第6話『渡辺先生からのご褒美』
「写真撮影終わったね。みんな席に着いてー」
写真撮影が終わってすぐ、渡辺先生が教室に戻ってきた。俺達は先生の指示通りに自分の席に着く。
渡辺先生は両手にカゴを一つずつ持っており、「よいしょ」と言ってカゴを教卓に置いた。あの2つのカゴに何が入っているのかはだいたい想像がつく。
「西山君、千尋ちゃん、賞状を渡してくれるかな。額縁に入れて飾るよ」
「分かりました」
「はーい!」
西山と佐伯さんは渡辺先生に賞状を渡した。額縁に入れて飾るのはいいなって思う。
「それでは、終礼を始め……る前に、球技大会を頑張ったみんなに飲み物のご褒美をあげます!」
渡辺先生が明るい笑顔でそう言う。そのことに、クラスメイトの多くが「やった!!」などと喜びの声を上げる。優奈も「嬉しいですっ」と笑顔で言う。
やはり、あのカゴに入っているのは飲み物だったか。
渡辺先生は球技大会や体育祭など、学校のイベントが終わったときに頑張ったご褒美に飲み物をプレゼントしてくれるのだ。
「飲み物のラインナップは5種類あるよ。ストレートティー、ミルクティー、レモンティー、ピーチティー、コーヒーね」
紅茶4種類にコーヒーか。飲み物をご褒美でくれるときは今のようなラインナップが多かったな。
「美咲先生に頼んで家庭科室の冷蔵庫に入れていたから、よく冷えてるよ」
渡辺先生のその言葉に、クラスメイトの何人かが「おおっ」と言葉を漏らす。
そういえば、これまでもご褒美でくれた飲み物はよく冷えていたな。百瀬先生は家庭科の教師で、家庭科室で活動するスイーツ研究部の顧問。そんな百瀬先生と仲がいいからできることだろう。
今日は外で何試合もサッカーをしたし、優奈達が出場した女子バスケットボールを中心にクラスメイトの試合をたくさん応援した。なので、冷たい飲み物をもらえるのはとても嬉しいし有り難い。
「1人1本ずつ好きなものを取ってね。ここで飲んでもいいし、持ち帰って家で飲んでもいいよ。じゃあ、飲みたいものが決まった人は取りに来てね」
『はーい!』
元気良く返事をして、だいたい3分の2くらいのクラスメイト達が席から立ち上がって教卓へと向かう。その中には西山、井上さん、佐伯さんもいる。
俺は……コーヒーにしようかな。紅茶も好きだけど、コーヒーはもっと好きだから。ちなみに、これまでも飲み物のご褒美でコーヒーがあるときはコーヒーにすることが多い。
飲み物が決まったので、俺は席から立ち上がる。その際に優奈の方を見ると……優奈は迷っている様子だ。ちなみに、優奈は今のように複数ある中から選ぶときに迷うことが多い。
「優奈……どれにするのか迷っているのか?」
「はい。どの飲み物も好きなので」
苦笑いをしながらそう言う優奈。やっぱり迷っていたか。そういうところも可愛い。
「そうか。優奈らしいな」
「ふふっ。和真君は何にするんですか?」
「コーヒーにするよ。一番好きだからな」
「コーヒー好きの和真君らしいです」
「ははっ。コーヒーが大好きだから、ご褒美にコーヒーがあるとコーヒーを選ぶことが多いよ。あとは、普段はそこまで飲まなかったり、珍しかったりするものを選ぶこともあるかな」
あくまでも俺の選び方だけど、これが優奈が飲み物を選ぶことの一助となればいいな。
「私、決めました。ピーチティーにします」
「ピーチティーか」
「はい。紅茶はもちろん、優しい甘さや香りの桃も好きで。コーヒーやストレートティー、ミルクティーは普段からお家で淹れて飲みますが、ピーチティーはたまに市販のものを買うくらいですから。なので、ピーチティーにしようかなと。レモンティーもいいですけど、今は桃の甘さを味わいたい気分です。和真君の『普段はそこまで飲まなかったり、珍しかったりするものを選ぶこともある』という言葉がきっかけで決められました。ありがとうございます!」
優奈はニッコリとした笑顔でお礼を言ってくれる。
「いえいえ。何にするか決められて良かったよ。じゃあ、取りに行くか」
「はいっ」
優奈と俺は教卓に向かう。
教卓に置いてあるカゴを見ると……結構な人数のクラスメイトが飲み物を取った後なので数は少ない。ただ、幸いにもどの種類の飲み物も残っている。良かった。
希望通り、俺はコーヒー、優奈はピーチティーの紙パックを一つ取り、自分の席に戻った。
今飲んでもいいとのことなので、俺達はさっそく飲むことに。
付属しているストローを袋から取り出し、紙パックの飲み口に刺す。
「いただきます」
「ピーチティーいただきますっ」
俺はコーヒーを一口飲む。
よく冷えているので、コーヒーが口に入った瞬間、冷たさが口の中に広がる。その後にコーヒーの苦味と、ミルクと砂糖の甘味が感じられるように。コーヒーの苦味がしっかりしているし、甘さもちょうどいいな。普段はブラックで飲むことが多いけど、今日はサッカーをしたので甘さがとてもいいなって思える。
ゴクッと飲み込むと、コーヒーの冷たさが全身に優しく広がっていく感じがした。
「コーヒー美味しい」
「ふふっ、そうですか。ピーチティーも美味しいですっ。ピーチティーにして良かったです」
優奈はニッコリと笑いながらそう言うと、ピーチティーをもう一口。笑顔で「ちゅーっ」と吸う姿がとても可愛らしい。
教室の中を見渡すと、大半のクラスメイトはご褒美の飲み物を美味しそうに飲んでいる。西山、井上さん、佐伯さんも。3人は……西山はストレートティー、井上さんはミルクティー、佐伯さんはレモンティーか。見事にみんなバラバラだ。
「あの、和真君。一口交換しませんか?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございますっ」
優奈は嬉しそうにお礼を言った。優奈が俺とは違うピーチティーを選ぶと言った時点で一口交換する展開になると思っていたよ。
優奈と飲み物の紙パックを交換する。
「コーヒー一口いただきますねっ」
「どうぞ。ピーチティー一口いただきます」
「はいっ、どうぞ」
俺は優奈のピーチティーを一口飲む。
紅茶の香りはもちろん、桃の優しい甘さと香りもいいなぁ。美味しい。
あと、コーヒーを飲んだ後だからなのか。それとも、優奈が口を付けたものだからなのか。結構甘さが強く感じられた。
「コーヒーも美味しいですね」
「美味しいよな。ピーチティーも美味しいよ。一口くれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそありがとうございました」
お礼を伝え合って、お互いに飲み物の紙パックを返した。
「みんな取ったね。じゃあ先生も……ミルクティーが多く残っているから、ミルクティーを飲もうかな」
そう言い、渡辺先生はカゴからミルクティーを取り出して飲む。
「うんっ、冷たくて甘くて美味しい。冷やして良かったぁ」
お気に召したようで渡辺先生は満面の笑顔。そういえば、去年も飲み物のご褒美を渡したときは先生も一緒に飲んでたな。
「じゃあ、飲みながらでいいから終礼始めるね。今日は球技大会お疲れ様でした! できるだけ多くの試合を見に行ったけど、みんなの頑張る姿に先生は感動したよ! そして、男子サッカーと女子バスケットボールに出場したみんな、共に第3位おめでとう!」
持ち前の明るい笑顔でそう言うと、渡辺先生は大きく拍手する。そんな先生を見てか、クラスメイト達はみんな拍手する。もちろん、優奈と俺も。中には「おめでとう!」と言うクラスメイトもいて。とてもいい雰囲気だ。
「今日は夕方までの日程だったけど、いつもよりも教室にいる時間が短かったので教室掃除はなしね」
渡辺先生がそう言うと、佐伯さんの「よしっ」という声が聞こえた。今週は佐伯さんのいる班が掃除当番だからな。良かったな、佐伯さん。
「明日からはまた午前中のみの授業の日程に戻ります。あとは……カゴにミルクティーとストレートティー、コーヒーが1本ずつ残っているから、欲しい人は前に来て。何人もいたらジャンケンだよ」
その後、ミルクティーもストレートティーもコーヒーも複数人希望者がいたので、それぞれジャンケンによってもらう人を決めることに。
ちなみに、ミルクティーは佐伯さんが参加し、ストレートティーは西山が参加。2人ともジャンケンを制して飲み物を勝ち取った。さすがはそれぞれキャプテン的な立場で、クラスを第3位まで導いただけのことはある。
「じゃあ、飲み物が全部行き渡ったから、これで終礼を終わります。また明日ね。委員長、号令をお願いします」
その後、クラス委員長の舞川さんによる号令で、今日も放課後になった。
「和真君。この後どうしますか?」
「飲み物が残っているし、教室掃除もないからここで少しゆっくりしようかなって思ってる。優奈はどう?」
「私もゆっくりします」
「じゃあ、一緒にゆっくりしようか」
「はいっ」
俺達は引き続き席に座って、自分の選んだ飲み物を飲む。
その直後、井上さん、佐伯さん、西山が飲み物を持ちながら俺達のところにやってきた。ちなみに、佐伯さんと西山が持っているのはジャンケンで勝ち取ったものではなく、最初に選んだ飲み物だ。井上さん、佐伯さん、西山は特にこの後は予定はないので、飲み物を飲みながらゆっくりするとのことだ。
「高校最後の球技大会楽しかったぜ! 長瀬達と一緒に今年も3位決定戦までプレーできたしな。それに、目標にしていた過去最高成績の3位になれて嬉しいぜ! サッカー部の人間としてちゃんと得点も決められたし。本当に良かった」
西山はとても爽やかな笑顔でそう言うと、白い歯を見せてニカッと笑う。
西山とは3年連続で一緒にサッカーをプレーしたけど、今年は去年まで以上に活躍していたな。さすがはサッカー部のエースだった。
「西山が引っ張ってくれたおかげで3位になれたと思うぞ」
「そう言ってくれて嬉しいぞ。ありがとな。俺は長瀬のキーパーが良かったのも3位になれた理由だと思ってるぜ」
「そうか。ありがとう。……準決勝で負けたときは去年と同じになっちゃうかもしれないって思ったけど、3位になれて良かった。最後の球技大会を勝利で締めくくれて本当に良かった。そういう結果になったのは一緒に戦った西山達はもちろん、優奈や井上さんや佐伯さん達の応援、そして優奈のおまじないのおかげだと思ってる。優奈達の応援もしたし、今までで一番楽しい球技大会だった」
そう話す中で、サッカーの試合でのプレーはもちろんのこと、優奈達の応援やいいプレーをしたときに褒めてくれた言葉、試合前に毎回かけてもらった優奈からのキスのおまじない、優奈達が出場した女バスの試合を思い出す。キスも思い出したのでちょっとドキドキする。
優奈達はみんないい笑顔になって俺のことを見ている。ただし、優奈は頬がちょっと赤らんでいるけど。俺と同じでおまじないのキスを思い出したのかな。女バスの試合前には俺が優奈におまじないのキスをしたし。
「私も今までで一番楽しい球技大会になりました。今年も萌音ちゃんと千尋ちゃんと一緒にバスケができましたし、3位になれましたからね。和真君や西山君達に応援してもらえましたし、和真君からおまじないのキスもしてもらえましたしね。サッカーなどの応援もしましたし、和真君のかっこいい姿を見られましたから盛りだくさんの一日でした」
優奈はニコニコとした笑顔でそう言った。優奈にとっても一番楽しい球技大会になって良かった。その理由に俺が関われているのが嬉しい。
今日の球技大会では今のような笑顔をたくさん見られたな。優奈が出場した女バスも、俺が出場したサッカーも何度も勝ち上がって3位になれたし。優奈の笑顔を思い出すと胸がとても温かくなる。
「あたしも今までで一番楽しい球技大会になったよ! 何試合もバスケができて、過去最高の3位になれたから! 長瀬が言うように、高校最後の球技大会を勝利で締めくくれて本当に良かったよ! 長瀬や西山達が出たサッカーも3位になったしね」
佐伯さんはとても嬉しそうな笑顔でそう言った。佐伯さんも今までで一番楽しい球技大会になったか。佐伯さんも過去最高の結果を出したいと言っていたから、3位になれて本当に嬉しいのだと思う。西山と同じく、佐伯さんはチームを引っ張っていたな。
「私も一番楽しい球技大会だったわ。千尋や優奈達と一緒に試合に出て3位になれたから。長瀬君や西山君達が出たサッカーも面白かったし。あと、試合前にチームメイトや夏実先生や美咲先生のおっぱいを堪能して、いつもの学校よりもたくさん堪能できたからね」
井上さんは満足そうな様子で言った。井上さんも今までで一番楽しい球技大会になったか。その理由の一つにいつもよりも胸を堪能できたことを挙げるのが井上さんらしい。
「先生も楽しかったよ。サッカーとバスケットボールが3位になってくれたのもあって、今まで以上にたくさん応援できたからね」
気付けば、紙パックのミルクティーを持った渡辺先生が俺達のところに来ており、明るい笑顔で今日の球技大会の感想を言っていた。先生……うちのクラスの試合のときには結構大きな声で応援していたもんな。勝ったときには凄く喜んでいたし。クラスで一番たくさん応援した人は先生だろう。
それからも、渡辺先生からのご褒美の飲み物を飲みながら、今日の球技大会のことについて談笑するのであった。
明日公開のエピローグでこの特別編は完結します。
最後までよろしくお願いします。




