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54.告白

こ、この………


そこに直りなさい、不届きものめ、フィリアが成敗してあげる……!!



私は勢いよく立ち上がる、


つもりでした。




「ふふっ」


悪寒というのでしょうか、ぞわりと、背中をなにか這い上がります。


這い上がる悪寒とともに上げた目線の先、思わず漏れたというように、ダンが鼻で笑った。



「これは失礼、メイヘル伯爵。あまりにも思わぬ言葉をいただいたものですから」


「ぶ、無礼ぞ!(ケモノ)に嗤われる私ではない!」


口調は丁寧でも、先ほどまでと打って変わったダンの態度にメイヘル伯爵は声を荒げた。


「獣、獣と、仰いますが、私はフィリア殿下の護衛役です。殿下の耳に入るとは思わないのですか」


「獣を獣と呼び、何が悪い。そなたこそ、満足に護衛を務められぬ身で何を言うか!」


「そのことと私のことは別の問題です」


「フィリア殿下がそなたの言葉を信じるとまで驕るか。先日、フィリア殿下のお命を狙う不届者がおったが、護衛役というそなたの手抜かりではないか!そなたを護衛とするは、殿下の恥だ!」


メイヘル伯爵は、ダンに言いたいことを叫び切ったようだ。

自慢の髭を震わせた怒号は、中庭中に響いたと思う。



……髭太郎め、その髭引っこ抜いてやる。



ゆらりと燃え上がる闘志。

私は茂みから立ち上がろうと足に力を入れた。



シュパンッ



その足元を走り抜ける鎌鼬(かまいたち)

はらり、と落ちる葉っぱ。



(はい……ダンさま、おとなしく隠れています……)


風の精霊が、ぐるぐると辺りを渦巻く。

嵐の前のような、嫌な風が頬を撫でる。



ダンが、ダンが怒っている!



髭太郎も、不穏な空気を感じたのか、辺りをキョロキョロと見渡す。

自身が護衛を連れ歩いていないことに、ようやく気づいたようだった。



「メイヘル伯爵?」


ダンが一言発すると、周りの木々からすぱっと葉が切れ落ちる。

ああ…感情が抑えきれていない、精霊達も怒っているわ。


「私の身上を卑下することは、許しませんが看過しましょう。ですが、私のことでフィリア殿下を侮辱することは、まかりならない」


すう、と深呼吸するダン


「フィリアが僕のことを信じるかって?驕りだって?あんたはフィリアの何を知っているんだ。僕は幼い頃からフィリアをずっと見てきた。僕は誰よりもフィリアを大切にしてきた自負がある。誰よりもだ。フィリアが頼るのはまず僕。自信をもって断言できるし、これからもフィリアの側にいるのは僕だ。フィリアがどう思うかなんてあんたよりよっぽどよく分かる。その髭切り落とされたくなきゃとっとと立ち去れ」


スパンッ、と一斉に辺りの木々から葉が切れ落ちた。

次はお前だ、と威嚇せんばかりにはらりはらりと落ちる葉。


風の精霊達も悪意をもって髭太郎の周辺に漂っているのがわかる。


「……髭だけで済むと思ってるの?」


ダンの小声に、髭太郎はひいっと息を飲む。


「…そなた、このようなことをしてただで済むと思うな!」


捨て台詞を吐くと足早に中庭から去っていく髭太郎。

その姿が見えなくなって、私はようやく茂みから出ていった。


「……ダン」


なんだかいつもより小さく見えるその背中に声をかける。

風の精霊達が、しゅるしゅると音を立てるように収束していくのがわかる。


「フィリア、姿は見られてないよね?」

振り返ったダンはいつもと同じ表情。黒と白のもふもふに覆われた分かりにくい表情。


「見られてないと思う。ダンのおかげよ」

「それならよかった」


分かりにくい表情だけど、ずっと見てきた私にはなんとなくわかるの。

怒ってる?悲しんでる?……いや、これは


「ダン?顔真っ赤」

「な!そ、そんなわけないだろう、何言っているんだ。顔色なんて見えないだろう、毛皮で覆われているんだから」

「うーん……なんとなく?」

「なんとなく、ね。全くフィリアは……見つかったら大ごとだったというのに」

「怒ったもの。まだ怒ってるわ」


髭太郎を思い出し、私はつい顔を顰める。

「あんなの…初めてじゃ、ないんだよ。それなのに、ついカッとしてしまった。僕もまだまだだね」

「初めてじゃないの⁈」

叫んだ私を、ダンは諌めるように渋い顔をした。


「そりゃ、僕みたいなみなしごが突然宮廷にいるんだから、やり口はそれぞれとしても色々あったさ。だから今日も流すつもりだったんだけど」

「でも、ダン!あんなことを言わせっぱなしだなんて」


生まれや種族を嘲笑うだなんて、してはいけないことだわ。

そんなことを我慢する理由なんてーーー


そこまで考えて、私は堪らずダンに抱きついた。

「私………」

そんなの、私がいたからに決まってる!


「フィリア、僕だっていつまでも言わせるつもりはないよ。ただ時機を図っていただけ。今日は、つい熱くなってしまったけどね」

ダンは、顔を伏せてしがみつく私の背中を、ぽんぽんとあやすように叩く。

ま、メイヘル伯爵は表立って言ってくるような人間ではないから、大丈夫かな、と呟きながら。


「ダン………私……」

「ん?」

「私も、知ってるから。ダンが誰よりももふもふしてるって、知ってるから」

「……ん?」

「私だって、ずっと見てきたんだからー!!」


大声で叫ぶと、私はダンを置いて走り出した。

ダンのもふもふの偉大さを、人々に知らしめられなかった私はなんて阿呆なの!!


「…え、あ、こら!フィリアの馬鹿!」


思わぬ言葉に戸惑ったらしいダンが追いかけ始めた頃には、私は中庭の大分奥まで進んでいました。



いつか、この中庭に、偉大なるもふもふ像を建ててやる!

ああでも銅像ならもふもふ感をどう伝えればいいのかしら⁈

タペストリーにしようかしら、なんにせよ、もふもふという言葉に隠された人々の汗と涙の努力の結晶を知らしめてやるんだから!



もふもふ、ばんざーーーーーーーい!!!!!!



ご無沙汰になりすみません…!

明日も更新しますのでよろしくお願いします(o^^o)



ちなみに、ダンくんが顔を真っ赤にしたのは、落ち着いて自分の発言を思い返してしまったからです。


(な、な、なんてことを…僕は言ってしまったんだ……!フィ、フィリアは妹だから!だから小さい頃からずっと見守ってきたのであって……ああもう!)


(私だって?!私だって、てなんだ。なんなんだよフィリア…!)


(動揺し過ぎてもふもふ言ってるぞフィリア!お、落ち着けフィリア…!)



今話、ダンくんの脳内は大忙しです。

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