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31.あかいみ はじけた

出血注意?




深い

深い

海の底へ


海水を吸ったドレスは、水中では海月(クラゲ)のようにふわふわと舞い美しい。

ただ腕を動かそうとすると、途端に重しと化して抵抗する力を奪っていく。


フィリアは、霞む意識の向こうで、きらきら光るものを見た。

海中へ届くわずかな光を受け、反射するその鱗肌を見て、美しいと思った。


そう、鱗肌。



「こ……こんなところで死ねないーーーー!!!!」



フィリア=ユーメル、海中での覚醒は大変力を使いました。




***



「げほっけほっ……」

岩の上に身体が押し上げられて、私は大きく咳き込みました。海中では、どういうわけか風の精霊に助けられ呼吸ができましたが、魂の叫びには酸素が足りなかったようです。

「はあ…はあ……助かった……」

ぐっしょり濡れたドレスを引きずり、私は体を起こします。どこか、小さな岩場に打ち上げられたのか、少し遠くに島が見えます。



「ど、どうやって助かったのかしら……」

海中で、素敵なものを見た気がしたんだけれど……

岩で支えながら、私はよろよろと立ち上がった。

辺りを見渡すと、周りを囲むのは、岩ばかり。波が押し寄せる岩場は、うっかり足元を滑らせるとまた海に落ちてしまいそうです。


「……ん?」

私は、見られているような、視線を感じて振り返りました。

なんだか、波のはね返りがおかしな岩があります。



そうっと近づいて岩陰を覗き込んだ私は、言葉にならない感動を叫びました。




「ああっ……!!はふわああっ……!!」



な、なんということでしょう!!

岩陰から私を見つめ返すつぶらな瞳がよっつ。怯えているのでしょうか、それでも興味津々にこちらを見つめています。


黒い髪、黒い瞳、幼子のつぶらな瞳が私を見ています。

ええ、顔だけ見れば人間の少年少女。

しかし!彼らの下肢は脚ではありません。今、岩場にあがって見えているその下肢は、魚の尾びれと全く同じ!いやもうその形からは鮫じゃない?!鮫でしょう!上半身へと続くところも鱗の肌と鱗のない肌が入り混じっています。


半魚人!

神様!半魚人とか本当ありがとうございますご馳走様です……!!



私は高鳴る心臓が辛くて膝から崩れ落ちました。

だ、だめだ……この感動は一人じゃ処理できない……!!



「だ、だあじょうぶ…?」

突然座り込んだ私を心配してか、ひとりが私に話しかけてきました。

この声は女の子ですかね、ああ半魚人の女の子とかもう夢の塊ですね。

「だ、だいじょうぶよ。ありがとう!」

「あーやと?」

「うん、ありがとう」


まだ幼いのでしょう、舌足らずに話しかけてくれる二人は、双子のようです。

女の子のほうが人間らしい部分が多いです。顔や手は人間と同じ肌色。髪は胸元まで伸びていて、美しい黒髪です。

もう一人の男の子は、鮫の部分が多いようです。大きな尾びれに、上半身まで鱗肌が続いています。小さいけれど背びれのようなものまで。顔は人間の少年のものですが、瞳は縦に長く、髪は短い黒髪です。あら、手も片方はヒレなのかしら。

男の子は話すのが苦手なのか、私としゃべるのは女の子だけです。


「あ、あーね、よんでたの。よんでたのよ?だから、レイアもテオもきたのよ?」


うんうん、レイアちゃんと、テオくんかー。

お姉さんは眼福だよー、可愛いねえ。


私がにこにこと頷いたことに安心したのか、レイアちゃんは続けます。

「そしたら、くらげさんだとおもったの。でも、テオがね、たすけなきゃって、いったのよ?」

5歳くらいかなあ、言葉はまだまだ舌足らずだけど、半魚人だからかなあ。

それにしても、この二人のおかげで私は海面にあがることができたのか。


「うん、レイアちゃんとテオくんのおかげで、助かりました。ありがとう!」

私は感謝の気持ちを伝えたくてにこっと笑った。

……ばしゃっ、とテオくんのヒレがはね上げた波にかかったのは、偶然としておこう。うん、悪気はないんだよね、きっと。そんな顔を真っ赤にして、睨まないでよう。


「テオ、てれてる?おねえさん、かわいいから?」

ああ!そんなレイアちゃんが可愛いよ!慰めてくれなくても、お姉さんはその可愛さだけで生きていけそう!


鼻から熱い情熱が出そうになって、私は慌てて顔を手で仰いだ。落ち着かないと、そう、そうだ、ママさんは助かったのかしら。船に戻らないと!


「私、フィリアっていうの。フィリアは、船に帰らないといけないわ。二人とも、助けてくれて本当にありがとう」

「ふね?おっきいの?」

「うん、大きな船で来たの。お父さまやお母さまが船にはいらっしゃるの」

「ふね、あっちにあるよ」

「本当⁈教えてちょうだい!」

レイアちゃんは、大きく頷くと、テオくんの手を握った。泳ぐときは一緒に泳ぐらしい。

私は、風の精霊の力を借りてドレスを乾かすと、少し浮いてみせた。うーん、長時間は保たないんだけれど、なんとか足場のあるところまでは保たせていきたい。


「ふぃり、いくよ」

少し掠れた声は、テオくんでしょうか。

獰猛な鮫を思わせる瞳を瞬かせて、海へと飛び込んでいきました。



ああ…!!

その背びれ、私どこまでもついていきます……!!






鼻からの出血注意!(ただし主人公に限る)



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