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15:別人男爵令嬢(メイダン視点)

 岩陰から出たメイダンは、地面に倒れる元男爵令嬢を見下ろす。

 淡い桃色の髪は薄汚れ、くすんだ灰色になっていた。

 

 追放の際、彼らには、最低限の食料と水を積んだ荷車が一つ支給されている。

 公爵令嬢からの、せめてもの慈悲だと聞いた。

 自分を陥れた相手に手を差し伸べるなんて、ずいぶんと余裕がある。

 

 この時期の荒れ地は暑い。

 日差しを遮るものの少ない地で、彼女は熱中症になっていた。

 水を全て奪われたのだから、対処しようがなかったのだ。

 とりあえず、メイダンは自分の持っていた水を彼女にかける。

 

「おい、起きろ」

 

 しかし、反応はない。

 仰向けにすると、琥珀色の瞳が一瞬自分に向けられた。

 だが、エルシーの目に宿る感情は、メイダンに助けを求めるものでも、獣人を忌避するものでもなく……

 ただ、いきなり水をかけられたのを怒っているだけだった。

 

 この期に及んで、そんなことを考えるなんて。

 エルシーはやはり、ただの阿呆である。国を揺るがす悪女というには、間抜けすぎた。

 ……と思ったら、彼女の意識が遠のいていく。体に限界が来たようだ。


「人間とは、脆弱なものだ。仕方がない」


 気絶したエルシーを背負い、メイダンは一番近い隣国のアゼロックへと向かった。

 元男爵令嬢が、アゼロック側へ進んでいたのは偶然だろうが、メイダンにとっては都合が良かった。


 久々に従兄弟たちと再会し、彼らの元に厄介になる。

 シュルツの街での生活は快適で、セレーニへ帰る気が益々失せた。

 とりあえず、エルシーを監視しつつ、時に双子の従兄弟に任せつつ、メイダンはもともと憧れていた冒険者としての仕事を始めた。

 

 ただ、シュルツの街で暮らし始め、一つだけおかしな出来事があった。

 エルシーの性格が激変しているのだ。


 追放がよほどショックだったのか、以前のように誰彼構わず異性に声をかけることはなくなり、真面目に働き始めた。

 元のエルシーなら労働しようだなんて思わず、すぐ異性に寄生すべく動くだろう。

 そう思うと、まるで別人のようだ。

 

 しかも、どこで培ったのか、酒作りの技術を極めており、その酒には特殊な効果までついている。

 あれは、一体何者なのだろうか。

 魔力は感じないので、魔法を使っているわけではなさそうだが。

 

 なるべく関わらないでいようとしていたが、メイダンはエルシーが気になって仕方がなかった。

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