13:ヒロインの顔面偏差値
「ということは……もしかして」
私は、残ったスリー・ミラーズを見つめる。このお酒には、ブランデーとラムが入っている。
ブランデーのみ、ラムのみをつかったカクテルを作れば、それぞれの効果が確認できそうだ。
そして、二つの酒を合わせると、両方の効果が得られるのか、または別の効果になるのかも検証できる。
私は、新しいカクテルを作り、それとは別にそれぞれの酒を単体で準備する。
酒自体の効果か、カクテルにすることで効果が生まれるのかを調べるためだ。
レーナは「前は、店のお酒で体に変化が出た人はいなかったんだけど。私も、なんともなかったし」と言っているけれど。
ミント、ラム、ライムジュース、砂糖、ソーダでモヒートを。
ブランデーと、はちみつと生クリームで、ズーム・カクテルを作ってみる。
まだお酒を口にしていないディアさんにモヒートを渡し、自分は単体のお酒を試したあとで、ズーム・カクテルを飲んだ。
甘いものが欲しい気分だったのだ。
「うーん、単体では特に何も起こらないなぁ。カクテルは……うわっと!」
喋っていると、机に脚を引っかけて転んでしまった。
思い切り床に倒れてしまったのだけれど……
「あれ、痛くない。どこも怪我してないし」
私を見たメイダンが、「防御力の上昇か?」とつぶやく。
ディアさんは、「何も起こらねえ」と首を傾げている。
彼に昨日の状況を聞いたメイダンは「状態異常回復の効果かもな」と断じた。
ラムに関しては、検証の余地ありだ。
そして、リキュールも種類によって効果が異なるかもしれない。
メイダンや双子曰く、効き目は半日から一日のようだ。
「まだ使っていないお酒があるから、そっちは夜に試してみようか」
片付けをしながら、私は提案した。ディアさんとバニさんは、満足した様子で帰って行く。
「エルシーとメイダン、買い物行ってきて。小麦粉が足りないの」
レーナに言われて頷く。私は一人で外に出られないため(逃亡防止)、常に誰かがつくことになる。
そして、レーナが私に買い物を頼むのは、早くシュルツの街に慣れさせるのが目的だ。
他国の獣人だからだろうか、ここの双子は私に優しい。
「買い物なら僕が行くよ。わざわざ、メイダンが付き合わなくても」
私の片手をとって、アローが言った。
「あら、アロー。珍しいわね、面倒くさがりなのに」
「別に。新入りのおかげで、今日も力が無駄に湧いてくるから発散させたいだけ」
フイッとそっぽを向くアロー。そして、愕然とした表情で私を見るメイダン。
なんなの、一体……?
「アロー、今日は俺が出る。お前は、明日の仕込みなど忙しいだろう」
「買い物へ行く時間くらいあるけど」
「いいから、今日くらい休め。俺は自分の買い物もしたいんだ」
強引に私の反対の手を取るメイダン。
アローは、釈然としない表情で引き下がった。憧れのメイダンにそう言われては、従うしかないだろう。
双子に見送られながら、私は店をあとにした。
店から出た瞬間、メイダンは私の腕を振り払う。
なんなのだ、手を掴んだり放したり! 失礼だな!
「お前、アローには手を出すな」
「なんのこと?」
「とぼけるな。さっそく、あいつを骨抜きにしているじゃないか!」
「……身に覚えがないんだけど。アローは私に対して、基本的に塩対応だよ?」
「だったら、さっきのはなんだ! あのアローが、人間の女の手を取るなんてあり得ない!」
「そんなこと言われても」
ただ親切で、買い物についてきてくれようとした以外の意味なんてないと思う。
公爵令嬢サイドから、学園での私の暴走をずっと眺めていたわけだから、メイダンの気持ちはわかるけれど。
それにしても、彼は被害妄想が激しすぎる。
でも、荒れ地に倒れていた私を助けてくれたのも彼だ。
アゼロックに住みたいという、自分のもくろみもあったとはいえ、命の恩人に変わりない。
「いいから、買い物しなきゃ。市場は、確かこっちだよね」
レーナがくれたメモを見つつ、勝手に歩き出す。
メイダンはブツブツ文句を言いながらついてきた。今日は人が多く、市場周辺が混雑している。
「どうしたのかな? 昨日はもっと人が少なかったんだけど」
「わからんが、魔石を集める冒険者風の奴ばかりだ。ダンジョンで、何かあったのか?」
人の波に流されそうになる私の腕を、再度メイダンが掴んだ。
「わっ、ありがとう」
けれど、私を引き寄せるメイダンの力で体勢を崩し、彼の胸に倒れ込んでしまう。
「……っ!」
メイダンは、慌てて私を引き離した。彼の顔が赤い。
エルシーの顔面偏差値、本気でやばいかも。




