7:もふもふのお客さん
「メイダンって強いの?」
獣人でも進んでダンジョンへ潜るのは、自分の戦闘能力に自信のある者だけだという。
けれど、メイダンは見た目は細めできれいな顔だし、あまり戦えそうにない印象。
しかし、姉弟は揃って縦に首を振った。
「僕は、彼より強い獣人を見たことないよ」
「私もよ。彼は見た目が獣人そのものだけど、人間とのハーフだから魔法を使えるし」
「えっ……!?」
獣人の体に、人間の魔力。それって最強じゃない?
私みたいに魔法の勉強をさぼっていなければの話だけれど。
「さあさあ、店を開けるわよ。エルシーはドリンク作りと、私の接客の手伝いをお願い」
「わ、わかった! 頑張るね!」
「緊張しなくて大丈夫よ、常連さんが多いの。ダンジョン目当ての冒険者が集まるから、見た目は皆怖いけど、懐の大きい優しい人たちよ」
冒険者というのは、ダンジョンに潜って魔物を倒し、魔石を取ってくる人のことだ。
他に、街に出て悪さをする魔物を退治する人も冒険者と呼ぶ。
とりあえず、魔物相手の戦闘職は冒険者だ。
「お客さんには獣人も人間もいるけれど、この店は獣人が多めよ。といっても、人間差別なんてないから安心してね。とはいえ、珍しいから、色々聞かれるかもしれないわ」
彼女が言ったそばから、店のドアが開いた。
現れたのは、ガタイのいい獣人の冒険者二人組。
背の高い男性は頭に茶色の耳と鹿っぽい角が生えている。
背の低い男性は兎耳がついていた。
「あら、いらっしゃい!」
レーナが朗らかに挨拶し、私も彼女に倣う。
「い、いらっしゃいませ」
すると、男性二人が驚いた様子でこちらを凝視した。
「おい、新人だ」
「めっちゃ可愛い!! もしかして人間?」
二人の耳がピンと立っている。
そういえば……性格はともかく、エルシーの顔はとても可愛いかったっけ?
彼女は、それをいいことに、学園時代は多くの男性に声をかけまくっていた。
一時的に、ハーレムもできていた。あっけなく崩壊したけれど。
「人間だ、珍しい。耳と尻尾がないぞ」
「まじ? 今のアゼロックで人間を見ることは希だよね。シュルツの街にはいるけど、数が少ないし」
「毛嫌いしている獣人の街に、わざわざ来るような物好きは少数だろう。あいつらは、魔法の使えない俺等を見下しているんだ」
「……っと、お嬢さんに言っているわけじゃないよ? ここで働くくらいだもの、俺らに偏見はないでしょ?」
勢いよく話しかけられ、コクコクと首を縦に振る。
「それにしても、細いな。白くてひょろひょろで、すぐ折れてしまいそうだ。おい、ちゃんと食べているのか?」
「アゼロックに来るくらいだから、わけありなの?」
ぐいぐい迫る二人を、レーナが「こら! そこの鹿と兎!」と引き離してくれた。
「うちの新人を怖がらせないでよね! 今日が働き始めなのよ?」
「そうなのか、ラッキー! ねえねえ、今、彼氏いる?」
兎の獣人が声をかけてきた。
これは、ナンパ? 初めてされた。
前の魂は慣れているだろうけれど、前世で男性に縁のない生活を送っていた私は戸惑ってしまう。
「兎は手が早いからな。お嬢さん、気をつけろよ」
鹿の獣人が兎の獣人を牽制しつつ、私に手を伸ばす。
そんな二人の頭に向けて、背後から近づいたアローが両手に持ったお盆をたたきつけた。
獣人……荒っぽい……




