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17.SideS 喧嘩するほど

サイドストーリーです。

カン、カン、カ、カン


青空に甲高い音が響く。


細くてもしなる素材の木を用いて作られたのは、稽古用の長剣と長槍。


響く音は、その2つが打ち合う音。



「よっ、と、と」

長槍を使うアランは、軽く声を出しながら定められた型をなぞっていた。


突き、払い、打ち、引いて払い


対するジャンは、その型に沿って長剣で受けていた。

こちらは一声も発せず淡々と動く。


「やっ!」

定められた型で動いたアランの長槍が、ジャンの長剣を払った。


「っ!…このばかぢから!」

ジャンはアランをぎっと睨んだ。

意地でも剣を手放すものか、と握り込んだせいで、手のひらがじんじん痺れている。

「かげんするなって言ったのは、そっちだろ!」

アランも負けじと睨み返す。


お決まりの文句と睨み合いを終えると、2人は稽古用の長槍と長剣をそれぞれ庭の端に用意された台の上に置いた。

その辺に放っておくと、アランの父親に見つかったときうるさいのだ。



「あーあ、おれ、いっしょうけんめい打ってるのに、おまえぜんぶ受け止めちゃうんだもんなあ」

「ぼくのほうが、すばやいんだ。あたりまえだろう」

型の稽古は速ければいいというものではない。きちんと狙いと動きを体に覚えこませることが必要なのだが、それでもなんだか悔しい。


「シンケンを持てば、ぼくのすばやさがゆうりだ。アランの負けだよ」

「なんだと!おまえの剣なんか、たたきおとしてやる!」


ぐるるる、と牙を見せて唸るアランに、シャーッと尻尾を立てて威嚇するジャン。

素手の喧嘩では決着がついたことはない。お互い、牙と爪の手入れは念入りにしていることを知っている。



2人は適当な地面に腰を降ろすと、寝転がって空をあおいだ。


「…おまえさあ、いまなんさい?」

「ぼくは、このあいだ、6歳になったところだ」

「だよなあ、はやく大きくなりたいなあ」


ジャンは横目でアランを見た。

生まれたときから一緒にいるので、何を考えているのか聞かずとも分かる。


「フィリア?」

「うん、フィーリに会いたい」


耳をぴくぴく、と動かしながらアランは呟く。

お隣の家に生まれたフィリアは、赤ん坊のころ、大好きだった女の子だ。


1歳の頃、誘拐事件があり、それ以来屋敷に引きこもって、外に出てこない。

会えなくなった当初は、泣いて喚いて、ジャンと2人で散々抗議したけれど、結局父さんは会えないの一点張りだった。




ある日、父さんが聞いてきたことをアランは覚えている。

「アランは、フィリア殿に会いたいか?」

「あいたい!ふぃーりにあいたい!」

「フィリア殿は、危険な目にあったばかりだ。外は怖くて、しばらく出てこない」

「ふぃーりのおうちに、いくもん!あうのは、どこでも、いいもん!」

アランは、いやいや、と首を振った。

ゆうかいされたのは、ぼくがわるいんだ、あやまらなきゃ!

その一心で、父親の足をぽかぽかと叩いた。


父さんは、少し考えたあと、アランを抱き上げ、しっかり目を合わせてきた。

「フィリア殿は、守られるべき存在だ。会いたいという想いだけでは、側にいられない」

「とうさんのばか!ふぃーりにあいたい!」

「なら、誰よりも強くなれ。フィリア殿を守れる男になるんだ」

「ふぃーりをまもれば、ふぃーりとあえる?」

「そうだそうだ、父さんよりも強くなるんだぞ」

その日から、アランは木の枝を使って"とっくん"を始めた。

ジャンも加わって、稽古を始めるのも間も無くのこと。




「…おれさ、父さんにまんまとだまされたよな」

「ぼくは、君にだまされたことになるのかな」

今じゃあ、稽古は楽しくて仕方ないというのが2人の認識だ。



「……ねえ、君はフィリアの顔、覚えてるの?」

「……ふわふわした金髪で、白くて、目がまん丸くて、ぎゅうってするとやわらかい」

「アランのお母さまー!アランがー!!」

「なんだよ!まちがってないだろ!」


立ち上がろうとするジャンを、アランは慌てて引き止めた。

母さんに知られたら、なんだかまずい気がする!


「ぼくは、顔覚えてるよ。どこで会っても、見つけられるんだから」

「おれだって!…顔はおぼえてないけど、分かるんだ。フィーリは、花の香りがするから」

「アランのお母さまー!アランがー!!!」

「なんだよ!うそじゃないぞ!」


本気で呼びに行こうとしたジャンを、アランは飛びかかって引き止めた。

これも、まずかった、のか…⁈






「アランの坊ちゃん!ちょうどよかった!親父さんはいるかい?」

いつの間にか取っ組み合いの喧嘩を始めた2人は、側に人が来ていたことに気づかなかった。

「父さん?父さんは今出ている。母さんもいないの?出かけたのかな、どうしたの?」

「リーヴェル国のカザン坊ちゃんから、手紙と荷物を預かってるんだ」

「兄さんから?わかった、ぼくがあずかるから、また父さんからお礼させてくれ。宿は取ってるの?」

時々見かける狸の獣人は、この辺りを旅して回る商人だ。手紙を預かってきてくれたなら、ちゃんとお礼をしないと、セベリアの名がすたる、らしい。

「ああ、そこの角っこの宿にいるから、よろしく伝えてくれ!」

せっかちな狸の獣人は、横に大きな体をぶるぶる震わして走り去っていった。


「カザンさんからの手紙と荷物?みたい!」

年の離れた兄は、生まれる前からリーヴェル国に留学している。

数えるほどしか会ったことないが、頻繁に手紙を送ってくれる。

このオアシスしか知らない、アランとジャンにとっては、文化の違うリーヴェル国の知らせは楽しい読み物なのだ。


勝手に開封したことが父さんにばれないように、と丁寧に荷物を開けると、綺麗な絵皿が出てきた。

リーヴェル国王に、はじめての子どもが生まれたという、記念の絵皿だそうだ。


「すごい……人間って、こんな絵を皿に書くんだから、器用だよなあ」

綺麗なものに目がないジャンは、国王一家が描かれた皿をしげしげと眺める。

「みろ!たのんでいた、りゅうのもけいだ!」

アランが以前頼んだ、リーヴェル国の絵本によく描かれる龍のおもちゃも出てきた。しかも二体。


アランとジャンは、一体ずつ持つと、手紙と荷物をそのままに遊び始めた。

新しいおもちゃに目がないのは、そこらの子どもと一緒である。




結局、帰ってきたアランの両親にその現場を見つかってしまい、2人仲良くハサンの拳骨を喰らうことになるのであった。



フィリアがヴァーレの丘で迷子になった、同じ日の出来事である。






久しぶりのアランくん、ジャンくんでした。

まさかのタイミングで挟んでしまいました。



獣人の子どもは、人間の子どもと比べ、身体能力の発達は早いけれど、精神年齢は若干幼いです。



○ボツネタ(NGシーン)

フィリアが13話で天高く打ち上がったのを2人がセベリア邸の庭から目撃して、ふぃーりだー!!!って騒ぐ、なんちゃって再会シーン

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