10.精霊の申し子
フィリア=ユーメル、5歳になりました。
1歳のとき起こった誘拐事件、楽しいピクニックから一転してしまったあの日から、私は諸般の事情により、お家に引きこもりしてました。
いえ、犯人はきっちり捕まえたのです。
アランパパの連れてきたセベリア家の護衛兵達が誘拐した男達を連行して、それはもう色々吐かせたらしい。
…知らなかったけれど、この地域には「砂嵐とセベリアには逆らうな」という言い回しがあるそうです。
ではどうして引きこもりしてたかというと、私が「精霊の申し子」だからだそうです。
私がアランパパに連れられて、家に帰ったあの日、パパさんとママさんはもう今すぐ倒れるんじゃないかってぐらい、青白い顔で待ってました。
思わず「ぱーぱ!まーま!だーじょぶ⁈」って駆け寄ったくらい。
その後、号泣するパパさんとママさんにぎゅうぎゅうに抱きしめられて、夜は三人で川の字ならぬ、お饅頭状態で眠りました。
……金髪美男美女に挟まれて眠るだなんて、うっかり天国に来たと思ったのは秘密です。
さて、パパさんは、私がいないところで、アランパパから事件のあらましを聞いたらしい。
ある時から、私に「精霊の申し子」について、教えてくれるようになりました。
1歳の子どもだからと誤魔化すことなく、きちんと説明してくれたパパさんは本当にイケメンです。
「いいかい、フィリア。精霊の申し子は決して珍しい訳ではないんだよ。そうだね、小さな町にひとりいるかいないか、ぐらいかな」
なんですと!
すっかり勇者気分でいた私は、その言葉で現実に引き戻されました。
もしかして、パパさんはポーズ練習している私を見てそう言ってくれたのでしょうか。
パパさんは、何回も何回も教えてくれました。
子どもだから分かるまで教えるように、覚えこませるように、そして自分に言い聞かせるように。
居間には揺り椅子があり、パパさんは私を膝に座らせながら話してくれます。時々絵本も読んでくれます。
「精霊の申し子は、精霊に好かれる存在のこと。精霊は世界を構成する存在。精霊に好かれるからといって、世界を自由にできるわけではないよ。…そうだね、フィリアは賢い子だから、これまで大泣きしたことはなかったね。フィリアが泣くと精霊も悲しい。フィリアが辛いと精霊も辛い。フィリアが泣いたり、辛くなったりしないよう、時々精霊がその力を見せてくれるだけなんだよ」
後から知った話では、精霊の申し子は、大体が生まれたときに、そうだとわかるらしい。
夜泣きして暖炉の火が燃え盛ったとか、転けて大泣きして風がびゅうびゅう吹くとか。
大きな害はないけど、不思議な現象が起きて判明するらしい。
私は生まれてからずっと前世の記憶があり、感情的に泣くことがほとんどなかったから、精霊が反応することがなかったと、そういうことらしいのです。
確かに転生してから、パパさんママさんにうはうはしたり、アランパパやアランママにハアハアしたり、目まぐるしいほど忙しく、泣くどころではなかったよ。
ここまで、パパさんが「精霊の申し子」について説明してくれたのは、大きな理由がある。
「フィリア、君が精霊に愛されたのは良いことだよ。でも、ごめんね。アランくんや、セベリア家の人たちには、もう少し大きくなるまで会えないんだ」
そう、私は1歳のあの日から、アランに会ってない。
ほとんど家から出ることなく、丸3年経ったのだ。
「お父さま、分かっていますわ。セベリア家の皆さまになにかあっては、お父さまが困りますもの。お父さまはリーヴェル国の特使ですから。お父さま、謝らないで。私、分かっていますから」
さみしいという気持ちは、また別のものだけれど。
アラン、大きくなっただろうなあ………
蜥蜴需要があるか不安でしたが、反応いただけて嬉しいです*
またもふもふターン始めます(o^^o)




