15. result 戦いの果て……新たな脅威を打ち破り、真の平穏を取り戻せ!編
本日は14、15話と更新しています・
14話がまだの方はそちらからどうぞ
渇いた風が吹く屋上。私は手すりに身を預けながら虚ろな眼で空を見上げていた。
既に日は落ち始めた夕刻。下校する生徒達や、未だ部活動に精を出す生徒達の声がするが、そんなもの右から左に流れていく。今はただ、あの広い空を見続けて居たかった。
「春華様」
不意に、声がかかる。目を向けなくても気配で分かる。美奈と理奈だろう。
「ここにおられましたか。その、何といいますか、事情は聴いております」
「そう……」
きっとあの現場を誰かが見ていたのだろう。今頃残っている生徒達には一斉に噂が広まっているに違いない。生徒会長の痴態も、そして綾宮春香が神山姫季に告白された事も。
「ふふ、ふふふふふふ……ダチだと思った相手がタチになった。笑え、笑いなさい…………どうしてこうなった」
万感の思いが籠ったその呻きに、二人がおずおずと答える。
「その、よくよく考えてみたらですが」
「我々は神山姫季の攻略フラグを確かに叩き折りました。ですがその際、その……」
「その?」
「春香様がいくつかのフラグを達成していたかと」
「………………ぁ」
入学式にヒロインと激突し、不良共から助け、オリエンテーションでは森の王を倒し、趣味話ではコスプレ姿を披露し、そしてあの調理実習の時、確かに私は言った。『美味しい』と。
「つまり……私が綾宮春華を攻略してしまったという事?」
「状況的には」
「そうにしか見えないですよね。あの様子を見ると」
「もう嫌だ……」
胸の奥からこみ上げてくるものに、私は顔を覆った。
何故、こんな事になったのだろうか。世界のISHIに抗ったからか? だが、抗わなければ待っていたのは破滅。だけどこの状況は……。
もう、全てを諦めてしまおうか。少なくとも破滅フラグは消えただろう。他でもない、ヒロインがレズビアンにスタイルチェンジしてしまったし、攻略キャラたちも軒並み全滅だ。氷帝もあの格好で走り回ったのだ。もはや正常ではあるまい。ならばもう今ある現実を受け止めて私も百合の世界に行きつくしか――
「春華様、これを」
不意に、理奈が私に何かを差し出した。それを見て私は眉を潜める。
それはどこにもである物だ。毎年春夏、甲子園で球児たちが熱戦を繰り広げる為に使う、ありふれたスポーツ用品。
「そしてこれを」
今度は美奈が私に箱を差し出した。それは小さな棒状の鉄の束。これもどこにでもある。ホームセンターに行けば誰でも手に入れられる、ありふれた道具。
「これは……?」
「必要だと思いましたので準備致しました」
「ここで諦めるなんて春華様らしくないですよ」
はっ、として視線を二人に向けると二人は笑顔で頷く。
「どんな相手にでも立ち向かうのが春華様です」
「そうですよ。相手がどんなに異常でもそれを上回る悪辣な手段と力で勝利するのが春華様です。折角、世界のISHIに打ち勝ったんです。ならば最後まで戦いましょう」
「理奈、美奈……」
二人の言葉に私の心が震える。
「春華様、私達はずっと春華様を見てきました。そして漸く気づいたのです。だからこそこの道具を準備いたしました」
「理奈……」
呆然とする私に理奈は微笑みを向ける。
「今までの言動、そして行動から私達姉妹はこう結論づけました。春華様、貴女の前世は……ヤンキーだったのではないですか?」
「…………正解よ」
そう、私の前世はヤンキーだった。今どき珍しい位バリバリのそれだ。だがヤンキーだってたまには甘ったるい世界に浸りたい。そうして手を出したのが乙女ゲーだったのだ。
幸い、ヤンキー時代に培った口調は綾宮春華としての人生の記憶のお蔭で修正されていたが、時たま感情が高ぶると表に出てしまっていた。
「ならば抗いましょうよ春華様。ヤンキーになったのも、最初は何かに抗いたかったからですよね? 周囲に同調せず、自分達の価値観を信じそれに倣う。そんなヤンキーだった春華様が、そして今まで戦い続けた春華様がここで諦めるなんて駄目ですよ」
「美奈……」
そうなのだろうか、いや、そうなのだ。ここまで抗い続けてきたのにここで諦めるなんて、それは――――――私らしくない。
「そうね、まだ、終わってないわよね」
世界のISHIには勝利した。だが私にはまだ戦うべき敵がいる。
その時だ。屋上の扉がバァッンと勢いよく開き、そこから可愛らしい少女――神山姫季が現れた。
「見つけたよ綾宮さん! さあ、私と一緒に捲るめく愛の世界に飛び立とう!」
「…………ふ」
あのヒロインの惨状も、きっと私が色々やった結果。ならばその後始末は私自身でつけよう。世界のISHIには勝利した。だからこそ、最後の敵にも全力で立ち向かおうではないか。
「理奈、美奈。それを」
二人が差し出していた物を私は受け取る。そして正面の神山姫季を見据えた。神山姫季も私の意思に気づいたのだろう。不敵な笑みを浮かべると大きく頷いた。
「成程、そうだよね、綾宮さんだもんね。つまりはこういいたいんだよね? 『私と付き合いたいのなら、力を示せ』って!」
「あの子も大分吹っ飛んでいるわね。これも私の業だというのなら、最後まで相手になってやるわ……」
私は覚悟を決めると二人から渡された物――理奈から渡されたバッドに美奈から渡された鉄釘を素手で叩き込んだ! そして生まれるのはヤンキーの神器にして前世で私が最も愛用した得物。その名は―――釘バッド。
懐かしい得物を手に、私は笑う。何が何でも抗ってやると。必ずや平穏無事な生活を手に入れてみせると。
「来なさい……いや、違う! 来やがれ神山姫季ィィィ! 千葉県五街道市の≪雷鬼≫とも呼ばれたこの私が相手になってやらぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は真の自由の為に、最後の戦いに身を投じる!
「喰らえぇぇぇぇ」
「ふふ、甘いよ綾宮さん! 今日この日の為に、私はムエタイとカポエラとカバディを極めてきたんだ!」
「なっ!? 春華様の釘バッドを足で受け止めた!? 化け物ですよあの女!?」
「以前彼女の脚には神が宿っていると言ったけど間違っていたわ。あれに宿っているのは――悪魔ね」
「くくくく、ふははははははは! こうなったらとことんやってやるわ神山姫季ィィィィ! 世界のISHIすら打ち破ったこの力、思い知れぇぇぇぇ!」
「うふふふふふふ! 私は諦めないよ! この脚で綾宮さんのハートを打ち抜く!」
強化ゴム弾が舞い、電気銃が放たれ、そして釘バッドと脚が激突する。
私は己の未来の為、そして貞操を守り抜くため、必殺の意思を込めて釘バッドを振るい続けた。
遠い、遠いどこかの世界。その小さなアパートでは3人の男の声が響いていた。その3人はTVを前にして騒いでおり、その内1人はTVに繋がれたゲーム機のコントローラーを持って頭を抱えていた。
「だー!? 何だコレ! ボス強すぎ!」
「マジだな。レベル上げなおすか? 攻撃利いてないしSTRを上げるとか」
「くっ、この俺様の知略をもってしても斃せないとは……やはり耐久力を上げるべきだ」
「うーん、俺は知力も上げた方が良いと思う。そうすれば射撃の命中率上がる」
わいわいと騒ぐ3人。そこに新たな声がかかった。
「お前達飽きないな。ずっとやっているだろう」
声の主は黒の長髪の女性だ。エプロン越しでも分かる豊かな胸の彼女は呆れた様に漏らしつつ、3人の前に皿を置いた。
「サンキュー。ってかゴメン、俺何も手伝って無いや」
「気にするな。こういう風にお前に何かしてやるのは嫌いじゃない」
ふふ、と女性が笑うと礼を言った男も『あはは』と照れたように笑った。
「何だこの甘い雰囲気は……」
「そうだなあ。まあ俺はどっちでもいいが。それよりボスを斃す方法だよ。ちょっとグーグレ先生に聞いてみる」
残った2人の男がそれぞれ言葉を漏らす中、女性は腰に手を当てて問う。
「ところでさっきから何のゲームをやっているんだ? 話を聞くにRPGの様にも思えるが」
「ん? 恋愛ゲームだけど」
「…………何?」
女性が眉を潜める。そんな最中でも男たちは話あっていた。
「やはり熊ステージで攻撃力を」
「いや、牛ステージで知力上げれば命中率が」
「……とてもそんな会話には聞こえなかったんだが何かの冗談か?」
「いやマジだよ。ほら」
そう言って男が女性にゲームのパッケージを渡す。女性が訝しげにしつつ見つめたそのゲームのパッケージにはこう記載されていた。
あらゆる困難を打ち砕き、平穏な生活を手に入れよう!
直球恋愛★恋愛革命R
ジャンル:恋愛戦略FPS
このゲームには暴力シーンやグロテスクなシーンが―――――
ね? 恋愛だったでしょ?
と、いうことで完結です。ここまでありがとうございました。
ヒロインのオチはおそらくみなさん予想されていたと思いますが、その通りです。ただし彼女もちょっとクレイジー化。春華様の戦いは終わらない
そして最後の男たちと女性は別作品より友情出演。黒歴史ノートの彼らです。ゲーム世界に転生しているのだから、そのゲームをやる人が確かにいるんだよなあとという安易な考えから登場ですがまあおまけですね。
元のゲームも春華様の頑張りにより若干変化しています。未来は変わった……!
色々好き勝手に書いてジャンル詐欺だとか言われた当作品ですが、皆様の応援のおかげで完結できました。もともとは別作品書いてる息抜きだったのにこっちが先に完結してしまいましたが。まあ元々そんな長くする予定はなかったので、ちょうどいいかなと思っています。
もし気が向いたら別作品(こっちはSF。ただし偽SF)も書いてるので見てやってください。あっちも更新頻度あげるように頑張ります。
最後に、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。




