名もない花
遠く離れた夏の日に
私の生命は枯れました
冷たい泉に身をゆだね
みなもの光に包まれて
時を刻んで、みんなは変わり
変わらないのは私だけ
気持ちは今も、あの日のままに
来ない明日を待っています
私はここに、ここにいます
けどこの声が、届くことはありません
わかっています、だって私
みんなと違う世界にいるのですから
だから今、懐かしい、吹く夏の風の中
名もない花を咲かせましょう
真っ白く、添えるよう、みんなのそばでそっと
最後のひとひら落ちるまで
日暮れになれば夕涼み
ヒグラシ鳴く音に耳澄ます
羽輝かせ舞うトンボ
過ぎ行く夏は、秋を呼ぶ
返る想いに、痛むは心
忘れようとも今も尚
進み続ける、憂き世の姿
人の心に流されて
みんなはどこに、どこに行くの?
手を伸ばしても、掴むことは出来ません
あの日の夏は、遠く遥か
輝き満ちた空の青さに映して
せめて今、愛おしい、あの夏の残像に
名もない花を咲かせましょう
ひっそりと、歌うよう、セピアの中に一輪
戻らぬ日々の代わりにと
そして今、新しい、この先の未来へと
名もない花を咲かせましょう
耳元で、囁くよう、一人ひとりのために
私の想い届かぬとも
(-simplex.269g.net-、2015年8月23日公開)
当時のメモ書きを見ると、完成したのは2013年7月。
そこから二年後になって、やっとブログに載せました。
実は完成したころ、家族が重い病気になっていて、薄々「死」を感じながらの日々でした。
なので、死んだ人の目線で書いたこの作品を載せるきになれなかったのだろうと思います。
家族を病気で亡くしたのは翌年の春。
そこからまた一年半近くが過ぎて、やっと公開しました。
改めて読み返すと、やっぱり寂しい内容ですが、自分なりには綺麗な物語みたいになったと思っています。




