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14. vs 最終決戦!? あらゆる敵を打ち破り、平穏を取り戻せ編

本日は14.15話と2話更新しています

 愛とは何だろうか。

 ふと、そんな事を考える。言葉通りの意味であるなら、慈しむ思い、可愛がり、大事にし、そして慕う心。色々とあるだろう。きっとそれには色んな形があって、人それぞれが己の中の愛を信じて生きている。だから、他人の愛をそう簡単に否定してはいけない。今まで歩んできた人生の中でその人の価値観が形成され、それに準じた愛を育むのだ。そう、つまりは愛の形は千差万別。それを決定づけるのは――自分自身だ。


「……そうよね。彼女達がクレイジーな愛を育んでも最終的には自己責任!」


 私は自己正当化をマッハで済ませると、準備を終えた強化ゴム弾を自称魔界忍者のセリカ目掛けてぶち込んだ。だが高速で放たれたそれは、セリカの顔面をとらえるより早く、その前に躍り出た愛の聖犬クリストファーこと、クリスの鳩尾にぶち込まれた。


「ぉぅっ!?」


 なんとも奇妙な声を上げてクリスが地に沈む。そんな兄の姿にセリカはぱあっ、と顔を輝かせつつその身に縋りついた。


「お兄様っ、私を庇って下さったのね!」

「いや、お前今そこに転がっている兄の首輪に繋がってた鎖を引いて盾にしたでしょ」

「お兄様の私への愛、感動しましたわ!」

「どう見ても盾にしたよね」

「許しませんわ金色の縦ロールの悪魔! お兄さまになんてひどい仕打ち!」

「聞けコラ」


 勝手に自分の世界に入り込んだセリカ目掛けて再度強化ゴム弾。しかしまたしてもセリカは首輪に繋がれた鎖を引くと、クリスを盾にそれを防いだ。……代わりにクリスの顔に直撃したけど。


「お兄様、そこまでして私を護って……その愛にセリカは応えます!」

「便利な愛だなぁ!?」


 クリスが繋がれた鎖を握りしめつつセリカが迫る。私も強化ゴム弾で応戦するけどその尽くをセリカは肉壁(お兄様)で防ぎ距離を詰めてきた! 不味い!


「滅びなさい、悪魔ァァァ!」

「乙女ゲーキャラの台詞か!?」


 セリカが背負っていた大剣を握り振り下ろす。私は咄嗟にスカートの下から警棒を抜き迎え撃つ。ぎんっ、と鈍い音と腕に衝撃。一瞬の均衡の末、セリカの大剣が、折れた。


「そんなっ!? AKIBAのま○だらけで購入した我が国の伝説となる予定の聖剣が!?」

「それでいいのかアンタの国は!?」


 好機とみた私は武器を失い目を見開いて固まったセリカに渾身の力で警棒を叩き込んだ。


「ぐほぉぉっ!?」


 なんとも……こう、何とも乙女とは言い難い気合の入った声を上げてセリカが吹っ飛んでいく。


「トドメよっ!」


 息の根を止め――じゃなくて止めを刺す為にセリカに向け電気銃を向ける。だがその射線にまたしてもクリスが入り込んできた。


「ちっ、また兄を盾にするのね。何て外道な――」

「違うよ」


 え?


「っ!? 目に光が……!?」


 そう、クリスの目には光が戻っていた。そして彼は妹に強制されてではなく自らの意思で私の前に立っている。これは一体……。


「何故邪魔をするの? あの妹を倒せば貴方は自由よ。鎖に繋がれる事も犬扱いされる事も肉壁になる事も無い」

「そうだね。だけど僕はここに立つよ。僕自身の意思で」

「っ」


 油断していたわ……。例えどんな扱いを受けようとも血の分けた肉親。いざという時はその身を護るというのね。


「僕は日本の文化を知って学んだんだ。WABIとSABI。MOTAINAIにBUSHIDO。SUSHIにFUJIYAMA。HENTAIにnice boat。そのどれもが今まで見た事も無かった素晴らしい世界だったんだ」

「なんか後半変なの混じってる気が」

「僕はとても感動した! だからこそ、僕もそれに習わなければならない。JAPANに……そして日本男児に憧れたこの心。その中に芽生えたBUSHIDO精神がここで妹を見捨ててはいけないと叫んでいる!」

「……成程」


 そういう事ね……。ふふ、良いわ。その意気や良し! 変態変人だらけのクレイジーなこの世界にもそんな漢気ある奴が居たなんてちょっと感動よ!

 クリスを見れば先ほどの光の失った虚ろな笑みは消え、凛々しく、そして意思の籠った強い瞳で私を見返してきている。成程、ならば私も受けて立とうではないか。今まで通り障害は叩き潰す。だが目の前の男の心意気に敬意を払い、全力で相手を――


「そして何よりも! 僕は遂に目覚めたんだ――――萌えに」

「…………………………は?」

「先ほどのセリカは素晴らしかった! まさに日本で見たヤンデレの体現っ、圧倒的体現! セリカを煽るために色んな女性と浮気しまくった甲斐があったよ! あれだよアレ! アレこそが僕が憧れた日本の萌え文化の一つ! ヤンデレ萌えだ!」

「死ねええええええええええええええええ!」


 私は強化ゴム弾をクリスの股間にしこたまぶち込んだ!




「酷い戦いだったわ……」


 女性の敵と成り果てたクリスとクレイジーなその妹を放って私は進む。だがその足取りは重い。何故なら次に来る相手がもう分かっているからだ。ここまで来て、彼が来ない訳が無い。


「そうでしょう? 加持先生」

「流石だね」


 そうしてゆっくりと私の前に現れたのは天ノ宮学園の元教師、加持若彦。彼は不敵な笑みを浮かべて私の前に立ちはだかる。―――――2頭の牛を連れて。


「で、先生も夢を見た訳ですね。謎の老人――いや、世界のISHIが出てくる夢を」

「世界のISHIとやらは良くわからないけど、確かに見たよ。夢の中で老人はこう言ったんだ」


 加持先生は甘い笑みを浮かべる。


「金髪縦ロールの女性を倒せば、私の……いや、私達の望む世界が実現すると」

「望む世界……?」


 これ以上何を望むというのか。2頭の牛を嫁に迎えるという深すぎる業を背負ってまで何を。問う様な私の視線に加持先生は両腕を広げ語る。


「今の日本の法律では僕と佐代子とアンドロメダの婚姻は認められないという……。ならば、それが認められる世界を僕は目指す。人と牛の理想郷。その名は≪(ギュー)トピア≫!」

「んっな世紀末目指されて溜まるかぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 怒りに任せた私が強化ゴム弾を放ち、


「Mow止まらない!」


 加持先生はどこからともなく取り出した酪農用の巨大なフォークでそれを防いだ!


「例え元教え子であっても、俺は彼女達との生活の為には悪魔になれる! 人の心ですら棄てて見せる!」

「もうアンタはとっくに棄てとるわ!?」


 強化ゴム弾を連射しながら私は距離を詰める。応じる様に加持先生もフォークでそれを防ぎつつこちらに迫ってきた。互いの距離が近づいて行き、遂に互いにあと一歩の距離までと至る!


「くたばれズーフィリア(獣姦野郎)!」

「GYU はSHOCK!」


 フォークの一撃。それを紙一重で躱した私は加持先生の腹に渾身の力を込めて警棒を叩き込んだ。


「―――――っ!?」


 声にならない悲鳴をあげて、加持先生は廊下に沈んだ。


「…………空しい戦いだったわ」


 何故彼はここまで狂ってしまったのだろう。きっかけは確かに私が作ったかもしれない。けど突き抜けたのは彼自身の意思だ。私のせいじゃないきっと違うこれはきっと不幸な事故よねそうに違いないそうだと言ってくれ誰かお願いだから。


 ちらり、と廊下に倒れピクピクと痙攣する加持先生に目を向けると、2頭の牛が彼に近寄り、そして――――糞をし始めた。


「………そう、それがあなた達の愛の形なのね」


 愛の形は千差万別。私はその言葉を反芻しふっ、と笑うと、氷帝を追う為に再び走り始めた。

 背後からは香ばしい牛糞の香りが漂っていた。




 ロック○ンのΣステージ的な復活ボスを相手に大分時間を使ってしまった。私ははやる気持ちを抑えながら氷帝と神山姫季の姿を探す。そして遂にその姿を捕えた。だが、


「しまった……!」


 既に氷帝は神山姫季に接触している。間に合わなかったか!? いや、まだよ、まだ時間はある筈。何としてでも神山姫季から氷帝を引き離す! 

 だがそんな思いも空しく、氷帝は神山姫季に手を伸ばし彼女に告げた。


「神山姫季! この俺と共にこの学園に秩序を取り戻そう!」

「えっと……ごめんなさい!」


 あれ?


 悩む素振りも無く神山姫季が拒否をした? その予想外の事態に思わず私は急ブレーキし、二人の近くで静止した。


「な、何故だ!? 君を手に入れる為の手段は全て打った筈! 何が気に食わないんだ!?」


 いや、本人前にして手段とか言うなよ。


「うん……。確かに今の氷帝君の姿、あらゆる異常性を通り越した芸術的ド変態である意味素敵だと思うよ?」


 良いのかよ!? どんな感性だ!?


「ならば何故だ! 何故駄目なんだ! 君は、君は俺と一緒にあの悪魔の女、綾宮春華を倒すんだ!」

「氷帝君は生徒会長なんだよ? 生徒を倒すとか言っちゃ駄目だよ」

「いや、しかしその為に俺は……」

「それに、綾宮さんは私の大事なクラスメイト。そんな人を倒すだなんて、最低だよ」

「っ……!」


 お、おおう? なんだこの状況。神山姫季が思いのほか私寄りな気がする。

 驚きながら様子を見つめる私に神山姫季は視線を移し、ふわり、と可愛らしい笑みを浮かべた。

 だが氷帝は納得がいかないらしい。


「だが、綾宮春華は悪魔の女だ! 彼女によって何人もの生徒や教師が模範生との道を外れ、常識を外れ、人の道すら外れてしまった者だっているんだぞ! 君はそんな悪魔を放っておけるのか!?」

「いや、アンタも大概常識から外れた格好してるけど」


 天を突き刺すトサカヘッドにフリル全開のピンクの学ランを着た氷帝が取り乱した様に叫ぶが神山姫季は静かに首を振った。


「そんな言い方、軽蔑するよ氷帝君。綾宮さんは話すととても楽しい人だよ? オリエンテーションの時は私を護ってくれたりした凄いいい人。みんな怖がって話そうとしないけど可哀想だよ。私は綾宮さんを信じる」

「神山姫季……」


 この言葉は私の物だ。正直言って少し感動した。確かに私は色々やってきた。前世の記憶が目覚める前は最悪な我儘人間だったし、目覚めてからは周りからあえて距離を取っていた。そして周りも私に触れたくなくて同様だった。そしていつしか話す相手は侍女の理奈と美奈ばかりだった。

 だけどそうだ。彼女だけは、神山姫季だけは私と出会っても笑顔で話してくれる相手だった。

 神山姫季は笑顔を浮かべたまま私の方へ向く。氷帝は呆然とした顔でそれを見つめていた。


「綾宮さん、私、もっと綾宮さんの事が知りたいな。だから……ね?」


 そうして彼女は私に手を伸ばしてきた。その手に、私は今度こそ感動してしまう。ずっと、ずっと私は彼女の攻略キャラを斃してきていたというのに、彼女はそんな私に手を差しのばしてくれているのだ。その屈託のない天使の様な笑みに私は心を打たれた。ああ、確かに彼女はこの世界のヒロインだ。この笑顔に攻略キャラたちが惹かれる理由がわかる。


「?」


 神山姫季は笑顔を浮かべたまま首を傾げている。ああ、いけない。彼女は手を差しのばしてくれているのだ。あそこまで言われて、こうまで歩み寄ってくれた相手を無下には出来ない。だから私は彼女の手を握った。暖かなそれは友情の証だ。


「神山姫季……いえ、神山さん。貴方は私の……友じ――」

「うん。これで私達は――恋人だね」


 ………………………………へ?


「やったぁ! いつ言おうか悩んでいたけど今で大正解だったんだね! さあ綾宮さん! 私と一緒にイチャイチャしよう!」

「え? え、ええ? ちょっと待って、待て!?」


 何だ!? 何が起きている!? 

 混乱に満ちた私の前で神山姫季は満面の笑みを浮かべた。


「綾宮さん、初めて会った日私に言ったよね? 『男なんて駄目よ』って」

「い、言ったっけ?」

「うん! あれ以来私はあの言葉をずっと考えてた。そして綾宮さんの言うとおりだったよ! 委員長は良い人だけどド変態だったし強がっていた不良君は綾宮さん達の前に敗れた! 朱鷺君ですら逃げ出そうとした熊すら綾宮さんは仕留めたし、海外のオタクとも綾宮さん達は渡り合った! それに皆に人気だった加持先生も突然牛に傾倒したって聞くし、やっぱり男の人って駄目なのかなって」

「いやいやいやいや!? それを基準にするのはどうよ!?」

「けど綾宮さんは違った。圧倒的なそのPOWER! それにメイドさん達を操る指揮力! 手段を選ばない大胆さ! こんなに頼りになる人はいないって思った時、私は気づいたんだ」


 神山姫季はふふ、とはにかむと頬を染め、


「私はこの人に恋をしてるって」

「……………………」


 思考が、停止した。

 え? なにこれ? どういう事? 何かおかしくない? おかしいわよね? だってこれ乙女ゲーでしょ? 確かに攻略妨害したけどどうしてこうなったっ!?


「さあ、綾宮さん! 私と一緒に添い遂げよう! 大丈夫、私は責めも受けも行けるから! どんなニーズにも万事OK!」

「あ……」

「あ?」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 混乱する思考を制御できず、私はとにかく全速力でその場から逃げ出した!


氷帝置いてけぼり


そしてついに現れたラスボスと超えた裏ボス

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