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23.楽しいユーメル一家

ほのぼのターン

ヴァーレでの生活はとても自由です。

ギルのお家は大変広く、私達はそこに住ませてもらっています。


シャンク族のおじいさんに会ってから、私は精霊を万遍なく修行することにしました。

火水風土、四大精霊全ての存在を意識して、どんな些細なことでも"お願い"でやってみることを繰り返した。

繰り返した結果、私はボネロ族の子ども達に便利屋としてこき使われているんですが!


じいやとダンには、一度だけ聞きました。

「どうして精霊を一種しか扱えないの?私はそんなに珍しいの?」

じいやは私の頭を撫でると、白い髭をふっさふさに揺らして答えてくれました。

「わしもダンも、生来精霊と付き合ってきました。フィリア様もこれからずっと精霊達と付き合っていくのでしょう。たくさんの精霊に愛されたこと、大変喜ばしいとわしは思いますぞ」

うーん、答えになっているような、いやなってない、よね…?

不満気に唇を尖らせた私を見て、ダンは呆れたように言った。

「僕は風の精霊の申し子で、大変なことばっかだったけど、悔やんだことはないよ。フィリアだって、今楽しんでるじゃない。珍しかろうが、そうでなかろうが、フィリアはフィリアだ。僕はそう思う」

(どんなフィリアでも僕は好きだよ、と続けるのじゃ)

(だから!フィリアは妹みたいなもんだって言ってるじゃないか!)


ん?ダンが黙ったあとのほうが突風が凄いんだけど、どうしたんだろう?

でも、良いこと言うなあ、ダン。

そうだよね、私は精霊達に愛されたこと、嬉しいし、楽しんでるし!

せっかくの今を楽しまないと!

空を飛ぶ練習も続けよう!

今なら飛行に失敗しても、ボネロ族の誰かが空中で捕まえてくれるし!

そのふぁさふぁさしたお胸で抱きとめてくれるのが狙いとか、まさかそんな!

「……フィリア、顔がにやけてる」

え!大丈夫だよ、ダン!

どんなに翼が気持ちよくても、あなたのもふもふには勝らないから!


「フィリア様、精霊術の練習に励むのは結構ですが、ほかにやらねばならんことを忘れておりませんか?」

「え…?なにかあったかしら?」

「奥様が部屋でお待ちですぞ。これからマナーの授業ではありませんでしたかの」

「……あ!」

約束を思い出して、そのときの話はお開きとなりました。




さて、ヴァーレでは使用人のいない、貴族としては慎ましい、前世庶民の私としてはいたって普通の生活でした。

ご飯はママさんが作ってくれて、皆でテーブルを囲んで食べる。

着替えももちろん自分です。

ダンだけでなく、私も身長が伸びているのですが、そんなときママさんはどこからか手に入れたの、可愛い布を取り出して新しいドレスを作り上げるのです。

ママさんが料理やお菓子作りだけでなく、裁縫もできると知ったときは驚きました。

ママさんは都の最新の流行を聞いて作ってくれます。

ヴァーレは外界から遮断されていますが、外界の情報は取りに行けるということです。

今の流行は、肩をふんわりと丸く膨らませて、腰にかけてのラインはまっすぐという形らしい。スカート部分は真横に膨らませているので、歩くときはぶつけないよう気を配らないといけない。

「お母さま!このドレス可愛いわ!」

「気に入ってくれて嬉しいわ。早速、そのドレスでマナーの授業をしましょう」

ママさんは私の淑女教育に手加減をしません。

いつの間にか、私が9歳になったら、ヴァーレを出るということはボネロ族の皆に知られていました。

9歳の誕生日には皆で盛大な宴を開いてくれるとのことで、ママさんはドレスと私のマナーを完成させるんだと意気込んでいます。

美しい女性のお願いはできるだけ叶えてあげたいものですね。

え?前世庶民の私に、美味しい料理を前に姿勢と目線に気を配ってとか無理じゃないですか?無理だよね?ね?


もうすぐ9歳。

ヴァーレを離れるのが寂しくないとは言わないけど、オアシスのお家に帰るのも楽しみだ!!





***




「なんだ、悔やんでいるのか」

「なに、人の不幸を笑ってるの」

ボネロ族の長、クライドはおかしな友人を見て笑ってしまった。

昔、初めてここに来た時は、傲岸不遜、遠慮の欠片もなかったが、家族を持ってこの男も変わったようだ。

「貴様がここまで子煩悩だとは思わなかったからな。大丈夫だろう、あの子は素直だが馬鹿ではない」

「君の子どもは素直で馬鹿だからね」

人の慰めを一言で切り捨てたことも、笑ってしまった。

「……子どもを馬鹿にされて、悔しくないの?」

「まあ、ギルは確かに素直で馬鹿で、可愛いものさ」

クライドは遅くにできた長子に甘い自覚はある。だからこそ、年下の若い友人が、子どもを守りたいことも理解している。

「私は、愛する妻と、可愛い子どもと、一緒に暮らしたいだけなんだ」

クライドは友人の手もとに空の杯があることに気づいた。どうしようもなく、飲みたくなったのだろう。

その杯に酒を注ぎ、自分もまた杯を用意する。

今日はこの男の愚痴に付き合ってやろうではないか。

「一緒に暮らせばいいさ」

「……情報は、聞いてるんでしょ」

オーヴェは不満げな表情をこちらに向けてくる。

「知ってるさ。だが、願うことは自由だ」

「フィリアは、可愛いから悪い虫がつかないか心配なんだ。あの子が連れてくる男は、私が認めない限りお付き合いさせないんだ」

「ほう」

「だから私がフィリアの側にいて、しっかり見ておくんだ。結婚も急がなくていい。むしろ結婚しなくてもいい」

「……ほう」

「フィリアはお父さまが大好きなんだ。フィリアは」


友人の妄想半分の悩みを聞き流しながら、クライドは考えた。


娘を持つ男親の苦労は計り知れない。

息子で良かった、と。






じいやは愛弟子のダンくんが可愛くて、ついお節介をしてはダンくんにあしらわれています。

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