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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第二話 師匠と弟子
9/30

ロックはジンの課題の話を、一旦置いておいて、先程の来客の事を聞いた。

「なぁミド……さっきのタキシード野郎は何者だ?」

ミドは苦笑いして言った。

「師匠を勧誘しようとしている方です」

「ジンを……」

「はい……何でも交易会社の方らしく……優秀な技術屋である師匠を雇いたいそうです」

ロックは腕組みをした。

「まぁ……アイツの技術力は誰でも欲しいだろからなぁ……。軍を辞めた今なら引く手あまたか……」

「でも師匠は聞く耳を持たなかったようです……」

ロックは笑った。

「ハハッ……そりゃそうだ。アイツがサラリーマンってガラかよっ……。そんでオメェの所に来て、ジンを説得してくれってか?」

ミドは苦笑いした。

「はい……。でも師匠は、僕の声にも耳を貸しませんから……」

ロックはジンの話に戻した。

「で……その師匠からの課題に、ほんとに心当たりはないのか?」

「無いことはないんですが……」

ロックは目を見開いた。

「あんのか?」

ミドは煮え切らない表情で言った。

「多分あれだと思います。ついてきて下さい……」

ミドはロックを連れて、工場の奥に向かった。工場の奥にはミドの机らしき物があり、机の上は図面やらなんやらで、とっ散らかっていた。

ミドは机の引き出しを開けて、一枚のディスクを取り出した。

ロックはそれを見て言った。

「何だそりゃ?」

「飛空挺のシステムプログラムです……」

ロックは難しそうな表情をした。

「何だそりゃ?」

「簡単に言えば、これがないと飛空挺は飛ばないんです」

「大事なもんじゃねぇか……。それが課題で……未完成なのか?」

ミドは首を横に振った。

「完成しています……」

ロックは再び目を丸くした。

「じゃあクリアじゃんか……」

ミドは渋い表情をしている。

ロックは言った。

「何か問題があるのか?」

「怖いんです……」

「何が?」

「このディスクに……人の命を預けるのが……」

ミドは暗い表情だ。

ロックは怪訝な表情をした。

「人の命を?どういう意味だ?」

「このディスクで飛空挺を起動させて……もし墜ちたら……。そう思うと、怖いんです」

ミドの自信の無さそうな様子に、ロックは言った。

「ジンが俺をここによこした理由が……わかったぜ……」

ロックはミドに言った。

「あそこにある船……俺は専門家じゃねぇけど、凄ぇってのはわかる……」

いきなりのロックの言葉に、ミドはキョトンとした。

ロックは言った。

「オメェがジンの教えを受けて……そしてそれを再現するのに、凄ぇ努力したってのが……あの造りかけの船から伝わってくるよ」

そう言うとロックは、ミドの手にあるディスクを、奪い取った。

ミドは驚いた様子で言った。

「なっ、何をっ!?」

ロックはニヤリとした。

「俺の命を……お前の技術力に預けてやるよ」

ロックは自分の命をミドに預けると、確かに言った。ミドは理解できないと言った様子で、ロックを見た。

ロックは言った。

「オメェを信じて言ってんだ……。だからよぉ、自信を持ちな……」

ミドは目を見開いた。

(この人は何を言っているんだ?会ったばかりの、この僕を信じて……命を預けるなんて……)

ミドはロックの目をじっくり見た。ロックの目は何かを見据えるような……迷いのない目だ。

(師匠と同じ目……。そうか師匠を信じているから……こんな僕でも信じれるんだ……)

そう思いながらミドは軽く笑った。

「ハハッ……凄いですね……あの時代を生きた人達は……」

笑ったミドを見て、ロックも軽く笑った。

「へっ……その表情(かお)だ……。それじゃあ、御師匠様に卒業証書でも、貰いに行くか……」

「はいっ!」

ミドの返事には力がこもっていた。



……夕刻…ジンの研究所……


エリスとジンは休憩を予て、コテージでお茶をしていた。

外は日が落ちかけていて、薄暗くなってきた。

そんな外の様子を、窓から確認したエリスは、苦笑いした。

「はは……ヤッパ待っててよかった……」

ジンが言った。

「この様子だと……戻って来るのは今晩か、明日の朝だな……」

「でも別に焦る必要はないでしょ?」

エリスがそう言うと、ジンは感慨深い表情をした。

「それはどうだろうか……」

エリスはキョトンとした。

「えっ?」

するとその時だった。玄関の鐘の音がコテージに響いた。


カランカラン……カランカラン……。


エリスは自然と玄関に視線を送った。

「誰?お客さん?……わたし出てくる」

そう言うとエリスは玄関に行き、入口の扉をゆっくり開けた。

ドアを開けると、そこには漆黒のスーツを身に纏った、一人の男が立っていた。

エリスはその男の顔を見た。

男はエリスに冷たい視線を送った。

エリスは瞬時に反応した。

(ヤバイっ!!)

エリスはそう思ったと同時に、大きく後ろへ二歩、三歩、四歩と跳んで離れた。

玄関に立っていたのは、アデルの軍人ガゼルだった。

ジンはガゼルを確認すると、うすら笑みを浮かべた。

「これはまた……珍しい客人だ……」

ガゼルはジンを見ると、ニヤリとした。

「久しぶりだな……ジン……」

ガゼルの悪どい面構えに、エリスの背筋は凍りついた。

「なっ、何?ジン博士……知り合い?」

ガゼルはエリスを見て言った。

「何だその女は?関係者か?」

ジンはガゼルに言った。

「元『アデル十傑』のガゼル殿が……こんな辺鄙な所に、何用かな?」

エリスはジンを見た。

(アデル十傑?)

ジンは言った。

「まどろっこしいのは嫌いでな……。単刀直入に言う。ジン・マクベス……国家転覆の嫌疑により、アデルの名の元……貴様を拘束する」

エリスは目を見開いた。

「こっ、国家転覆っ!?ジン博士が?」

ガゼルは怪訝な表情をした。

「何だ……知らねぇのか?まぁいい……女、お前も一緒に来てもらう……」

エリス絶句した……。今日知り合ったばかりのジンと、一緒にいたために、国家転覆の疑いがかけられたのだ。

しかしジンは動じることなく言った。

「濡れ衣だ……と、言っても無駄か……」

ガゼルはニヤリとした。

「よくわかってるじゃねぇか……。まぁ抵抗してもいいんだぜ……」

ガゼルは懐から、黒光りしたトンファーを二本取りだし、二人に向けた。

ジンは言った。

「まさか……一騎当千の力を持つと言われている貴殿と、真っ向からやり合うほど、私は愚かではないよ」

ジンの言うことはごもっともで、このガゼルという男のただならぬ雰囲気を、エリスも直感で感じていた。

(かといって……このまま拘束されるわけには……)

エリスがそうこう考えている間に、ガゼルは二人に一歩……また一歩と詰め寄ってくる。

そしてガゼルが、二人までの距離、数メールに近づいた時だった。


ヒュンッ……。


ガゼルの後頭部に目掛けて、何かが飛んできた。

ガゼルはトンファーでなんなくそれを弾くと、飛んできた物は、勢いよく壁に当たった。

エリスはそれを見て呟いた。

「石?……あっ……」

ガゼルに石を投げたのはロックだった。

エリスは思わずロックに叫んだ。

「ロックーッ!」

ガゼルの表情はピクリとなった。

「ロック……だとぉ……」

ロックの隣にはミドもいて、研究所のただならぬ雰囲気に、ミドはオドオドしている。

ロックはエリスの様子に、呆れた様子で言った。

「ほんとにトラブルが多いな……お前は……」

エリスはムッとした表情で言った。

「何でわたしのせいなのよっ!」

ロックの登場にガゼルは、不気味に笑い出した。

「ククククッ……アーハハハハッ……」

ガゼルの様子に、エリスもミドも不気味がっている。

ガゼルはロックの方を振り向いて言った。

「ハーネスト……。この任務は……アタリだぜ」

ロックはガゼルを睨んだ。

「ガゼル……」

二人の対峙に、研究所はただならぬ雰囲気に包まれた。


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