6:もふもふと買い出しに出かけます
翌朝はアローと買い物に行った。レーナは店の準備をするので、買い出し担当は彼になるのだそう。
レーナとアローの店はアゼロックの北側、シュルツの街にある。
北側といっても、アゼロック自体が南の国なので、気候は温暖で四季もある。
位置的には、セレーニ国の南に位置し、私が倒れた荒れ地に最も近い街だ。
地方の街といった感じで、どちらかというと田舎。
それでもある程度の賑わいを見せているのは、街のすぐ外にダンジョンが出現したから。
魔石目当ての冒険者が集い、宿屋や食堂は繁盛しているようだ。
近所には食品を扱う市場があり、朝から夕方まで営業している。
別の場所には、衣類や日用品を売る店もあった。
お酒の店や飲み物の店を中心に回ってもらい、私は様々な材料を買ってもらった。
ブランデーやテキーラ、ウイスキーに似たお酒を数種類買いそろえる。
別の種類のジュースやリキュール果物やシロップ類も、アローが積極的に探してくれた。
お店のためとはいえ、親切だ。
ダンジョンのおかげか、ものの流通も盛んなようだ。
アローはツンツンしているが、これが彼の素で私を憎んでいるわけではないらしい。
一緒に過ごしていて、そう気づいた。
ただ、初対面の人間に対して、警戒心が強い。
私のことはまだ信用していないみたいだけれど、だからといって意地悪はしない。
一緒に働く仲間だし、早く仲良くできるといいな。
「次は、あんたの日用品だね。あっちに服屋がある。いつまでもレーナと服を共有するわけにもいかないでしょ」
「うん、でも……私、無一文で」
「そのぶんは、働いて返してよ。給料から引いて置くから」
「ありがとう」
レーナがよく行くという、女性向けの店を教えてもらい、衣服はそこで揃えてもらった。靴も食堂で動きやすいものを購入する。
「あの、アロー。荷物は私が持つから……特に瓶類は重いでしょう?」
体が変わったからだろうか。今の私は瓶などの重い荷物も割と運べる。
「ひ弱な人間のくせに、何言ってるの。今朝から妙に力が湧いてくるし、これくらいの荷物なら問題ないよ」
店に戻ると、掃除を終えたレーナがエプロンを用意して出迎えてくれた。
「とりあえず、これを使ってね。同じ種類のエプロンを注文しているけど、まだ届いていないから。なんだか今日は、体調がいいのよね。ガッツリ働けそうだわ」
それから、仕事の基本的な流れを説明してもらう。
前世で接客業をしていてよかった。まったくの初心者よりは安心できる。
開店準備を手伝っていると、二階からメイダンが降りてきた。
「おはよう、メイダン。おそいわね!」
「寝ていたわけじゃない。今日は外の仕事だから、武器の手入れをしていたんだ」
「あら、ダンジョンに潜るのね。泊まり込み?」
「いや、今日は浅い階層だから夜には戻る。それより、食べるものをくれ。あと、冷えた酒」
「仕事前にお酒は駄目よ。エルシー、メイダンにノンアルコールの飲み物を作ってあげて」
驚いて返事をした私は、メイダンに尋ねる。
「好みはある?」
「甘すぎなければなんでもいい、変なものは入れるなよ」
「入れるわけないでしょ!!」
失礼な人だけれど、私の前の魂の信用がないので、こんな態度になってしまうのだろう。
とりあえず、昨日使った材料でレモネードを作る。
レモンジュースを砂糖と氷を入れたグラスに注いで軽く混ぜる。上に切ったレモンを乗せて完成。
メイダンは興味深そうにレモネードを眺めた。
「器用なもんだ。お前、こんな特技があったのか」
嫌がられるかと思ったが、メイダンは普通にレモネードを飲んでいる。
しかも、朝食を食べながらおかわりした。
レモネードを差し出しながら、私は彼に尋ねてみる。
「ダンジョンへ行くの?」
「ああ、こっちでの俺の仕事だ。腕の立つ奴を募集していた」
「私の監視は?」
「今日はレーナとアローに任せる。魔法も使えない人間の女なんて、獣人なら誰でも監視できる。逃げ出そうと思うなよ」
「逃げないよ、無一文なのに」
食事を終えたメイダンは、武器の大きな剣を持って店を出て行った。




