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9:ヒロインは酒を調査する

 夜になって、ダンジョンに潜っていたメイダンが帰ってきた。

 食堂は賑わっている時間帯で、私もあたふたと働いている。


「お、お帰りなさい!」


 声をかけると、メイダンは気だるげに振り返った。白銀色の尻尾がファサッと揺れる。

 

「ああ」

「食事はどうする?」

「先に風呂に入って、仮眠をとる。店が空いてきた頃に降りる」

「レーナとアローに伝えておくね」

「それから、お前の今朝の……いや、なんでもない。あとで話す」

 

 挨拶代わりに片手を挙げ、階段を上っていくメイダン。銀髪がやや乱れている。

 ダンジョンの仕事は、ハードなのだろう。

 けれど、彼らのおかげで獣人は魔石を手にし、生活することができるのだ。

 

 メイダンを見送った私は、彼の件を双子に知らせて仕事に戻る。

 

 温かな木の壁に木の床、ひっきりなしに訪れる冒険者の客たち。

 まだまだ、これまでどおりの飲み物が優勢で、カクテルの注文は少ない。

 わけのわからないものを敬遠するのは、前世も今世も同じだ。

 

 カクテルに関しては、実物を見てもらわないことには理解されにくい上に、実物が注文される機会がない。うーん、悪循環。

 

 昼と同様、バタバタしていると時間が過ぎ、人が少なくなってきた。

 そろそろかなと階段を眺めると、着替えたメイダンが降りてくる。

 ラストオーダーが終わったので、レーナやアローも彼を出迎えた。

 

「エルシーから聞いたわ。あなたの晩ご飯は確保してあるわよ」

「ありがとう、レーナ。それより、こいつに話がある」

 

 メイダンは私を指さしながら言った。

 

「話とは?」

「今朝の飲み物だ。変なものを入れたか?」

「え、レモネードのこと? レモンジュースと砂糖と氷を使ったけど、何かあった?」

 

 材料が傷んでいたのだろうか。見た感じ、どれも新鮮だったのだが。

 

「いや、違う。いつもより格段に体の動きが速くなったというか。何か魔法を使ったのではないかと感じてな。色々検証したが、いつもと異なるのは朝に慣れない飲み物を飲んだことくらいなんだ」

「私、魔法は使えないよ? 学園での一部始終を見ているあなたなら、わかると思うけど」

「……だよな」


 一瞬で納得するメイダン。学園でのエルシーの成績って一体。

 

「考えられるのは、無意識に『他人の能力を向上させる補助魔法』を使っているということだが。レーナやアローは体に異常はないか? 昨日、こいつの作った飲み物を飲んでいただろう」

「そういえば、今日は体の調子がとてもよかったわ。全然疲れなかった」

「僕もだよ。重い荷物を重いと感じなかったり、レーナと同じで疲れなかったり」

 

 三人が一斉に私の方を向く。

 

「私、なにもしていないけど」

 

 まさかの罪状追加? 新生活が始まったところなのに、それはきつい。

 

「ともかく、お前の酒を調べる必要がある。今日ももらえるか」

「どんなものがいい?」

「今朝と一緒で、甘すぎなければなんでも」

「お酒の強さは?」

「強すぎなければ、こだわりはない」

 

 頷いた私は、お酒を用意し始める。

 双子もからも注文があったので並行した。

 今回は同じ酒で作って欲しいという要望だったので、全員ジン系で揃える。

 

 メイダンには、ジントニックを。

 レーナには、ジン・リッキーを。

 アローにはオレンジ・フィズを。

 

 ついでに、自分用にジン・バックを用意する。

 本当に変な効果があるのか、気になったのだ。

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