけど。
コイツを用意して門をぶち破るのがオーソドックスだ。
しかし、今回はそんなものは必要無い。
城兵が俺たちに掛かりきりになるタイミングで、ジャンとロロが同胞団を率いて城壁を乗り越え決着がついた。
そもそも数が足りていない城兵は城壁をカバーしきれておらず、あっという間に城内は同胞団に蹂躙された。
城兵は降参し、城主一家は捕らえられ、俺の前に引き出される。
「貴様らっ! このような蛮行を……」
城主は必死で俺たちの非を鳴らすが、負け犬の遠吠えだ。
そもそも討伐令があったのに何故こんなに油断していたのか俺には理解できない。
……ひょっとして、討伐令が伝わってないのか?
俺は首を捻るが、俺にはコイツの事情は関係ない。
「アルベール、捕虜から身代金がとれるか?」
「いや、身代金などの交渉するならば本体との合流後だ。今回の任務では大勢を連れ歩くのは難しいだろうな」
アルベールが否定した。
ならば生かす意味は無い。
俺は無言で城主を撲殺した。
下手に生かして復讐の機会は与えたくない。
「キャアァァァァ!?」
「殺した? 殺したのか!?」
「神様! なぜこのような……」
城主の家族らは狂わんばかりに恐怖した。
普通、貴族は捕虜となっても身代金を取られて解放されるのが常だ。
そういうルールで互いを守っているのである。
「やめて! やめ」
特大メイスで殴ると、バチャと不思議な音がして年老いた貴婦人の上半身がひしゃげた。
俺は使えそうな若い女を数人ほど残し、残りは順番に撲殺する。
「悪魔っ!! 呪われろ!」
騒いでいるのは身分の高そうな若い女だ。
城主の娘だろうか?
キーキー騒いでいたが、俺が胸ぐらを掴んで顔面を2~3度張ると大人しくなった。
「こいつは俺のな」
俺が周りに告げると下卑た笑いが起きた。
女はうつ伏せになったまま、しくしくと泣いている。
「良し、捕らえた兵士は商人に奴隷として売れ、城は分捕り放題だ」
俺が告げると兵士たちは歓声を上げて略奪を始めた。
……たまにボーナスは必要さ。
俺は微笑ましい気持ちで部下を見守る。実に楽しそうだ。
「さて、俺も済ますか」
俺は城主の娘に近づく。
「何を……! 何をする気!?」
「分からねえほど、子供じゃ無いだろ?」
俺の言葉に、女が絶望した。





