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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第八話 それぞれの想いと決着
28/30

ユイはとにかく走った……感情のまま……仲間の元へ……。

前に大バァが言った。

『ユイ……お前は隠密の天才だ。しかし隠密に身を身を堕とすな……。広く視野を持つのじゃ……』

当時は大バァの言っている意味がわからなかった。

『なに言ってんの?バァ……。この村で産まれたんだよ?道は一つでしょ?』

『ふぉふぉ……確かに矛盾しとるが……。その才能……隠密で埋もらすのは……惜しいのぉ』

『意味わかんないよ……』

『隠密に囚われずに……道を探すのも一つじゃなぁ……』


大バァが伝えたかった事……。


(今ならわかる気がする……)


隠密はその任務をこなすために、技を極める……。しかし大バァはその旧い村の体質を、変えたかったのかもしれない。

その旧い体質をユイやマキに叩き込んだのは、紛れもなく大バァだったが……。ユイの才能に可能性を感じたのだ……。

諦めていたもう一本の道を……。

その真意を全てユイが理解したのかは定かではないが……。

ユイはロックと共に戦い……それを肌で感じたのだ……理屈ではなく、直感で……。


一方のロックはバイクを真っ二つにした後、その場で座り込んでいる。

ゴール付近のギャラリーの歓声がここまで聞こえてきている。

ロック達とガンツ兄妹のバイクの後ろを走っていた、ミロとミカもバイクから降りて歓声を体で感じていた。

ロックはその歓声で状況を把握した。

「ふぅーっ……終わったみてぇだな……」

ロックは脇腹を手で抑えて安堵の表情だ。

するといつの間にやら海から上がったマリーダが、カストロに肩を貸してロックの前に現れた。

びしょ濡れになったマリーダと、顔面蒼白のカストロは、ロックを睨み付けている。

ロックは二人に言った。

「レースは終わったぜ……」

カストロは顔面蒼白のまま必死に悪態をついた。

「んなこたぁ、わかってる。バカがっ!」

ロックは渋い表情をした。

「だったらなんの用だよ?」

「俺達は……何でテメェに負けた?」

カストロのストレートな物言いに、ロックは少し戸惑った。

カストロは続けた。

「戦争が終わって、テメェには何もないはずだ。そんなテメェに何で俺達は負けた?テメェがただ強いだけじゃ……納得できねぇ……」

カストロの真剣な目を、ロックはじっと見据え、軽く笑った。

「へっ……そういう事か……」

カストロはロックを睨んだ。

「テメェ……何が可笑しい?」

ロックの表情は険しくなった。

「テメェは……大事なもんを……失った事があんのか?」

逆に質問をされたカストロは、その内容に言葉を失った。

その様子にロックはカストロ答を察した。

「ねぇみてぇだな……」

ロックは感慨深い表情でカストロに言った。

「俺はよぉ……一度失っちまった。だからこそ……負けられねぇんだ。それが俺とテメェらの差だよ」

ガンツ兄妹にミロとミカは、ロックの言葉に目を見開いた。

すると怪我人を収容する緊急車両が数台現れ、ぞろぞろと救急隊員がやって来た。

「怪我人の方はこちらにっ!」

救急隊員はそう言うと、タンカにカストロとミロを乗せた。

救急隊員の一人がロックの元にもやって来た。

「あなたもひどい怪我だ……横になって」

救急隊員がロックにタンカに乗るよう促すと、ロックは首を横に振った。

「俺はいいよ……」

救急隊員は驚いた様子で言った。

「何を言っているんですかっ!早く治療しないと……」

「待ってんだよ……。もうすぐ来る……」

ロックは救急隊員の言う事を聞かずに、座り込んだままだ。

すると、コースの策を乗り越えて、エリスが走ってやって来た。

「ほらな……来ただろ?」

ロックはそう言うと、刀を杖がわりにして立ち上がった。

エリスは泣きじゃくり、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、ロックに突っ込んだ。

エリスに突っ込まれ、やっと立ち上がったロックは、再びエリスと倒れた。

「痛て……テメェ……急に突っ込むんじゃ……」

「だってぇ……バカァ……アンタバカ過ぎるよぉ……」

エリスの言う事はいまいち理解できなかったが……ロックを心配している事はわかった。

ロックは軽く笑ってエリスの頭をポンと叩いた。

「勝ったぜ……」

「わかってるよぉ……」

すると二人に手を差し出す者がいた……。ユイだった。

ユイは走ってやって来たために、息を切らして苦笑いしている。

「ハァハァ……まったく何をやってんだよ?」

「へっ……やったな……」

ロックはそう言うと、ユイの手をガッチリ握って起き上がった。

三人の様子をタンカに乗って見ていたカストロは、ロックの言葉を理解した。

(そうか……守りたいだけじゃないんだな……。失ったからこそ……強いんだな……)

マリーダは感慨深い表情でカストロを見た。

「兄貴……」

「マリーダ……俺は、オヤジのためだけじゃなく……一家とオヤジも守れるくらい……強くなる……」

マリーダは涙を浮かべて頷いた。

こうしてバトルエアバイクレースは、ロックとユイの優勝で幕を閉じた。


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